☆第二十三話 二週間後へ向けて☆
秋キャンプから、次の土曜日。
亜栖羽と育郎は、育郎の地元の喫茶店で、お茶を楽しんでいた。
「カモメ屋さんの鯖味噌定食~♪ やっぱり いつ食べても美味しいですね~♪」
「そうだね♪ 僕も カモメ屋さんのメニューは、みんな好きだよ」
亜栖羽的には久しぶりに、カモメ屋さんでお昼を食べて、大満足。
先週の秋キャンプで、遠出と郊外を満喫した二人なので、今日はノンビリと地元デート。
「あ、それでですね~♪ 前にお話しした、文化祭の出し物ですけど~♪」
「うん。コンセプト喫茶っていう案は決まってて、あとはコンセプトを決めるって言ってたんだよね」
「そうです~♡」
青年的には当たり前な事だけど、少女の話をちゃんと聞いている。
それが嬉しくて、亜栖羽の頬が朱くなった。
昨日の金曜日の、放課後HRで出し物を決めると、亜栖羽から聞いている。
「私たちのクラスは~、モンスターガール喫茶に 決まりました~♪」
「モンスターガール…?」
聞いた瞬間には解らなかったけれど、ちょっと想像して、すぐに思いつく。
「いわゆる、モンスターのコスプレをした女子たちが接客をする喫茶店…っていうコンセプト?」
「はい~♪ オジサン 一瞬で解っちゃったんですか~! もっと引っ張れると思ったのに~♪」
「いやぁ…でへへ…♡」
キラキラした瞳で残念そうに喜ぶ愛顔に、青年の強面もだらしなく蕩ける感じ。
「モ、モンスターって事は…亜栖羽ちゃんも、モンスターにコスプレするんでしょ?」
「はい~♪ あ、でも どんなコスプレかは~、オジサンにはナイショです~♪」
「う…」
ナイショと言われて軽くショックだったけれど、亜栖羽の楽しそうなイタズラウインク笑顔を魅せられると、愛らしくて幸せ感が溢れた。
「オジサン、文化祭 再来週なんですけど~、お仕事 お時間ありますか~?」
「!」
亜栖羽からのお誘いだ。
「はっはいっ! 当日はっ、何があってもっ、万が一にも台風が直撃しててもっ、絶対に文化祭へっ、オジャマをさせて頂きますっ!」
日常的にも強面な強面が、鋼鉄の決心を以て、仁王像がゆるキャラに感じられる程にも強張ったり。
文化祭の予定に関して、開催日は再来週の土曜日と日曜日で、更に一般の入場は日曜日だと、先週のデートの際に聞いていた。
なので育郎は、その日には絶対に仕事を入れないよう編集者の友達には既に伝えていて、プログラムの発注先にも、極力早く仕事を納品し続けているのだ。
「一応ですね~、来週中に 生徒会で印刷されるミニペーパーが、入場券も兼ねているらしいので~。配られたら オジサンにお渡ししますね~♪」
「は、はいっ! 心待ちにしております…っ!」
単に、亜栖羽から直接にチラ紙を貰えるというだけでなく、来週のデートの約束でもあるので、歓喜で身が引き締まった育郎。
「そ、そういえば、文化祭の準備って 月曜日から始まるんだっけ?」
「そうなんです~♪ 私たちのモンスターカール喫茶だと~、それぞれの仕事やメニューはもう決まっているので~、あとはみんな、どんなモンスターになるか~ ですね~♪」
「亜栖羽ちゅんの、モンスター姿…」
ネコ少女なら、ネコ耳の亜栖羽が見られる。
和風の幽霊なら、白襦袢姿の亜栖羽が見られる。
ろくろっ首とかなら、凝った仕掛けを纏った亜栖羽が見られる。
とか、色々と妄想をして、気付く。
(ハっ–もし…亜栖羽ちゃんのメイクが…っ!)
和風の幽霊ではデフォな、目に大きな出来物とかあったりしたら。
むしろゾンビとかで、メイクとはいえ傷があったら。
そんな痛々しい感じの天使を、果たして自分は、直視出来るのだろうか。
(うぅ…っ、でも、亜栖羽ちゃん渾身のメイクだろうしっ、ちゃんと楽しまないと…っ、でもっ、あっ、亜栖羽ちゃんがっ、怪我をしたようなメイクなんてっ…ぅううぅ…っ!」
いつものように、心の苦悩が声になって漏れている育郎だ。
「えへへ~♡ それじゃあオジサンに、ヒントです~♪ 私のモンスターはぁ、怪我とか してません~♪」
「そ、そうなんだ…ホ…」
心の底からホっとする育郎だけど、そもそも大抵のモンスターは、ナチュラルに怪我などしていない。
そして、亜栖羽がコスプレするモンスターは、もう決めているようだ。
「そぅかぁ…亜栖羽ちゃんの可愛いモンスター姿を、安心して 拝見出来るんだなぁ…♡」
強面がホッコリしても強面のままだけど、亜栖羽的には、可愛いと感じる笑顔。
「えへへ~♡ 頑張って コスプレします~♪」
亜栖羽も、あらためて気合が入ったようだった。
~第二十三話 終わり~
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