10-3

「クリス、それ今朝もう三回目だけど」

 朝食のテーブルでのディーンの指摘に、私は出かかったあくびをすんでのところで飲み込んだ。

「寝不足なんじゃないの?」

 ディーンはクロックマダム〔ハムとチーズと目玉焼きを挟んだトーストサンド〕――彼のそれは厚切りのパンを押し潰して作る――にかぶりついた。

「……いや、そんなことはないよ」

「ふうん。夜なにやってんのか知らないけど――」

「お祈りだよ」言ってしまってから、答えるのが早すぎた(しかも言わずもがなだったか)とちょっと焦る。

「最近しょっちゅう病院に呼ばれてるもんね。同じ人?」

「そうだよ」

「そいつなんでそんなにクリスのこと呼ぶの?」

「え」

「家族とかさ、いねえの?」

「ああ……」ノーラン氏のことに気づかれたのかと思った。「いると聞いたことはないな。どうして?」

「ちゃんと自分の家族がいるんなら、わざわざ赤の他人の坊主なんかそんな何回も呼ばねえだろうって思ってさ。前に言ってただろ、病院に行くの、死神みたいな気がするって」

「……よく覚えているね」

 ディーンは溶けて指についたチーズを舐めた。

 その黒い瞳に現れているのは、純粋な疑問と憐れみの色だけのように見えた。

「家族が間に合わないこともあるし……誰にとっても死ははじめての体験だし……そういうときには誰かにそばについていてほしいと思うものなんじゃないかな。私は――というか、すべての司祭がそうだと思うけれど……その旅立ちの手伝いができればと思っているだけだよ」

「クリスに手を握ってもらったりしたら、天国行きは確実だと思うけどね」ディーンはにやりとした。

 そしてすぐに、

「だけど俺はさ……あんたと……その、家族とかさ、大事なひとと別れてひとりで天国とかいうとこへ行くよりも、地獄でも一緒に生きてるほうがずっといいと思うけどな。生きてるよりいいことなんかないだろ?」

 照れるでもなく自然な笑顔を向けてくる彼に、私はかろうじて微笑み返すことしかできなかった。

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