☆第三十六話 駐輪場のゴーレム☆


「それでは、私は 帰りますね」

 孫娘たちのクラスイベント、モンスターガール喫茶を楽しんだお婆ちゃんは、学園祭を後にする。

「え~、私、これから休憩だから~。お婆ちゃんも一緒に 学園祭~、廻ろうよ~♪」

 それも楽しみだろう。

(うん。それじゃあ…)

 家族の時間を邪魔したくないので、育郎が身を引こうと思ったら、お婆ちゃんは。

「いいのですよ。私は、亜栖羽たちのクラスを楽しめましたから。それよりも、福生さんを ご案内して差し上げなさいな♪」

 お婆ちゃんの言葉に、亜栖羽は育郎を見上げて、お婆ちゃんへニッコりと笑顔で返す。

「えへへ~、は~い♪」

「あ、あの…っ!」

「はい?」

 育郎の声がつい必死だったようで、お婆ちゃんも「?」顔だ。

「本当に、イベントを廻られないのですか…? 折角ですし…」

 やっぱり、孫娘の学園祭を一緒に廻るのを、楽しみたいのではないだろうか。

 自分がいるから、遠慮をさせてしまっているのではないか。

 と、青年は自分のコンプレックスとか関係なく、常識的に、そう考えていた。

「うふふ…実は、こちらで少し 時間を過ごしてしまいましたの」

 と、隠したかった失敗を恥ずかしそうに微笑みながら見せてくれたスマフォ画面には、お友達との約束に遅れて寄せられた、催促のメールが。

「あ、そ、そうでしたか…」

 実は喫茶を楽しんでいる間、育郎はお婆ちゃんから、色々と質問を受けていた。

 お仕事は?

 ご年齢は?

 特技は?

 恋人は?

 などなど。

 育郎としても、愛しい女性の家族からの問いである以上これは当然の質問であり、真摯に正直に答えるベキだと、筋肉を膨張させてしまいながら、全てを答えていたのである。

 という、お婆ちゃんにとっても不意な身辺調査タイムに、時間が掛かってしまったのだろう。

「で、ではせめて…駐輪場まで、お送りさせて下さい…っ!」

 青年も、田舎のお婆ちゃんがいる為か、このまま教室でお見送りとか、出来ない。

「まあ、ご親切にどうも♪ それでは、御言葉に甘えさせて頂きましょうか♪」

 言葉が弾むところとか、亜栖羽とのつながりを確信させる。

「それじゃ~♪」

「あたしも行っていい?」

「私も…」

 ミッキー嬢と桃嬢も休憩時間になったので、一緒にお婆ちゃんをお見送りする事となった。

「はいち~ず!」

 まずは、お婆ちゃんを中心に少女たち三人と、育郎も混じって、記念写真。

 小柄で愛らしいお婆ちゃんと、周りを取り囲む明るい少女たちのホンワカ写真に、身を屈ませた強面巨漢が映り込んでいる。

(…なんだろう…僕だけ異質過ぎる気がする…)

 という青年に対し、女子たちは。

「やっぱGOさん、でっかいっスねー!」

「まるで、モンスター少女たちを逃さないハンターの大男…はふぅ…♡」

「オジサンと一緒~♡」

 楽しそうで何よりだ。

 廊下を歩くお婆ちゃんを中心に、少女たちが付き添い、巨漢青年は前を歩いて通路を確保。

 お昼を過ぎた駐輪場は、自転車やスクーターで混雑をしていて、お婆ちゃんの電動スクーターが出られるには、時間が掛かりそう。

「あらあら、学園祭 大盛況なのねぇ♪」

 このままでは、電動スクーターが出せず、お婆ちゃんがお友達との待ち合わせに行けなくなってしまう可能性も出て来た。

「どうしよっか~☆ 駐輪場の係の人たちも、忙しそうだし~☆」

「あの…僕にお任せを戴いて、よろしいでしょうか…?」

 お婆ちゃんの笑顔で了解を得た育郎は、電動スクーターの下へと手をかけると、全身の筋力にモノを言わせる。

「…むっ! ふんんっ!」

 小型とはいえ、電動スクーターを両腕で掴んで頭上へと持ち上げて、狭い隙間をノッシノッシと、安定感を見せながら練り歩く育郎。

「あらまぁ♪」

「ぅおおっ! GOさんすごいっスっ!」

「まるで…女性の抵抗などモノともしない、圧倒的腕力…はふぅ…♡」

「ぅわ~っ♪ オジサンすっご~いっ♡」

 女性陣からの驚愕や賞賛を貰いつつ、駐輪場から電動スクーターを担ぎ出す青年の顔面は、もう完全に鬼そのもの。

 強面筋肉巨漢の脱出劇は、正門の外まで続き、学園祭へやって来た家族連れなどは、リアル過ぎるゴーレムの着ぐるみによる特別イベントかと、勘違いをしていた。


                    ~第三十六話 終わり~

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