☆第三十八話 学園祭デート☆


「オジサンっ、ここのたこ焼き すっごく美味しいって~、評判なんですよ~♪」

 校舎へ向かう途中で、露店のタコ焼きへと駆け寄る少女。

「なるほど…。本格的に火を使うお店は、種類によっては 教室じゃなくて校庭なんだね」

 三年生が校舎外で出店をしているお店の多くは、ケバブや焼きソバやお好み焼きなど、お祭りでもおなじみのメニューが殆ど。

 校舎内は、亜栖羽たちのようなコンセプト喫茶やチョコバナナ、射的や紐クジなど、ほぼ火を使わない出し物のみであった。

「あ、体育館だと 演劇部とか軽音部とかブラスバンド部とかが、ステージに上がってるんだね」

「そうですね~♪ オジサン、ステージ 観ますか~?」

 興味はあるけれど、時間的に現在は、演劇部の出し物が公園中である。

「う~ん…。ぁ亜栖羽ちゃんと、一緒に…お昼が良いです…♡」

「は~い♪ それじゃ~、外ですね~♪」

 育郎の要求に、亜栖羽は頬を染めて、応じてくれた。

 色々と廻りながら、タコ焼きやアイスドリンクを買って、中庭の飲食スペースへ向かう事にする。

 亜栖羽と二人で学園祭を見て廻る育郎は、ニギヤカな空気に驚きながら、自身の高校時代を、懐かしく思い出したり。

「…なんだか、天井とかも 低く感じるなぁ…」

「オジサン、大っきいですもの~♪」

「あはは、それもそうだね」

 吸血天使の突っ込みに、青年はあらためて想う。

「そういえば…高校の時も ソコソコ背が高かったっけ…僕は」

「やっぱり、そうなんですか~?」

 高校時代の朝礼とかでも、育郎の後ろでは朝礼台が見えなかったらしく、出席番号に関わらず育郎は三年間、いつも列の最後尾だった。

「クラスの席順も、くじ引きで場所が決まった後に、後ろの友達からボードが見えないから変わって欲しいって 頼まれてたなぁ…。それで結局、いつも 一番後ろの席になっていたよ」

 という育郎の話で、その光景を想像する亜栖羽。

「なんだか~、教室の守護神~っ! みたいな感じですね~♪」

「あはは♪ 言われてみると、そんな感じだよね♪」

 懐かしい思い出である。

 と同時に、実は大学の頃も、同じような経験をしている育郎。

「大学の講義でも 僕はいつも、一番後ろに着席をされていたよ」

「大学ってたしか~、センセイの場所が 一番低いんですよね~♪ あはは~♪」

 教授目線からの、高所へ座る育郎の迫力を想像して、少女は笑う。

(…嬉しいなぁ…♪)

 自分と一緒にいて、楽しそうに微笑んでくれる愛しい少女に、世界初の笑うリアル・フランケンシュタインな青年だ。

 飲食スペースは、家族連れで混雑をしていたけれど、学園の生徒である亜栖羽は、秘密の場所を知っているらしい。

「オジサン、こっちです~♪」

 ヴァンパイア少女に導かれたのは、学園の敷地内の一角にある、小さな林だった。

「へぇ…こんな場所があるんだ…」

 林の規模としては小さいけれど、所々に木製のベンチが設置されていて、木々の間からの木漏れ日が優しい雰囲気。

「ここって~、一般のお客様は禁止なんですけど~♪ 学校関係者のみ 特別に『まあ良し』みたいな場所なんですって~♪」

 見ると、数組だけど、生徒の親子と思しき家族連れがいた。

「オジサン、ここが空いてます~♪」

「そ、それじゃあ、亜栖羽ちゃん…♪」

 育郎が、ハンカチを敷いて、亜栖羽を招いた。

「ありがとうございます~♡」

 二人でタコ焼きなどを食べながら、少女が告げる。

「私~、クラスのみんながオジサンに興味を持っちゃったらどうしよ~とか、オジサンが他の女の子に興味を持っちゃったらどうしよ~とか、色々と 考えちゃいました~☆」

「あはは、そんな事はないよ…ぅ…」

 モテないという認識ではなく、自分の強面やこれまでの実績を思い返し、胸に刺さる。

「えへへ~♪ オジサン すっっごく、大人ですものね~♪」

 校舎内を巡る間も、イベントと亜栖羽だけを見ていた育郎に、安心感を得た様子。

「あはは。そういえば、昔から よく言われてるよね。えっと…『大男 総身に知恵が回りかね』…じゃなくて…そうそう『女房妬くほど 亭主モテもせず』とかって」

「そ、そうですか~♪」

 少女の頬が、更に赤く染まった。


                    ~第三十八話 終わり~

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