☆第二十六話 チラ紙から回想☆
亜栖羽を自宅駅まで送って、マンションへ帰って来た育郎。
「学園祭、今度の土曜日と日曜日か…」
貰ったチラ紙の表面は、美術部が描いた学園祭ポスターと同じデザインのカラーイラストが、元気よく華やかなイメージで描かれている。
仕事部屋のホワイトボードへとマグネットで留めて、眺めて、感じる。
「学園祭か…懐かしいなぁ…」
中学や高校の頃の学園祭は、学校としては地味だったけれど、やはり特別感があった。
友達とチーム分けをして資料を集めたりなど、作業そのものもやはり地味だったけれど、学園祭の二日間は授業も無し。
みんなでワイワイしながら準備に追われ、課題を間に合わせる為に徹夜をしたり、前日限定で学校へ泊まったり。
「ちょっとした キャンプ気分だったなぁ♪」
地味だけど楽しかった、特に高校の学園祭の思い出だ。
それだけに、上京して大学の文化祭を体験した時は、全く違う世界であった。
特にサークル等には所属していなかったからか、文化祭が近づくに従い、キャンバス全体から活気が溢れて来るのを、肌で感じた育郎。
田舎では、町のお祭りの時くらいしか感じなかった、エネルギーの本流みたいな熱量に、育郎もソワソワした。
文化祭が始まると、大学で出来た初めての友達(洋書翻訳を依頼してくれている編集者)に出店を手伝わされたりして、アワアワしながら乗り切ったのも、良い思い出である。
「大学の文化祭は、華やかだったなぁ…♪ これが東京なのかっ! とか、カルチャーショックだったものなぁ…♪」
文化祭は楽しかったけれど、大学も四年生になり卒業が近づくにつれて、就職に苦労したのも、また思い出である。
「…あの時は 大変だったぁ…」
就職活動で走り回った夏。
なかなか内定が決まらなくて、焦りに焦った秋。
いっそ田舎へ帰ろうかと真剣に悩んで、泣いた冬。
そして、教授に薦められてチャレンジをした、在宅プログラマー募集へ応募をしまくって、わりとすぐに合格。
それから様々な会社のプログラム作業に関わって、頑張って信用と実績を築いてきたのが、現在の育郎だ。
「教授のアドバイスを戴けなかったら…きっと田舎へ帰って、違う仕事を探していただろうし…」
そうなっていたら、何より、亜栖羽と出会う事が無かった。
その可能性を考えると、恐ろしくて筋肉が震える。
「…うぅ…」
田舎へ帰ろうと、悲しい決意をした日の帰りのキャンバスの廊下で、教授が育郎に気づいて声をかけてくれて、縋る想いでアドバイスを戴いた。
『福生くん。キミは、顔は怖いが性格は本当に真面目で優しいし、何より 成績優秀だからなぁ。あんな特技があるなんて、絶対に生かせると思うぞ』
教授のパソコンの不調を、たまたま研究室の前を通りかかった育郎が、子供の頃からの趣味で自然と培われたプログラムの知識と経験と技術で、バグを回避するプログラムを、半日で制作。
という出来事を、教授が覚えていてくれたのである。
芸は身を助けるを、地で行った育郎だった。
教授のアドバイスで、外注プログラマーを募集している会社へ、片っ端からチャレンジしまくった、春先。
当時を思い出すと、今でも背筋が震えて、そして現在にホっとする。
「必死だったなぁ…。でも、頑張った甲斐があったんだ…っ!」
在宅プログラマーとして初めての仕事を貰えた夜、カモメ屋さんへと報告に行ったら、みんなが喜んでくれた。
特にオヤジさんは、泣き笑いながら育郎の背中をバンバンと叩いて、お店にいるお客さんたちまで巻き込んで、祝杯を挙げてくれたり。
「ふふ…」
あの夜を思い出すと、今でもオヤジさんへの感謝が強くなる育郎だ。
仕事や知り合い関係だけでなく、何より亜栖羽と出会えた事が、頑張った最高のご褒美だと、育郎は感じている。
「亜栖羽ちゃんも、ここまでニギヤカな学園祭は初めてって 言ってたっけ」
楽しい文化祭になると良いなあ。
華やかな文化祭を想像しながら、チラ紙の裏を見ると。
「…あはは♪」
当たり前だけど、全ての出し物が記載されていた。
「亜栖羽ちゃんのクラスは、モンスターガール喫茶だ♪ 亜栖羽ちゃんのコスプレ、当日まで秘密だっけ」
~第二十六話 終わり~
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