☆第二話 オシャレ兄さん☆


 亜栖羽の友達であるミッキー嬢こと「三輝美紀(みっき みき)」が、亜栖羽のすぐ隣で笑っている。

「あたしもアニキも、最初からトモちゃんのすぐ隣にいたんスよ。それなのに気づかないとか、マジでラブラブ過ぎっス!」

「えへへ~♡」

「ど、どうも…」

 女子高校生に笑われて、亜栖羽よりも恥ずかしそうに巨体が縮こまる二十九歳。

 そして、気付く。

「え…じゃあ、こちらの方は…」

 オシャレ男性を見ると、目の前の巨体に驚きながら「…なぁるほどぉ…」と、何かに納得をしていた。

「…あ、あぁ、初めまして。えっと、私は美紀の兄で、三輝実樹寿(みっき みきひさ)」といいます。夏休みなど、いつも妹がお世話になりまして。あ、ご挨拶が遅くなって、申し訳ありません」

 男性としては、かなり綺麗な立ち居振る舞いで、ミッキー嬢の兄である実樹寿氏は、挨拶をくれた。

「ど、どうも、ご丁寧に…。こちらこそ、ご挨拶が遅れてしまいまして…。僕–わ私は、福生育郎と申します。その…あ、亜栖羽ちゃんとは…」

 万が一にも、亜栖羽に良からぬ疑惑が持たれたりしないよう、少なくとも怪しい男や妖しい関係ではないと、自己紹介をしたい。

 しかし、亜栖羽の友達の兄とはいえ、育郎自らが「お付き合いをしている」と言い放って、良いものだろうか。

 とはいえ、挨拶を途切れさせるワケにもゆかない。

(えっ、えぇと…っ!)

 緊張と焦りで全身の筋肉が盛り上がり、強面が更に恐ろしく暗く、彫りを深めてしまう。

 初対面の男性を無自覚に恐怖させてしまいながらも、必死に言葉を探している青年を、恋人自身が援護射撃。

「私たち~、お付き合いしてるんです~♡ ね~オジサン~♪」

「えっはっはいっ!」

 愛しい女性のお付き合い宣言に、聞かされたオシャレ青年よりも、強面な育郎の方が、緊張で背筋を正す。

「あ、あぁ~…よく美紀から聞いている、亜栖羽ちゃんのお付き合いの相手って…」

 と、頭一つ分以上の身長差と一回り以上も大きな筋肉体から、妹へと話を振る兄であった。

「そーこの人 GOさん! あたしが海で水泳競争して、負けた相手ーっ!」

 海での水泳対決を思い出し、ミッキー嬢は、悔しそうな愛顔で拳をブンブン。

 ミッキー嬢のあだ名のセンスは独特だ。

 亜栖羽に対しては「亜栖羽 → 明日は → トゥモロー → トモちゃん」であり、育郎に対しては「育郎 → いくろう→ 行く → GOさん」という感じ。

「そ、その節はどうも…」

 つい謝罪の育郎だ。

「あはは~♪ それでオジサン~♪ もしかして~、ケンシューが終わった感じですか~?」

「あ、うん。丁度さっき終わって、今から帰るところなんだ」

 そんなタイミングで亜栖羽と会えるなんて、思ってもいなかった。

「わぁ~♪ それでバッタリ会えるなんて~、運命ですよね~♡」

「は、はぃ…でへへ…♡」

 運命を感じている恋人の笑顔が、愛らしくて愛しくて輝いて天使で、育郎は溶解させられてゆく邪神像も驚いて凝固するであろう程に、だらしなく蕩けてニコニコ。

「はあぁ~、なるほど~…あ、し、失礼しました…っ!」

「?」

 二人の関係を初めて見た実樹寿氏は、妹から聞いている以上のインパクトに、つい感嘆の声が零れ、慌てて謝罪をした。

「それで、その…亜栖羽ちゃんたちは…」

 繁華街の楽器屋さんではなく、都心駅で、しかもミッキー嬢の兄も一緒。

「はい~♪ 今日は、ミッキーのお兄さんとミッキーの、楽器屋さん訪問に~、お呼ばれしてました~♪」

 学校の昼休みに、実樹寿氏からミッキー嬢へ「新しい楽器屋さんを見つけたので行くか?」というメールがあって。

「桃ちゃんも誘ったんスけど、今日は日舞の稽古があって、来られなかったんスよ」

「成る程…」

「ちょうど~、楽器屋さんから出て来て コインパーキングへ向かってたら~、オジサンを見付けちゃいました~♪」

「そ、そうだったんだ…でへへ♡」

 人混みの中で見つけてくれた事に感激をして、蕩ける育郎とは別に、三輝兄妹は思う。

「GOさん 身体でっかいっスから、五十メートルくらい離れてても、後ろ頭が見えてましたッス♪」

 と言われて、なんだか照れくさい青年の腕へと、亜栖羽が縋る。

「お兄さん~。私~、オジサンに 送って貰っちゃいます~♪」


                    ~第二話 終わり~

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