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司教座聖堂カテドラルにフランス人の司祭がいらっしゃるんですが」

 その夜、ジェレミーがタラとホタテのフライを切り分けながら言った。

「まさか中西部こんなところで、あなたのほかにも、あんな学識ゆたかなかたに出会えるとは思っていませんでしたよ。フランスの……ええとどこだったかな、すみませんちょっとど忘れして……リセと、それからなんとかいう上級学校で神学と哲学の学位をとられたそうで。でも法律や自然科学にもお詳しいんですよ。僕が弁護士試験のことで悩んでいたら、問題の条項がどこに書いてあるかすぐに教えてくださったんですからね!」

 やつは夢見心地でしゃべっている。ナイフを振り回すのはやめろ、危ないから。

「なんていうかた?」クリスが聞いた。

「あ、僕としたことがうっかりして、まだ名前を言ってませんでしたね。モーリス・セラフィン・リュカ神父です。ご存知ないですか?」

「私がここへ来て四年と少し……もうすぐ五年になると思うけど、ちょっと記憶にないな。どんなかただっけ?」

「僕もまだ数回しかお目にかかったことがないんですけどね。なんでも心臓かどこかが弱くて、しばらく入退院を繰り返されていたとかで。だからあんなに優秀なのに助任司祭でいるんでしょうけど――見た感じは五十代半ばくらいで、細身の長身で黒髪の……眼鏡をかけてますよ。ああそうだ、それがめずらしいことに、両の色が違うんです。たしか左眼が黒で、右眼が青でしたね」

「そんな人間やついんの?」俺は口を挟んだ。「それってなんだか猫みたいじゃん」

「たしかにめずらしいけれど、遺伝子やなにかの関係で、人間でも左右の虹彩の色が異なることはあるよ」

 その人の前で猫みたいとか言うんじゃないぞ、とクリスは言った。心配性だな。

「ええ、僕もはじめて見たときはちょっとびっくりしましたよ。眼鏡をかけているのはそのせいもあるかもしれませんね」

「たぶん、お会いしたことはないと思うよ。それだけ印象的ならさすがに忘れるはずはないだろうし」

「それじゃ今度カテドラルに来られたときにはぜひ。あなたのこともお話ししておきますから」

「そうだね」クリスはちょっぴりうつむいて、「……ちょうど、しばらく告解もしていなかったことだし」

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