☆第三十七話 天使の吸血?☆
美しい所作で、優雅に電動スクーターを滑らせながらお婆ちゃんが走り去ると、亜栖羽たちもイベントを見て廻るつもりだ。
「それじゃ~、おじさん、行きましょ~♪」
「う、うん…♡」
育郎的にも、もっとも楽しみな学祭デートであり、この日この時のために、この二週間の仕事を頑張ったのである。
「あ~それじゃあ、あたしたちは また後でっス!」
「二人きりになれば…はふぅ…♡」
「え、あ、その…」
年下の少女たちに気遣われて、青年は年上なのに、どう返して良いのかわからない。
「うん、それじゃ~♪」
「後でね~♪」
「はふぅ…♡」
頬が上気する亜栖羽へ、友達二人はニヤニヤしながら退散をした。
女子同士の理解が全く伝わらない青年は、それでも気遣ってくれた二人に感謝をしつつ、一呼吸して、話を切り出した。
「えっと…それじゃあ、廻ろうか…?」
「は~い♪ あ、でも…っ! うぅん、大丈夫っ!」
笑顔で応えて、しかし何かに思い悩んで、そして何かを決意するヴァンパイア少女。
「? 亜栖羽ちゃん、何か気になる…あっ!」
育郎も「?」と思って亜栖羽を見ると、駐輪場の向こう側に、学校敷地内へ立てられている教会に気がついた。
太陽で明るく照らされた教会は、煉瓦色も鮮やかな新しい建築物だけど、様式やデザインは古式ゆかしい感じの、クラッシックな造り。
白い屋根や十字架が陽光を反射させていて、協会そのものが輝いて見える。
そんな格式の高そうな協会を背景にしているヴァンパイア・ガールは、協会の輝きに負けていないどころか、協会を背景として自らをより眩く魅せていると、育郎は感じた。
「あ、亜栖羽ちゃん…やっぱりその…か、可愛いね…♡」
「え~、えへへ~♡」
あらためて賞賛をされると、嬉しくて、マントで愛顔の下半分を隠してしまう亜栖羽。
育郎は、自分の欲求を告げた。
「あのっ、写真…学校内は、デジカメや一眼レフとかの撮影はっ、禁止だけどっ…スマフォならOKだって、聞いてたから…っ!」
つまり、あくまで個人の記念写真的な撮影なら、学園もうるさく言わない。
という事である。
育郎も、いつものカメラではなく、スマフォを取り出していた。
「は~い♪ どう撮影しますか~?」
笑顔で応えながら、亜栖羽はマントを拡げて、バサバサと羽ばたいてみせたり。
(…可愛い…♡ もう、天使が自ら吸血鬼になったとか、設定的にも完全にアリだあぁ…♪)
感動しながら、視線は亜栖羽の全身へ釘付けで、しかしスマフォのカメラはいつもの連写だ。
背景として教会を利用して、天使と、ヴァンパイアのキャラとを被せて撮影。
「…天国から舞い降りた 吸血天使だ…♡」
奇妙な設定なのに、言っている自分では気づいていなかった。
「あ、そういえば 吸血鬼って~、血を吸っちゃうんですよね~♪ こんな感じなんですかね~♪」
と言いながら、亜栖羽はマントを靡かせてパタパタと駆け寄ると、青年の野太い筋肉前腕をキュっと両掌で掴んで、白い牙を見せる。
「オジサンの血~、吸っちゃいますよ~♪ がぶがぶ~♪」
綺麗な愛顔が近づいて、少女天使が吸血で噛みつくマネをしながら、可愛いセリフを口にした。
「!」
その様子が、本当に天使が吸血属性で遊んでいるような、背徳的で魅惑的で、青年は思わず気を付けの直立で、腕を差し出していた。
「どっ、どうぞっ! 亜栖羽ちゃんがっ、お腹いっぱいになるまでっ、ぉお好きなだけっ、吸って下さいっ!」
吸血亜栖羽が満足をしてくれるのなら、筋肉巨体が干物の如く枯れ果てても、幸せな育郎である。
「え~、いいんですか~? それじゃ~♪」
と、噛みつくマネの亜栖羽を、育郎はドキドキしながら撮影。
「あ、あれは…っ!」
駐輪場へ自転車を停めに来た家族は、可愛い吸血少女へ自ら血を捧げている強面なフランケンシュタインに、驚愕していた。
それから二人で、学内の出店を廻る。
「……大丈夫みたい~♪」
「? どうかしたの…?」
ホっとした様子の亜栖羽は、万が一にも育郎を気に入る女子がいたらどうしようと、さっきまで真剣に悩んでいたようだった。
~第三十七話 終わり~
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