☆第四話 妄想ロボ☆


 亜栖羽のカバンを取りに行く為、四人は駅近くの駐車場へ。

 道すがら、育郎と実樹寿氏は、意外にも車の話で意気投合をした。

「なるほど。福生先生は、大型SUV派でしたか!」

「ぃやっ、そのっ…せ、先生は、どぅか…」

 先生と呼ばれるのは初めてで、恥ずかしくて消え入りたくなってしまい、巨漢が歩きながらモジつく。

 担当編集者は大学時代の友達だから、普通に名前で呼んでくるし、育郎自身も小説家のような創作者でもないので、身に余る光栄過ぎると感じていた。

「何を仰いますか! 僕は先生の翻訳、素晴らしくて感激してますよ! ただ単語を訳されているだけでなく、日本人らしい生活感覚に沿われた感性で–」

 と、なんだかペタ褒めされている。

 楽しそうな大人二人を、少女たちはニコニコと見守っていた。

 駐車スペースへ到着をすると、オシャレ兄さんが愛車を披露。

「これです♪」

「っおおぉ…っ! フォルクス・ワーゲンじゃないですかっ! しかも、この色は…っ!」

 育郎が驚いたのは、ワーゲンという車種と同時に、車体の色合いだ。

 イメージカラーとして黄色がデフォな通称ビートルは、実樹寿氏のお気に入りカラーである、水色と濃い緑色のグラデーション。

 一見すると重たくなりがちな色使いだけど、深い森の透き通った湖のような、爽やかで清潔感の溢れるカラーだった。

「…綺麗で透明感があって…なのに深みと清涼感もあって…っ! 綺麗なビートルですねぇ♪」

「おおっ。お分かり頂けますかっ!」

 大人の男性二人が、まるで子供の様に、はしゃいでいる。

「オジサン、こういう色~、好きですよね~♪」

 亜栖羽も、育郎が作ったプラモデルの簡単塗装で、青緑色系が好みであると、把握をしている。

「GOさん、そーなんスか?」

「うん♪ ブルーグリーン? とか、いいよねぇ♪」

「あぁ…良いですよねぇ♪」

 巨漢とオシャレが、揃ってウットリしだした。

「福生先生! 宜しければゼヒお送…り…」

 と言いかけて、ハっと気づく。

 育郎の筋肉巨体は、ワーゲンの屋根越しでも、逞しい胸筋が完全に見えている。

 この巨体が大衆車のワーゲンへ乗車をする場合、後部座席にギュウと詰め込まれる格好となるだろう。

 仮に座るとしても、天井から強面だけが飛び出すという、大昔の低価格帯な合体ロボプラモの如くだ。

 ついでに、重量過多でワーゲンが悲鳴を上げるだろう。

 一瞬だけ空気が凍って、しかし育郎も、こういうタイミングは何度か経験をしている。

「ああ、いえ。折角ですが、僕はまだ 寄る所があるので…」

「すっ、すみません…っ!」

 気遣いをさせてしまった事を、オシャレ兄さんは謝罪。

 そんなヤリトリの間に、亜栖羽とミッキー嬢は、車の後部座席からカバンを取り出していた。

「それじゃ~、ミッキー、お兄さん♪ 今日は~、ありがとうございました~♪」

「あ、うん。それじゃあ、葦田乃さんを、お願いします」

 と、実樹寿氏は、育郎へ会釈をくれる。

「はっ、はいっ! 亜栖羽ちゃんをっ、絶対に安全にっ、自宅まで送らせて頂きますっ!」

 少女の護衛を引き受けた育郎は、当然に騎士の心得で返答。

「それじゃートモちゃん、また明日ー♪」

「うん~♪ またね~♪」

 実樹寿氏からの会釈を戴き、爽やかなブルーグリーンのビートルは、夜の街へと走って行った。

 車が見えなくなるまで亜栖羽が手を振って、笑顔で振り返る。

「それじゃ~ オジサン♪ 電車~、乗りましょ~♪」

 亜栖羽の笑顔が、頬もピンクに艶々で、とても嬉しそうに輝いていた。

「うん…♡」

 巨漢の青年も、天使を守護する大鬼のごとく、巨体の筋肉が喜びで膨張を見せる。

「あ、その前にオジサン~♪ 何か 飲みませんか~?」

 少女の視線の先には、自動車販売のファストフードが幾つか出店をしていて、二人はサラリーマンらしいお客さんたちへ混じって、寄ってみた。

「へぇ…ケバブとかお弁当だけじゃなくて、ドリンクとかスムージーとかも あるんだねぇ」

「みたいですね~♪ あ、フルーツドリンクがありますよ~♡」

 新鮮な果物を、目の前で絞ってジュースにするお店だ。

「美味しそうだね♪ 亜栖羽ちゃんは、何が良い?」

「桃~♪」

 二人は、小さな帰宅デートを楽しんだ。


                    ~第四話 終わり~

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