☆第十八話 テントの疑惑☆

「それじゃ、ドローンの映像 視てみようか」

「は~い♪ 楽しみです~♪」

 食事でお茶を戴いたので、食後は、育郎が珈琲で亜栖羽が紅茶。

 ドリンクを持ってテントへ入り、育郎の荷物から、スナック菓子を取り出したり。

「やっぱり テントの中~、広いですね~♪」

「ね♪ ファミリー用にして 正解だったよ」

 テントで寝転がれるように、育郎は毛布とタオルケットを持参している。

「私、敷きま~す♪」

 亜栖羽が、埃の立たないよう、置いたままの毛布を静かに拡げて、その上へタオルケットを、やはり静かに拡げてゆく。

 その間、育郎は亜栖羽の邪魔とならないよう、テントの隅で巨体を縮こませて、ジっと待つ。

「出来ました~♪」

 テントの中央に、毛布とタオルケットのふわふわスペースが完成した。

「ありがとう♪ それじゃあ…」

 ドリンクを置きながら育郎が腰を降ろしたら、亜栖羽はコロんと寝転がる。

「うわ~、たっぷり~! 私の部屋のベッドよりも ずっと広いです~♪」

 と、手足を拡げて笑顔も輝く。

 タオルケットも毛布も、普段は押し入れへしまってある、交換用だ。

 海外のサイトで見つけたキングサイズで、巨漢の青年が座っても、小柄な少女が横になるのに十分である。

 そんな光景に、育郎の思考が一瞬、止まる。

「っ–っ!」

(あっ、亜栖羽ちゃんがっ、僕の布団に…っ!)

 昨夜、準備をしている時は、万が一にも亜栖羽が川へ落ちたりした緊急事態用にと、純粋な気持ちで毛布などを準備していた。

 なので、敷物として使う時にも全く意識をしていなかったけれど、今、亜栖羽が寝転がっている光景を見て、非常に焦る。

「あ、亜栖羽ちゃん、その…ね、寝転がって…その…」

「? あ、まずかったですか~?」

 何か失敗してしまったのでは。

 と気にして身を起こす天使へ、巨漢青年は慌てて訂正。

「えっあっぃやっ…そそそうではなくてっ、そのっ–ぼ僕の毛布とっ、タっタオルケットっ、ですしっ、そのっ–せ、洗濯はっ、十分にっ、してありますけれどっ、そのっ–ぼ、ぼ、僕のそのっ…にっ、にっ臭ぃっ…とか…っ」

 洗濯しても残った臭いとかあったとしても、亜栖羽は言い辛いかもしれない。

 と、正座姿勢で焦って慌てた育郎だけど、訊かれた亜栖羽は平然としていた。

「え~、オジサンの匂いですか~?」

 と、笑顔で尋ね返して、再び転がり、敷物を抱いて愛顔を埋め、深呼吸。

「ふん~…あ♪ えへへ~、オジサンの残り香~ する感じがします~♪ えへへ~♪」

 クリーニングへ出したのに落ちきらなかったのか、僅かに残る育郎臭の残るタオルケットへと、亜栖羽を寝転がらせてしまった。

「あああっ–ぁあっ、亜栖羽ちゃんごめんなさいっ! そ、そんな臭うようなタオルケットとかっ、もっ、持って来ちゃって…っ!」

 育郎は、生涯の後悔と懺悔の正座で、亜栖羽へ土下座をする。

「オジサンの残り香~♪ えへへ~♪」

 育郎が緊張と贖罪の強面を上げたら、亜栖羽は更に、嬉しそうにタオルケットへと媚顔を埋め、転がり、小柄な身体が包まれていた。

「あっ、あのっ…ぁ亜栖羽ちゃんがっ、臭くなっちゃうから…っ!」

 そんな事態になったら、申し訳なさ過ぎて切腹事案な育郎である。

 しかし亜栖羽は、頬を上気させたキラキラの笑顔で、なんと育郎を誘ってきた。

「オジサンも~、一緒に 寝っ転がりませんか~♪」

「–っえっ⁉」

 天国を超えるお誘いに、我が耳を疑った。

 自分が、愛しい少女と一緒に、タオルケットとはいえ、添い寝をする。

 その行為は、育郎が亜栖羽と出会って以来、ずっと夢想をする空間性でもあった。

「えっでもっぁのっ–ぼぼ僕がっ、そのっ…ぁ亜栖羽ちゃんとっ、その…っ!」

 添い寝をして、死刑になったりしないだろうか。

 –純真な少女をキャンプへ誘って、淫らな添い寝。

 –キャンプ場を舞台に、人外の淫猥劇。

 –白昼堂々、卑劣漢。

(と、とか…大騒ぎになったり…っ!)

 ついそんな事を考えてしまってから、少し落ち着く。

「ぃ、ぃやいやっ…ぃいくら何でもっ…でもっ…」

 迷える育郎の、決断への後押しは、亜栖羽の一言。

「ドローンの映像~、オジサンと一緒に 視たいです~♪」


                    ~第十八話 終わり~

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