☆第三十五話 喫茶のメニュー☆
「それじゃ~、ドリンクとか お持ちいたします~♪」
ドラキュラコスプレの亜栖羽が、笑顔を残して厨房スペースへと消える。
オオカミ娘コスプレのミッキー嬢も、接客へと廻っていた。
お婆ちゃんと二人きりになると、育郎はあらためて、緊張をしてしまっている。
「あ、あの…存じ上げなかったとはいえ、その…失礼いたしました…っ!」
亜栖羽との交際の件など、家族とは初対面に等しいので、やむを得ないとはいえ。
ガチガチな巨体筋肉を前に、しかしお婆ちゃんは、穏やかな笑顔のままだ。
「福生さん」
「はいっ!」
孫娘とはもう会わないで戴けますでしょうか?
(っひいぃ…っ!)
コンプレックス発の悲惨な想像に、自分で身震いをしてしまう青年。
「ノンビリした娘ですが、優しい娘だと想います。親バカでしょうけれど」
という祖母の紹介に、育郎は。
「そっ、そんな事はっ、ありませんっ! あわわっ–ぃやそのっ、そんな事というのはそのっ、ぉ親バカとのっ、御言葉に関してっ、でしてっ! ぁあ亜栖–お嬢様はっ、とても明るくて優しくて思慮深くて思いやりがあって気遣いも素晴らしく愛らしくっ、僕にとってはっ、何よりも誰よりもっ、大切なっ、眩しい女性ですっ!」
必死なあまり、心のままに言葉が溢れ出ていた。
「そうですか ほほほ♪」
育郎の様子に、お婆ちゃんはどこか、あらためて安心感を得たようだった。
「福生さんから、良い影響を与えて戴いてますものねぇ♪ 私としては、節度ある交際を心掛けて戴ければ、何も言わせて戴く事は ございません♪」
と、落ち着いた言葉で、亜栖羽との交際を許してくれる。
「っ–っ! あっ、あのっ…ぁぁぁあありがとうございますっ!」
思わずまた立ち上がり、頭がテーブルへ衝突する程の、深い礼を捧げていた。
周囲のお客さんは。
「あのお婆さんっ、ゴーレムを平伏させたぞ!」
「フランケンシュタインが謝罪してるわ!」
とかザワついたり。
微笑むお婆ちゃんから再度の着席を促され、育郎が着座をしたタイミングで、亜栖羽がトレイを運んできた。
「お待たせいたしました~♪」
モンスターガール喫茶には、特にメニューはない。
「いちご味のムースと、ナゾの緑色ドリンクで~す♪」
会計の都合もあり、ドリンクとムースのセットで五百円。
いちご味のムースは手作りのようで、ドーム型のピンク色なムースが、プラスチックのお皿の上で、プルプルと美味しそうに揺れている。
コスプレ衣装とムースにお金がかかっているのが解るけれど、緑色のドリンクは正体不明。
「これは…っ!」
しかし、育郎の嗅覚と観察力と知識と想像力で、なんとなく察する。
(冷やした緑茶…っ!)
しかも、白い食紅を少し溶かし込んで、ドロっと不気味に濁らせてもいた。
小魚の形をした市販の焼き菓子も、乗せられていたり。
(僕の想像通りだとしたら、手が込んでるなぁ…♪)
モンスター系の食べ物という意味では、見た目でも十分に楽しめる。
「おおぉ…美味しそう…っ!」
「あぁ モンスターガール喫茶なので、不思議な色合いなのねぇ♪」
「うん~♪ それでは ごゆっくり~♪」
亜栖羽的には、もっと育郎たちとオシャベリがしたいっぽいけれど、まだ交代の時間ではないので、接客へ向かう。
そんな勤勉少女を、想わず目が「♡」で、見惚れ続けてしまう巨漢の青年。
「………♡」
ドラキュラコスの亜栖羽も可愛いけれど、接客している亜栖羽も可愛い。
自分だけのドラキュラ・ウェイトレスであって欲しいと願うと同時に、亜栖羽の愛らしいコスプレ姿をみんなに自慢したいとも思う、複雑な育郎だ。
「福生さん、戴きましょうか」
「は、はいっ!」
青年はお婆ちゃんと二人で、いちご味のムースと、やはり冷たいお茶+クリーム成分のドリンクを戴く。
お婆ちゃんの感想は。
「ん…ムースの出来は、とても宜しいですのね♪」
「あむ…んん…。あぁ、甘くて冷たくて、いちごとミルクが喧嘩をしてなくて、とても優しい味わいですね♪」
これを亜栖羽が運んで来てくれたと思うと、つい強面もバニラアイスのように蕩ける。
「そういえば…福生さんは 和菓子がお好きなのでは…と、亜栖羽の様子から 察しておりますが…」
「はいっ! 僕のお婆ちゃんも、和菓子が大好きでして。僕も子供の頃から、お婆ちゃんとよく どら焼きとかを食べてました♪」
「きあ そうでしたの♪」
という感じで、緊張しながらも、お婆ちゃんとの会話が弾んだ育郎だった。
~第三十五話 終わり~
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