☆第十三話 秋の山☆


 キャンプ場の川に架かる橋は、木製で幅が広く、手すり部分は太い枝がそのままな、手作り感も満載な造りであった。

 ザラザラした手触りを、亜栖羽は楽しそうに、小さな掌をスリスリさせている。

「樹がそのまま なんですね~♪」

「そうだよねぇ。僕も、こういう橋を渡るのは、初めてかなぁ…♡」

 思わず「♡」な気持ちになったのは、もちろん手すりの触り心地などではない。

 枝の手すりを撫でる秋の少女が、陽光と川面にキラキラと照らされて、この上なく天使そのものだからである。

 亜栖羽が育郎込みな景色の写真を収めるように、育郎も、亜栖羽を被写体とした写真を、いつものように撮りまくっていた。

 橋を渡ると、散歩道も景色も、森と溶け合ってくる。

 二人は、山の中の散策という気分が、更に高まってきた。

「森の中の道~、なんだか 童話みたいですね~♪ あ、少し先で 二手に分かれてますよ~♪」

 土が剥き出しな散歩道は、大人三人分くらいの道幅で、山の中へと続いている。

 地面の左右は、すぐに野草などが生い茂り、または巨木の根っこが地表にグネりと露出をしていたり。

「あの分かれ道だけじゃなくて、ここの散歩道は 幾つかのコースになっているみたいだよ」

 そう言って、育郎は管理人氏から貰ったパンフレットを、少女と確かめる。

「本当だ~♪ 迷路みたいですね~♪」

 育郎たちが渡って来た橋をスタート地点とすると、森の中で、いくつかの枝分かれをしている山道だけど。

「道そのものは、流れに沿って別れているみたいだから、道から外れたりしない限り、このキャンプ場へ戻って来られるように整備されている感じだね」

 長い距離だと、朝に出発をして夕刻には帰って来られる距離で、短いとキャンプ地が見える範囲内である。

 最長距離は、日帰りな育郎たちにとって時間的にも無理だけど、最短距離の一本道も、物足りない感じ。

「う~ん…ちょっと枝分かれしてる道まで、歩いてみようか」

「は~い♪」

 枝分かれのコースを確認して、二人は森の中を進んだ。

「くんくん…森って、こういう香りがするんですね~♪」

 微風が吹き抜ける山道には、緑の香りに混じって、湿気や、何かの生物っぽい香りや、更に有機物的な香りが漂ってくる。

「そうだね。むしろ緑の香りが強いのは、整備されている林とか だろうね」

 という、育郎の何気ない一言に、亜栖羽が気になる単語があった様子。

「あ、そういえばオジサン~♪ 森と林って、何か違うんですか~?」

 亜栖羽が疑問に思ったように、森と林の違いとか、大人でもよく知らない人は普通にいる。

「うん。森は、自然のまま人間が手を着けていない場所で、林は、人間が計画的に植林とかをしている場所だよ」

 これも、かつて田舎の学園祭で発表をした、研究内容だ。

「そうなんですか~♪ 流石オジサン~、何でもゴザレですね~♡」

 と感動をした少女は、訊くと何でも答えてくれる青年を、尊敬のキラキラ眼差しで見上げた。

「そ、そうでもないよ…でへへ♡」

 愛しい恋人の輝く視線が眩しくて、太陽に焼かれるイカロスの翼みたいに、強面が蕩ける。

 木々の間から陽が射す散歩道は、秋が深まりつつあるまだ柔らかい寒さと、ほのかに暖かい陽光のコントラストが、歩く身体に気持ち良い。

 お客さんや地元の野生哺乳類などが踏み固めた散歩道は、落ち葉を踏んだ時の、クシャっと乾いた音なども、心地良かった。

「落ち葉~♪」

 亜栖羽に習って、育郎も、綺麗な落ち葉を拾ったり。

「あ、オジサンっ、リスです~っ♪」

「えっ?」

 亜栖羽が指さす樹上を見ると、一羽のリスが、団栗(どんぐり)の実を齧っている。

「すごい早さで 食べてますね~♡」

「あはは、可愛いよねぇ♪」

 スマフォでリスの写真を撮る亜栖羽を撮る育郎。

「オジサンも、撮りましょう~♪」

「?」

 どういう事かと思ったら、少女の導きで青年は大樹の下へと位置し、亜栖羽のアングルで、育郎とリスのコラボ写真を撮影。

「オジサンとリスです~♪」

 嬉しそうに、亜栖羽が写真を見せてくれる。

「う…」

 ほぼ真下からのアングルで、育郎の巨体が無駄に遠近法で、巨漢感がマシマシ。

 更に煽りの強面は、まるで森の魔神のようだ。

 リスは写っているけれど小さすぎて、強面巨漢の存在感を前に、完全敗北をしていた。

「なんだか…リスが可哀そうに見えて来る…」

「そうですか~?」

 そんな写真だけど、亜栖羽はとても満足そう。


                    ~第十三話 終わり~

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