La fille aînée de l’Église

4-1

「告解ってさァ」

 バスを降りて大聖堂まで歩いていく途中で俺はクリスに聞いた。

「うん?」

「こういう悪いことしましたゴメンナサイ、ってやるんだよな?」

「まあ、すごく簡単にいうとそうだね」

「それって、あのクソ野郎みたいに、自分のやらかしたことをいちいち細かく白状しないとダメなのかよ?」

 いくら腹が立ったからといって他人ひとのことをクソ野郎とか言うのはやめなさい、とクリスは前置きして、

「だって、なにをしてしまったのかよくわからないんじゃ、それが罪にあたるかどうかも判断できないし、そうしたら赦しも与えようがないじゃないか」

「それじゃあその――ジェレミーの言ってたフランス人のなんとかいう神父にさ、あんたがあの吸血鬼野郎にうっかりナニされかかったとか、そんでそのあとあんたが俺をナニしようとしたとかいうわけ?」

「そっ……」クリスは一気に耳まで赤くなった。

「そんなこと」

「そんなこと言うわけないよな。一応セーショク者だから大丈夫だろうとは思うけどさ、なにしろフランス人だし、あんたの口からそんなことを聞かされたら、そいつだって妙な気を起こさないとも限らないし」

「……お前のその印象イメージは、一体どこから仕入れてきたものなんだ?」

 それにその人には告解するんじゃなくて相談するんだし、とクリスはごにょごにょ言い訳したが、俺にはどう違うのかよくわからなかった。


 ♰


 モーリス・リュカってフランス人神父はまるでアスパラガスみたいに背が高かった。たぶん六フィート四インチ〔190㎝〕以上ある。体が弱いって言ってたからだろうけど日にも焼けてないしひょろりとしてるから、ホワイトアスパラだ。

こんにちはアロー

 クリスと自己紹介し合ったあと俺に顔を向けた。

 五十歳は越えてるって聞いたけど、オールバックの髪はこめかみのひと房以外は真っ黒だし(染めてるのかもしれないが)、猫みたいだっていう眼もメガネに隠れてほとんど目立たなかった。トシより若くて優しそうに見える。

「君がムッシュー・ラッセルですね? ブレナン神父からお話は聞いていますよ。マクファーソン神父のお手伝いをしてくださっているとか。洗礼志願者でもないというのに感心なかたですねえ」

 ジェレミーが俺のことをなんて言ったのか一瞬ギクっとしたけど、さすがのあいつもまるきりKYスティック・イン・ザ・マッドじゃなかったみたいだ。

 差し出された神父の細長い手を――指は長くてほっそりしてるけど、ジェレミーくらいデカい手だ――を軽く握る。ひんやりしてて、口調と同じでやわらかい。フランス訛りの英語ってのは、女がしゃべってるとすごくセクシーなのに、男だとオカマみたいに聞こえるのはなんでだろう。まさかとは思うけど。

「ねえ、俺そのへんブラついてていい? 帰るときに連絡くれればいいからさ」

 神父ふたりが込み入ったハナシをし始めたので、俺はすっかり退屈して言った。

「これはこれは。気づかずにいてすみませんね」

「気をつけるんだよ。あんまり遠くへは行かないようにね」

 クリスは俺をなんだと思ってんだ。


 ♰


「素敵な人だったよ」

 帰り道、クリスの頬はあかかった。

「思慮深くて博識で受容的で――理想的な聖職者像っていうのはああいう人のことをいうんだろうな。ほんとうに久しぶりに、身近に自分の目指すところを見出した感じだよ」

「クリスだってそれなりに立派な聖職者だと思うけど」なんだかちょっと面白くない思いで俺は言った。

「私は鋤に手をかけてからうしろをふりかえってばかりだからね。でもあの人に助言をもらえるなら水の上を歩けるかもしれないという気が――どうしたんだい、さっきから黙って。聖堂で行儀よくしているのが窮屈だったのか?」

「ガキ扱いすんのやめろよ」

 たしかにまあまあハンサムイケメンだったし、めずらしく俺のことを侍者扱いしなかったけど、こんなふうに、クリスがほかのヤツを手放しで褒めるのを聞くのは……なんかヤダ。俺のαアルファなのに。吸血鬼野郎とは違って聖職者だから、万が一のことなんかなにもねえとは思うけど。

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