☆第二十五話 対策会議☆

「オっ、オジサンが来ると…っ!」

 必死な様子の愛少女に、青年も息を飲む。

「みんなも、その…オジサンにっ、気付いちゃうじゃないですか…っ!」

「そ、そうだね…」

 ただでさえ巨体な青年である。

 街を歩いても、割と頭一つ分は余裕で抜きん出ている高身長だし、しかも全身が筋肉質。

 女子高へ紛れようものならば、誰がどう見たって違和感しかなくて、奇妙な男がいること一目瞭然だ。

「…う」

 女子たちに見つかって悲鳴を上げられる自分が、証拠映像の如く、目に浮かぶ。

 やはり僕の容姿では、学友にバレるのが恥ずかしいのかも。

「そうなったら~…っ!」

 望まずとも長い付き合いのコンプレックスで、頭が占められそうになった青年の耳へ届いた、少女の言葉は。

「き、きっとみんなっ、オジサンと仲良くなりたい~っ! とか、想っちゃうじゃないですか~っ☆」

「そうだね悲鳴…え?」

 何かの聞き間違いかと思って、一瞬。少女の言葉が認識できなかった青年。

 思わず亜栖羽を見ると、頬を染めてキュっと目を瞑り、真剣に心配をしている愛顔だった。

「………えぇと…み、みんなが、仲良く…?」

 女子特有っぽい言い方に。育郎は理解が遅れたものの、プクっと頬を膨らませて見上げた亜栖羽の表情で、理解が出来た。

「っ–っ!」

 亜栖羽が、育郎にヤキモチを妬いている。

 育郎が女子たちにモテると、思い込んでいる。

「…ぇ…ぇぇえっ⁉」

 自分でそう理解をして、そして自分で驚いて、自分の耳をまた疑う。

(あっ、亜栖羽ちゃんがっ、僕が女性にモテるって、心配してる…っ⁉ えっ–っえええええっ⁉」

 思考の後半が言葉になって出た。

「な、なんですか~?」

 いつもの青年の奇行だけど、初めて見た驚きの様に、少女も驚かされる。

「え、い、ぁあの…ぼ、僕がっ…女子たちにっ、そのっ…えぇとっ…ちちチヤホヤされる…って、事…?」

「う~☆」

 本気で心配をしながら、少女は素直に頷いて認めた。

「ぃい、ぃいやいやっ、そそそそんな事っ、ないゅお…っ!」

 大慌てで、ちょっと噛みながら、両掌と強面を全力でブンブン振る育郎。

 しかし亜栖羽の心配は、その程度では消えないらしい。

「ありますよ~っ☆ オジサン、優しいですし知性溢れますし大人ですし頼もしいですし英語の小説家ですし~っ! きっとみんな、オジサンを~っ!」

「ぃ、ぃゃ…その…」

 一部にまだ理解されきっていない職種はあるものの、愛しい少女から、これ程までの高評価を戴いていると知った青年の恥ずかし顔は、まんま赤鬼の如くだ。

「とっ、とにかくそのっ…ぼぼ僕がモテっ–ごくんっ、モテるなんてっ…絶対に絶対にっ、無いから…っ! う…っ!」

 経験から来る事実を伝えただけなのに、自分でダメージを受けてしまう。

「で、でも~…」

「そもそもさ、僕はその…亜栖羽ちゃんと出会って、は、初めて、女性とお付き合いをしているんだし。う…っ!」

 事実陳列罪の刑罰が、また心に刺さった。

「そ、そうなんですか~♪」

 育郎の言葉に、亜栖羽が不安な愛顔から一転して、パァっと眩しい笑顔に輝く。

「うん…。だから、僕が学園祭に行っても…むしろその、亜栖羽ちゃんの迷惑に、ならないかと…」

 亜栖羽が恥ずかしい想いをしてしまう事だけは、絶対に避けなければ。

「そんな事は~…あ、でも…オジサンがみんなに気づかれなければ…」

 自分の不安と育郎の懸念を飲み込みながら、亜栖羽は考えて、思いつく。

「う~ん…あ、それじゃあ♪」

「は、はいっ!」

「オジサン、当日は 変装してくるの、どうですか~? 帽子にマスクにサングラスに~、あ、長いコートとか着て来ると~、みんなもオジサンの魅力に 気づかないと思うんですけれど~♪」

 想像できる姿は、完全に性的な意味にも怪しい男で、道中で警察に職務質問をされる事も、間違いないだろう。

「うん…でもきっと、不審者過ぎて、学校に入れて貰えないと思う…」


                    ~第二十五話 終わり~

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