2-5
意思に反して押し入る必要はなかった。舌先で整った歯列をくすぐるとすぐに城門は陥落し、侵入者の
甘い軟体動物と化した舌を吸い、熱く濡れた
神父の喉から小鳩の鳴き声のような音が漏れる。ふたり分の唾液を喉を鳴らして嚥下する、その音。
胸の前でこちらを拒否するように強張っていた腕がほどけ、優美な蛇のように私の首にまつわる。
……ああ、この腕の中でなら地上の天国だろうし、ふたりならともに地獄に堕ちるのも悪くない。
唇を離すと、マクファーソン神父は無邪気な
私は自分の大脳が理性を司る職務を放棄し、はるか昔に死んだはずの心臓が息を吹き返して
神が救いを与えようとしないなら、自らの手でつかみとってなにが悪い。悪魔にひざまずくのはもっとずっと先だ。それまでに何度ドルイドのやつは転生を重ねるのだろう――
すべてのことは人を倦み疲れさせ、曲がったものを真っすぐにすることができないのなら、慰めを求めるのは弱い人間の
それでも最後に残された希望と理性が、欲望に食い尽くされる前に正しい手順を踏めと警告する。
「……私と一緒に来ると言ってくれ、神父」
こちらの両腕と背後の石壁のあいだに閉じ込められているのは、さながらメーテルリンクの青い小鳥といっても誇張表現にはあたらないだろう。
うなだれた額に、神父の白い額が触れる。熱をもった、たしかに生きている証が感じとれる。たとえいずれは、あるいはまもなく——喪われるぬくもりだとしても。
百年眠り続けて目覚めた人のように、発した声はかすれていた。
「私はあなたの望むものをなんでも与えられる」
金銭で
あの男もこうして眷族を引き入れたのだろうか、夜を渡り歩く呪われた旅路に?
「永遠に私のものになると言ってくれ」
こちらが誘っているはずなのに、まるで懇願しているかのような響きになる。
神父はしばし、申し出の内容を吟味するかのように小首をかしげていた。
ふと、心神耗弱状態でなされた宣誓は有効なのだろうかという疑問がわいたが、その、いつもは理知に輝く瞳が半ば閉じた瞼とけぶる睫毛に隠れ、少し上向いた白い喉から、続く四百年のあいだ待ち望んでいた言葉が発せられるに及んで、そんな疑念は吹っ飛んだ。
「――ええ、私は永遠にあなたの」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます