☆第二十八話 育郎の準備☆
金曜日の夕方、亜栖羽から、写真添付のメールが送られて来た。
『明日からいよいよ学園祭で~す♪ 私たちのクラスのコンセプト、オジサンにもお伝えしましたけど、ペーパーの裏にも書いてありましたね~(^ ^)♪』
という文章と共に、飾り付けられた教室の写真が。
コンセプト喫茶の入り口と出口が決められていて、廊下の壁には大きく「モンスターガール喫茶」と書かれている。
「あはは、可愛いなぁ…♡」
おどろおどろしい感じだと思われるけれど、どこか愛嬌の強めなお化けやモンスターのイラストが描かれていて、喫茶店の名前もカラフルで丸っとした書体で可愛くて、実に女の子っぽい。
「ちょっと流血っぽい絵が描かれているのも、なんか良いなぁ♪」
育郎も、メールで返事を送った。
夜八時を過ぎた頃、亜栖羽から電話が来る。
「もしもし♪」
『もしもし~、オジサン今晩は~♪ 教室の飾り~、どうですか~? みんな 私たちで描いたんですよ~♪』
亜栖羽たちのクラスには、美術部女子がいないので、クラスメイトみんなで描いたという。
「えん♪ 凄く可愛い–ぃいぅえ、モンスター感のあるイラストだよね」
『えへへ~♪ あ、それで なんですけれど~、明後日の日曜日、オジサン 学園祭~、いらっしゃいますよね~♪』
「うんっ! その為に、明日までの仕事はっ、今夜中に片付けますっ!」
日曜日は、たとえ台風が直撃をしたとしても、育郎は学園祭へ向かう、鋼鉄の意思である。
『やった~♪ あ、でもあんまり 無理はしないでくださいね~』
と、少女は青年の過労を心配してくれていた。
「うん、ありがとう…♡ 今夜頑張る分、明日はよく寝て、日曜日に備えるよ♪」
自分の健康を案じてくれる少女がいる。
という事実に、感謝と気力と、生きる喜びが湧いて来る強面巨漢。
『今日はですね~、学校へお泊りする子たちも、結構 いるんですよ~♪』
「あぁ、準備が終わってないんだね」
育郎も、東京の大学で初体験をした盛大な文化祭での、助っ人の際の徹夜を思い出したり。
『はい~。私たちのクラスは今日~ 放課後に少し居残って、準備が終わったんです~』
準備完了で嬉しいのと同時に、ちょっと残念そうなニュアンスも聞き取れた。
「亜栖羽ちゃんも、学校でお泊り したかったんだ」
『え、わかっちゃいました~? 学校で、みんなでお泊りとか すごく楽しそうですし~♪』
「そうだよね。特別感っていうか、解放感みたいな感じが あるもんね」
『オジサンも、そういうお泊り~、した事があるんですか~?』
「うん。僕は–」
という感じで、二時間ほど、育郎の思い出話などをした二人だった。
金曜日から土曜日の明け方まで、仕事を頑張って終えた育郎が目を覚ましたのは、朝陽が昇りきった、お昼前。
「ふわわ…ふぅ…。もうこんな時間か…」
遅い朝そのものは、特に珍しいワケでもなく、いつも通りに朝食などを摂って家事をこなして、珈琲を片手に今日はベランダへ。
愛しい少女の通う学園の方角を眺めながら、想う。
「亜栖羽ちゃんの学園祭、もう始まってるんだな…♪」
スマフォを見ると、亜栖羽からメールが入っている。
『オジサン、お早うございま~す♪ お仕事、お疲れ様でした~♪ これから学園祭スタートです~♪ 今日のイベントが終わったら、またメールしま~す♡』
添付されている数枚の写真は、学園内の様子が写されていて、ニギヤカで楽しそうな雰囲気が伝わってきた。
「あはは、盛り上がりそうだなぁ♪」
写真からも感じられる活気に、亜栖羽もきっと楽しんでいるだろうと解って、想わず強面の笑顔。
「一般客は 明日なんだよね…。どんな服装で行けば 良いかなぁ…」
育郎がモテたら困るという、あらぬ心配をする亜栖羽の提案通り、深い帽子にサングラスにマスクにロングコートという恰好では、絶対に入校お断りをされてしまうだろう。
「その前に、不審者として通報されて…学校へ到着する前に、お巡りさんに連行されるよね…きっと」
そういう誤解をされてしまう自信は、自分の容姿から確信出来てしまえる、ある意味で不幸な青年だ。
「う~ん……あっ、そうだっ!」
お昼ご飯をカモメさんで食べて、その際に相談をしよう。
「女将さんとか若女将さんから アドバイスを貰えば、きっと間違いないぞ♪」
普通に名案。
そして、日曜日の朝を迎える。
~第二十八話 終わり~
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