2-6
「――なにやってんだよ、オッサン!」
神父がすべてを言い終わる前に怒号がそれをかき消した。
ふりむいた視線の先に、黄色い両眼に怒りの炎を
小僧は総身に殺気を
咄嗟に神父の体を突き放す。手近にあった真鍮の燭台をつかみしめ、間髪入れずにやつの凶悪な
小僧はキャンともギャンともいわなかった。空中で器用に体をひねって態勢を立て直し、神父と私のあいだに着地する。
「小僧お前――」
鋭い牙の並ぶ口が耳まで裂けているかのようなさまはまさしく
長い人生でこうも短期間のうちに二度も人狼を相手にすることになろうとは!
柱の陰の神父にちらりと目を
小僧がこちらへ一歩踏み出す。
私は半歩下がった。
「誤解だ」私は言った。「神父を傷つけたりはしていない」
殴っておいて誤解もないものだが、私だってこんなところで
「
黒い狼がまた一歩こちらへ近づき、私も一歩下がる。
「どうした、耳にクソでも詰まって聞こえなかったのかよスケベジジイ、今出ていかねえならこの場で殺す。戻ってきても必ず殺す」
ここでこいつを殺してもいいが……多少手傷を負ったとしても、すぐ手の届くところに
しかし万が一にでも先に神父の気がついたら、可愛がっている仔犬にそんな非道なことをした私に同道しようという心持ちはきれいさっぱり失せてしまうだろう。
そういえば私は傭兵だったのを思い出した。機を見て退却するのは恥ではない――生き延びればまた
前触れなしに投げつけた燭台をやつは間一髪で避け、聖堂に響き渡った金属音に一瞬
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