☆第十四話 免許なしでも☆


 山道を歩いて、最初の分岐へ立つ育郎と亜栖羽。

 分岐点には、手作りな木製の立て札が立ててあった。

「え~とぉ…右側がキャンプ地へ戻る道で~、左側が森の中 ですね~♪」

 右側の木々の間からは確かに、先ほど二人が橋を渡った川とキャンプ場が、見えている。

 折角の山なのに、すぐに戻ってしまっては、勿体ない。

「一本、左の道を 行ってみようか」

「は~い♪」

 手を上げて笑顔も眩しい、森の天使だ。

 思わず見惚れ、そして思い出す。

「でへへ…あっ、その前に…っ!」

 育郎は、背負っていた小さなバックパックから、少女の掌よりは大きいサイズな、小さい箱を取り出した。

「これ、さっき管理人さんから 許可を戴いたんだ」

 青いパッケージを見て、亜栖羽は驚く。

「ぅわ~っ、これって ドローンですか~っ?」

「うん♪」

 育郎の掌くらいの箱から取り出されたのは、亜栖羽の掌にも乗せられる程の、小型ドローンだった。

「すっご~いっ! 私っ、ドローンって本物っ、初めて見ました~♪」

「これは トイドローンっていって、専門家でなくても 誰でも遊べるタイプなんだよ」

 ホビードローンとも呼ばれる小型ドローンは、ホビーショップでも一般販売をしていて、誰でも手軽に購入が出来る商品だ。

 サイズも価格も色々あって、しかも値段のわりに便利な機能も搭載されていて、ドローン初心者や子供にも、うってつけなカテゴリーである。

「先週、見つけて 買ったんだ♪」

 育郎はロボ好きであり、こういったホビーには、ワクワクするのだ。

「あ、それじゃ~オジサンっ、免許 取ったんですかっ?」

 ドローンを目の前で見たのが初めてだからか、亜栖羽も興奮気味。

「あ、ううん。僕も ドローンって、車みたいに免許が必要かと思ってたんだけど…ちょっと 違ってたんだよね」

 ドローンの操縦そのものには、免許は必要無い。

 ただ、災害現場や様々な調査などの本格的な場では、専門家が使用する専門職とも言えるジャンルでもあるのだ。

 なので、都会や混雑地、飛行禁止区域などで特別に使用をする場合、自治体などの許可が必要である。

 その際に、操縦者が免許を取得している方が、手続きや身元保証など、なにかと便利なのだ。

「ドローンの免許は、国家資格もあるから 仕事の際の身分証にもなるんだって。で、僕が買った こういうドローンは、専門家が使用する高価で高性能なタイプじゃないから、たとえば このキャンプ場での飛行許可さえ貰えれば、僕たちでも飛ばす事が出来るんだって」

「そうなんですか~♪」

 育郎の説明を聞きながら、亜栖羽は掌サイズのトイドローンを、指先でナデナデ。

 白い本体に、四方へ伸びたプロペラにはガードが装着されていて、動画などで見るシャキっとした大型ドローンに比べても、なんだかデフォルメされたような愛嬌があった。

「この子を、森の上とか 飛ばすんですか~?」

 速く飛ぶところを見たいらしく、スマフォでドローンを撮影しながら、ワクワク愛顔が輝いている。

「うん。このタイプでも、センサーとかカメラとかが搭載されてて、森の上とかから…あ、亜栖羽ちゃんをっ…撮影っ、しようかなって…♪」

「えぇ~♪」

 初めての空撮に、ちょっと恥ずかしそうだけど嬉しそうな亜栖羽と、デレデレしまくる育郎だ。

 トイドローンを地面へ置いて、育郎が万が一の盾となって、亜栖羽と共に三メートルほど後ろへ下がる。

「それじゃあ…」

 育郎の片手で収まりきる程の小さなコントローラーを手にして、飛行準備に気合いを入れると、亜栖羽もジっと緊張をしたり。

 購入してから、部屋で何度も練習をしている。

 けれど、亜栖羽の前で格好悪い失敗はしたくないと、緊張で筋肉が盛り上がる育郎だ。

 凄まじい気合の強面は、視線の先のドローンが恐怖で爆発してしまいそう。

「………っ!」

 スイッチを入れると、四発のプロペラが「ヴイイイィィィっ!」と甲高い音を響かせ、一瞬で高速回転。

「よっ…」

 大きな掌の野太い親指で、細い操縦桿をチマチマ動かすと、トイドローンは見えない糸で引っ張り上げられるように、数舜で三メートル程まで上昇をした。

「わぁ~、オジサンっ、飛びました~っ♪」

「う、うん…っ!」

 初心者の操縦で前後左右へとフラフラしながら、トイドローンは木々の間の青い秋空へと、飛び出してゆく。


                    ~第十四話 終わり~

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