☆第三十二話 天鳳妙院さん☆


「あの、それでは…これから行きますって、メールをさせて頂いても…」

「はい♪」

 約束より早く到着した事を、亜栖羽へメールで伝えると、すぐにメールが返って来た。

『オジサン、もう来てくれたんですね~♪ 私、責任を持って接客しちゃいま~す♡』

「でへへ…♡」

 愛しい彼女からの歓迎メールで蕩ける強面に、お婆ちゃんも微笑んでいる。

「し、失礼しました…それでは…あ」

 出発しようとして、しかし育郎は、お婆ちゃんがドコのイベントへ向かうのか、聞いていない事に気づいた。

「天鳳妙院さんは、どちらのイベントへ向かわれるのですか? もし宜しければ、僕がお送りします」

 正門を潜って、駐輪場から校舎の正面玄関へやって来た育郎が感じたのは、学園祭がとても賑わっている事。

 他校の学生や、この学園の生徒たちの家族だけでなく、学園祭を楽しみに来た地元住民や一般のお客さんたちも沢山いて、校舎内はかなりの混雑具合いだと解った。

「あら、嬉しいですね♪ 私は、一年B組へ向かいます」

「あ、そうなんですか。実は僕も…」

「まぁ♪ それでは、福生さんの愛らしい想いの少女にも、お会いさせて頂いて宜しいですか?」

「あ、は、はい…っ! きっと、大丈夫だと…」

 これまでの亜栖羽を思い返すと、育郎の知り合いへ紹介する事を、とても喜んでくれている。

 更に、実家でもお婆ちゃんが大好きで仲の良い亜栖羽なら、天鳳妙院さんと会っても、喜んで貰えると思う。

(で、でも念のため…メールで知らせたほうが 良いよね…)

「えぇと…」

 育郎が「知り合ったお婆ちゃんも、一年B組にご家族がいらっしゃるようですので、お連れしたいと思いますからが…」と、お伺いを立てたら。

『は~い♪ でもやっぱり~、オジサン モテちゃってるじゃないですか~♪』

「え、ぇえ…っ?」

 愛しい少女の冗談だけど、育郎は冗談だと気づくまで、結構焦った。

「お、お待たせしました…。それでは、行きましょうか」

「はい♪」

 若いカップルのヤリトリに、お婆ちゃんはニコニコ笑顔。

 玄関から校舎内へ入ると、特にスリッパへ履き替える必要とかは、無いらしい。

「と、都会の高校って、そうなのかな…?」

 育郎の通っていた田舎の高校では、学園祭でも、来客はスリッパへの履き替えが当たり前だった。

 持参する人もいたけれど、そもそも超真面目なイベントばかりの学園祭だったので、お客さんそのものが少なかったりする。

「わあぁ…」

「ニギヤカですねぇ♪」

 校庭などの敷地内でも、露店がいっぱい出店していて、家族連れがプチピクニックを楽しんでいたりと、お客さんが多かった。

 そして校内は、イベントのメインなだけあって、もっと賑わっている。

「一年D組~! 和風ロシアンパスタで~すっ!」

「メイド喫茶~っ、二年A組ハウスで~すっ!」

 生徒たちが、それぞれ可愛らしい恰好で、看板を持って客引きを競っていたり、イベントが人気な教室の前には、列が出来ていたり。

 「…すごぃ…♪」

 これが都会の高校の学園祭なのだと、田舎育ちの育郎もワクワクしてしまう。

「ふふ…やっぱり、お祭りって 素敵ですねぇ…♪」

 人混みで真っ直ぐに歩けない廊下を、育郎が背後を護る形で、お婆ちゃんの歩く速さに合わせて進む。

 小柄なお婆ちゃんを背後にしては、目の届かない育郎も心配になってしまうし、育郎が後ろでも強面巨漢がノッシノッシと歩いていると、みな道を開けてくれたのだ。

 それでも距離のわりに少し時間が掛かったものの、二人はお目当ての一年B組へと、到着をした。

「ここですねぇ。私の孫が、この教室なんですよ♪」

(…という事は…)

 亜栖羽の名字は「葦田乃」であり、それは父方の名字で、母方は「有栖乃杜(ありすのもり)」だと、育郎は聞いている。

 どちらの名字も、育郎からすれば、超名家な感じの響きだ。

(亜栖羽ちゃんのクラスメイトで…もしかしたら 亜栖羽ちゃんのお友達に、天鳳妙院さんっていう名字の子が いるのかな)

 もしそうだとしたら、天使には高貴な名前のお友達がいる。

 という、育郎的にはモノ凄く納得が出来る話だ。

 育郎たちは、モンスターガール喫茶のお客さんの列へ、お婆ちゃんを前側に並んだ。


                    ~第三十二話 終わり~

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