5-5

 私たちふたりが告解室から出てきたのに気づくと、信徒席に座っていたディーンはふりむいて手をふった。

「彼と話をしても構いませんか?」リュカ神父が小声で尋ねる。

「ええ、お願いします」

「終わったの?」スマートフォンを片手にディーンが駆け寄ってくる。

「ああ」

「怒られたりしなかった?」

「しないよ」とっくに私の背を追い越したというのに、仔犬みたいに純真なで心配そうに見つめられて思わず苦笑する。「それで、リュカ神父がお前にお話があるっていうんだけど……」

「それ、今日じゃなきゃダメなの、モーリス?」

 困ったような顔で、のっぽのフランス人神父を見上げる。

「俺、今すっごく腹が減ってるんだけど」

 私たちは揃って噴き出した。

「これは失礼しました。お待たせして申し訳ない。もちろんですとも。人生において食事より大切なことなんて、ひとつかふたつしかありませんからね」

「あんたならそう言ってくれると思ってたよ」

「そうだ、それでしたら、よかったら今度うちにおいでなさい。家庭料理でよければご馳走しますよ」

「――マジ⁈」ディーンは想像どおりに前のめりになった。「モーリス、料理うまいの?」

「これまでに誰かを毒殺したことはないという程度ですけどね」

「ジョーダンだろ!」ディーンはケラケラ笑った。

「絶対行くよ! ね、いいよね、クリス?」

「もちろん」

「なんでしたらブレナン神父とご一緒でも構いませんよ、彼も思うように食事ができていない様子でしたから」

「ジェレミーも殺そうっていうの?」

「口が過ぎるよ、ディーン」

「よくぞ気づきましたね。ええ、彼はちょっと口やかましいところがありますからね、ちょうど一服盛ろうと思っていたところなんですよ」

「たぶんあいつならシャンパンの一杯で真っ赤になって、ふだんならゼッタイ言えないことをぺらぺらしゃべり出すと思うな」

「おお、それならとっておきの年のを用意しておくことにしましょう――でも君はダメですからね、ディーン。この国の州法では君はまだお酒は飲めない年齢のはず、でしょう?」

 ディーンの表情がみるみるうちに、絶望といってもいいものに変わる。

「そんなあ――それはひどすぎるよモーリス、俺がせっかく、信者になってもいいかなあって思ったのに、今の発言でそんな気持ちはどっかいっちゃったからね!」

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