☆第十二話 初テント!☆
「まずは…テントを張るね」
「は~い♪ お手伝いします~♪」
管理人氏に用意をお願いしたのは一番大きなサイズで、いわゆる家族用の、五人まで寝られるタイプだ。
このサイズになると、収納状態からワンタッチで展開できる簡易タイプではなく、ある意味で古式ゆかしい「自分たちで組み立てる」方式である。
「ええと…」
長い骨パーツとテント本体と、ロープなどの道具を担いだ育郎は、逞しい山男というより、キャンプ地を襲ったUMAの如く。
「…格好良い~っ♪ オジサンっ、一枚っ良いですかっ?」
「? うん…」
恋人が楽しそうに写真を撮ってくれるのは嬉しいけれど、亜栖羽と同じく初キャンプな育郎には、特に画になるようなスタイリッシュ・テント張りなんて出来ない。
だけど亜栖羽的には、ミッキー嬢たちに自慢したいベスト・ショットなのだろう。
「こうですか~?」
説明書と向き合う育郎が骨パーツを組み立てたり、亜栖羽がテントの布へと通したり。
「うん。それで…」
土の上に防寒材や薄いクッションを敷いたり、周囲の枝へロープを結んだり堅い地面へロープを繋ぐペグを打ち込んで、全てのロープをバランスよく引っ張ったり引っかけたりすると、テントが完成。
「よし、出来たね♪」
「わぁ~♪ テント おっき~♪」
漫画記号の家みたいな五角形デザインの濃い緑色なテントは、入り口のカバーを上げて中へ入ると、小柄な少女なら十人以上は余裕で寝転がれる感じだ。
育郎的には、このまま部屋へとお持ち帰りをして、ずっと飾って眺めていたくなってしまう、天使の寛ぐテントである。
広いスペースで、亜栖羽が育郎を招く。
「オジサ~ン♪ 中~ 広いですよ~♪」
「そ、そう…?」
少女に呼ばれて、嬉しいのに恥ずかしくて、テントの前でモジモジしてしまう育郎の姿は、人間のテントを見付けたけれど入ろうかと戸惑うグリズリーを連想させたり。
「お、おじゃま、いたしますです…っ!」
意を決して、巨漢青年は身を屈め、テントへ侵入。
纏っている冬着がキャンプ用の人工色ではなく、いつものシックな色合いだったら、猟師が大騒ぎをしていたかもしれない。
「おおぉ…僕が入っても、屈むだけで歩ける…っ!」
キャンプ道具のお店のHPなどで、テントの画像は見ていたけれど、実際に入ると、その広さが実感できた。
入口は少し腰を曲げたけれど、中は天井も高くて床面も広くて、育郎でも十分に寝転がれる程である。
更に、青年が驚いたのは。
「わぁ…光源が 普通に電気だ…!」
テントを馬鹿にしていたワケではなく、育郎の想像するテントは、明かりがロウソクやランタンとか、そういう小さな照明器具だった。
「明るいですね~♪」
「そういえば、組み立てている時にバッテリーも組付けたけど…この為だったんだなぁ…」
更に亜栖羽が。
「オジサン、窓です~♪」
亜栖羽が育郎へ微笑みながら、壁面の布をパサっと開けた。
「ほ、本当だ…!」
入口面とは別の面に、ジッパーで開閉できる大きな窓があり、目の細かいネットで虫よけ対策もバッチリだ。
「テントに窓があるなんて、知らなかったよ」
「ホントですよね~♪」
二人で並んで座って、窓の外を見ると、樹々の高い森が見える。
「わあぁ~♪ なんか~、本格的なキャンプ~! って感じ しますね~♪」
「ね~♪」
テントという空間で、亜栖羽と二人で自然の景色を眺めていると、なんだかドキドキしてきて、同時にホゥ…っと安心をしたり。
「…こういう空間、良いなぁ…♡」
窓の景色やテントの中で写メを撮ったり、初めてのテントで、二人とも気分が上がった。
「でへへ…ハっ–そうだっ、荷物を…っ!」
最初にテントを張ったのは、持ち込んだ荷物をテントの中へ片付けておく為である。
育郎が肩で担ぐ程に大きなカバンを、テントの奥へと押し込んだ。
「荷物が入ると~、もっと キャンプ~っ感が、強くなりますよね~♪」
「あはは、本当だね♪」
準備が整って、二人はテントの外へ。
「それじゃあ、遅めのお昼ごはんまで まだ時間があるし、山の中 歩こうか♪」
「は~い♪」
亜栖羽と育郎は、キャンプ場内の山の散歩道へと向かった。
~第十二話 終わり~
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