☆第十五話 優秀な子☆


 フラフラしながら空を飛ぶトイドローンは、森の樹々の上付近、育郎たちの五メートルほど上空へ到達。

「えぇと…」

 揺れながら滞空をしていたドローンは、育郎の操作によって、ピタりと安定をし、フラ付きが無くなった。

「これで良し…」

 二人の頭上で揺れる事なく滞空をしているドローンに、亜栖羽は素直な感激を表す。

「わあぁ~っ、綺麗に留まってます~っ! オジサンっ、ドローンのプロだったんですかっ?」

「え、あ、いや…あれはその、機能といいますか…」

 少女の感動を裏切るようで、なんだか心が痛むけれど、愛しい少女に嘘を吐くのはもっと嫌なので、青年は巨体を縮こませつつ説明をした。

「あれはその…ドローンのスイッチで自動的に滞空させられるんです…。それで、後は僕たちの移動に合わせて、付いてきてくれるんです…」

「そうなんですか~♪ おりこうさんなんですね~♪」

 コントローラーを見せながらの説明に、しかしあまりメカには強くない亜栖羽だけど、ドローンが優秀だという事は理解出来た様子。

 愛嬌を感じたドローンへと、笑顔で手を振ったり。

「あと、本体に搭載されているカメラで、僕たちを撮影もしてるんだよ」

「え~っ、そうなんですか~? やっほ~♪」

 再び、ドローンへ笑顔で手を振る、愛らしい少女だ。

「それじゃあ、亜栖羽ちゃん。このまま散策 続けようか」

「は~い♪」

 育郎たちがまた歩き始めると、ドローンは本体のセンサーやカメラで、入力された高度から二人を追いかけて、撮影を続ける。

 育郎のスマフォとも連動させているので、撮影された映像は、スマフォへと自動転送もされていた。

「えへへ~♪」

 楽しそうな亜栖羽は、ときおり後ろを振り仰いで、ドローンへ手を振ったりしている。

 今日の撮影は、育郎としても超楽しみなポイントがあるのだ。

(いつもは殆ど見る事の出来ない、真上からの亜栖羽ちゃんとかっ、斜め後ろ上方からの亜栖羽ちゃんとかっ、今みたいに上空へ向けられた亜栖羽ちゃんの笑顔とかっ、お宝動画が満載になるぞっ!)

 背の高い育郎だけど、デートの際は、盾となって人混みから亜栖羽を護るか、亜栖羽が隣を歩いてくれる事が、殆どである。

 離れた距離での上からアングルとか、今まで見た事がない。

(ドローン買ってっ、本当に良かった…っ!)

 まだ見ぬ映像に、心を震わせる青年だった。

「この辺りだと~ キャンプ場は、見えない感じですね~♪」

「そうだよね。もう森の樹々で、キャンプ場との間が 遮られちゃってるもんね」

 小柄な亜栖羽が、見上げながら問う。

「オジサンの身長でも、キャンプ場は見えないですか~?」

「あはは、管理棟も見えないよ」

 とか、陽射しと葉陰を楽しみながら歩いていると、頭上のトイドローンが、育郎の前へと降りてくる。

「おっと…」

 青年が出した掌の上へと、ドローンは静かに着地をした。

「あれ~? ドローンちゃん~、何かあったんですか~?」

 心配そうな愛顔も可愛いと、心配をする亜栖羽につい見惚れてしまう育郎である。

「あ、ううん。そろそろ バッテリーが切れかかってるんだよ」

 トイドローンのバッテリーは、本体に合わせて小型で軽量なので、一度の満タン充電でも、飛行時間は五分ほど。

 しかも撮影をしながらなので、実働時間はもっと短くなってしまう。

「それで、自分で下りて来たんですか~?」

「うん」

 墜落防止機能でもあるけれど、それはあまりロマンティックな言い方でもないと思い、あえて細かくは説明をしなかった育郎だ。

「すっご~いっ♪ お腹が空いたら自分で下りて来るとか~っ、超おりこうさんじゃないですか~♡」

 僕の選択は正解だった。

 と、育郎は亜栖羽の感動笑顔に、強面が優崩壊を引き起こしたり。

 一昔前なら高級機種にしか搭載できなかった機能も、小型軽量になって、いくつかはトイドローンにも搭載されるようになったらしい。

「バッテリーは予備があるから、交換して また飛ばそう」

「は~い♪」

 育郎がバッテリー交換をする間、亜栖羽は、大切にコントローラーを預かった。


                    ~第十五話 終わり~

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