5-3

「やあ、ディーン。よく来ましたね」

 またべつの日、大聖堂の入口でモーリスは俺たちを出迎えた。

調子はどうワッツアップ?」

まあまあかなファイブ・バイ・ファイブ」とフランス人神父が答えたので、俺は噴いた。クリスも目を丸くしている。

「おや、おかしかったですか? 汚い言葉だったら失礼パルドン・マイ・フレンチ

「やめてよもう」こいつ絶対わざとだ。

 モーリスが人差し指を唇に当てて片目をつぶる。教会で騒ぐなって合図だ。あんたが笑わせたんだろーが。

「すみません」クリスも声を出さずに笑っている。

「アメリカ人になろうっての?」俺は聞いた。

「その国の言葉に詳しくなるのは溶け込む第一歩ですよ。いつまでもラテン語一辺倒ではねえ……」

「俺にはちんぷんかんぷんギリシャ語だよ」エーゴだってあやしいってのに。

「たしかにおっしゃるとおりですね。はじめにことばがあったわけですから、私たちが、ほかの人たちにも理解できる言葉で語らないと福音を広めることも……」

「残念ながら、私は誰かを救うために教会ここにいるのではないんですよ」アメリカかぶれのフランス野郎はちょっと寂しそうに微笑んだ。「救われたいからここにいるんです。私は利己的エゴイストなんですよ」

「おっと、またつまらない話をしてしまいました」下手なマジシャンみたいに両手をひらひらさせて、

「まあそれでも、迷える子羊の相談に乗るくらいはできますからねえ――それで今日はどちらの?」

 わかってるはずなのにそんなこと言う。

「私です」とクリス。

「そうですか、それじゃあディーン、君の大好きなマクファーソン神父さんをちょっとのあいだお借りしますよ」

(なに聞かされても手ェ出すんじゃねえよ)

 俺はためしに念を送ってみた。

 まああんたなら大丈夫だと思うけど。

 テレパシーをキャッチしたのかどうか、やつはクリスと一緒に告解室のほうへ向かっていくときにふりかえって、右眼をつぶってみせた。

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