The Unveiling of Salome

2-1

「ひとつ契約外のことを頼みたいのだが」

「なあに?」

 ブロンドの魔女はひとの上で、作ったような甘ったるい声を出した。

「誰かを不能にする薬――じゃない、催淫剤の解毒薬を作ることはできるか?」

「そうねえ……」リベカが蝋板代わりに私の裸の胸をその長い爪でひっかき始めたので、手首をつかんでやめさせる。

「なにが使われたのかがわかれば、その作用を打ち消す――反作用の材料を使えばいいはずだから、できると思うわ」

全部すべてはわからないとしたら?」

「それはちょっとむずかしいわねえ」

「優秀な魔女でも?」

「褒めてくれるなんて嬉しいわ」琥珀色の瞳がチェシャ猫のように細められる。

 お世辞リップサービスに税金はかからないからな。

「わかっているのは亜硝酸アミルと狼の陰茎だ。それも人狼の。だがそのほかにもあるだろうな。こういう件については君らのほうが詳しいだろう?」

「それはまた豪勢ですこと。でもその解毒剤を作れたとして、わたしたちになんの益があって?」

「そいつがあれば、例のものを取り返せるかもしれない」

「あら、まさかあの聖人みたいな神父さんがお困りなのかしら?」双眸が今度は厭らしくきらりと光る。

「いや、彼の患者クライアントだ。神父はカウンセラーでもあるんでね」

 ほどよく張り出した女の腰を両手でつかんで、ゆっくり上下動を始める。

「マクファーソン神父は自分のために地獄と取引はしないさ」



 リベカはビジネスパートナーとしては(としても)優秀だった。進捗連絡をきちんとよこす。必ず対面で報告するのにはべつの目的があるのかもしれなかったが。

 最終的にできあがった代物しろものは、親指くらいのサイズの小瓶に収められた白い粉末だった。不吉な蛍光を発してもいなければ、のたくっている不気味な生物の姿もなく、さらに幸いなことに嫌なにおいもしていない。

「なにが入っているんだ?」

「わたしが作ったわけじゃないから知らないわ」

「なんだって?」

 責任の所在がはっきりしないな、これだから女は。

「そういうのが得意なメンバーにお願いしたのよ。そのほうが確実だから。わたしたちはすべてを共有しているわけではないのよ、ミスター・ノーラン。安全のためにも。わかるでしょう」

 彼女は私の手から商品を取り上げた。どこにしまうのかと思ったら、赤いレースのブラジャーに締め上げられた胸の谷間だ。

「あなたをしていないのはまたべつの話よ。わたしは欲張りなの」

「私はされたって構わないんだが」

「十三人をいちどきに相手にする自信があるの?」

「みんなが君のように美人ならね」

 リベカは(文字どおり)私の上でハーピーみたいな笑い声をあげた。

 彼女の肉体の中で唯一気に入らないのがこの笑い声だ。絶対に私の下になろうとしないのは……まあどうでもいいが。

「もしそんなことに挑戦したら、あなたは朝日を浴びる前に灰になるかもしれないわよ」

「そいつは男の理想の死にかただな」

 魔女が腰をくねらせたので私は快感の呻きを押し殺すのに奥歯を噛み、意識を逸らそうとブラのホックに手を伸ばしたところ、手の甲を思いきりつねられた。べつに痛くも痒くもないが、死斑めいた紫のあざがくっきり浮かびあがる。

「私がそれを飲んだらどうなるんだ?」

「あなたが〈ファイザー〉のお世話になったの?」

 いや、投資以外で製薬会社に世話になったことはないが。

「生きている人間とは作用機序が違うと思うから、なにも起こらないんじゃないかしら――」

 こちらの胸板に両手をつき、形のいい胸を見せびらかすように突き出して卑猥な前後運動を再開する。

「完全に不能にしてくれと頼んだわけじゃないぞ」

「わかってるわ――あなたが自分で飲むにしても、その持続勃起症で悩んでいる可哀想な誰かさんのためだとしても」

 魔女の息が次第に荒くなってくる。乱れた金髪が鎖骨と胸をくすぐり、金色の蛇のように、汗ばんだ肌にとぐろを巻く。

「それに、を失うなんてもったいない」


「回答期限は一週間よ」

 リベカはベッドの下に落ちていたお揃いのレースのビキニを拾いあげた。

「早すぎないか?」

「わたしたちの薬は保存料無添加オーガニックだから、日持ちしないのよ」

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