2-5

 意思に反して押し入る必要はなかった。舌先で整った歯列をくすぐるとすぐに城門は陥落し、侵入者の放埓好き勝手を許した。

 甘い軟体動物と化した舌を吸い、熱く濡れたやわい口腔を堪能する。ラパチーニの娘もかくやと思う甘美さだ――これで命を落とすというのなら以って瞑すべしだろう。

 神父の喉から小鳩の鳴き声のような音が漏れる。ふたり分の唾液を喉を鳴らして嚥下する、その音。

 胸の前でこちらを拒否するように強張っていた腕がほどけ、優美な蛇のように私の首にまつわる。

 ……ああ、この腕の中でなら地上の天国だろうし、ふたりならともに地獄に堕ちるのも悪くない。

 唇を離すと、マクファーソン神父は無邪気な淫魔インキュバスのように、虹彩に砂金を散らせた潤んだサファイアブルーの瞳と、情欲と期待に上気した頬でこちらを見つめた。無垢な赤ん坊のように半開きになった紅い唇から、濡れて真珠の光沢を放つ歯がわずかにのぞく。

 吸血鬼ヴァンパイアの視線以上にひとを魅惑する光景だ。

 私は自分の大脳が理性を司る職務を放棄し、はるか昔に死んだはずの心臓が息を吹き返して静脈ブルー・ヴェイナーに血液を送り込むのを感じた。人狼の小僧が歯嚙みして泣きわめこうがどうしようが構うものか、この黄金の魂は私のものだ。

 神が救いを与えようとしないなら、自らの手でつかみとってなにが悪い。悪魔にひざまずくのはもっとずっと先だ。それまでに何度ドルイドのやつは転生を重ねるのだろう――

 すべてのことは人を倦み疲れさせ、曲がったものを真っすぐにすることができないのなら、慰めを求めるのは弱い人間のさがだ。主よ、そのとがで我々を裁かれるのはあまりにも酷だ、あなたがそのようにお創りになられたのではないのか。

 それでも最後に残された希望と理性が、欲望に食い尽くされる前に正しい手順を踏めと警告する。

「……私と一緒に来ると言ってくれ、神父」

 こちらの両腕と背後の石壁のあいだに閉じ込められているのは、さながらメーテルリンクの青い小鳥といっても誇張表現にはあたらないだろう。

 うなだれた額に、神父の白い額が触れる。熱をもった、たしかに生きている証が感じとれる。たとえいずれは、あるいはまもなく——喪われるぬくもりだとしても。

 百年眠り続けて目覚めた人のように、発した声はかすれていた。

「私はあなたの望むものをなんでも与えられる」

 金銭であがなうことのできるすべてのもの、悦楽、古今東西の貴重な書物、お望みとあらば世界の隠された知識を教授してもらうことも――ただ永久とわの安らぎと平和以外は。

 あの男もこうして眷族を引き入れたのだろうか、夜を渡り歩く呪われた旅路に?

「永遠に私のものになると言ってくれ」

 こちらが誘っているはずなのに、まるで懇願しているかのような響きになる。

 神父はしばし、申し出の内容を吟味するかのように小首をかしげていた。

 ふと、心神耗弱状態でなされた宣誓は有効なのだろうかという疑問がわいたが、その、いつもは理知に輝く瞳が半ば閉じた瞼とけぶる睫毛に隠れ、少し上向いた白い喉から、続く四百年のあいだ待ち望んでいた言葉が発せられるに及んで、そんな疑念は吹っ飛んだ。

「――ええ、私は永遠にあなたの」

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