なんでもお助け相談会同好会の提案
「あうあぅ…………」
十分後。クラスの教室には机に突っ伏した津島と、黒板に自分の名前を書き連ねていく綿雪の姿があった。
我鬼は現在自分の机に大人しく座っており、特にすることもなく黒板を見ている。
水浅葱綿雪。
案外綺麗な字で名前を書くと、綿雪は生徒に向き直り、改めて自己紹介を始める。
「えーと。さっきも言ったけど、私の名前は水浅葱綿雪。国語総合の授業を担当するよ。専門は古文です。よろしくね」
にっこりと笑うと、教室からはまばらな挨拶が返ってくる。
挨拶には微妙に元気がなく、誰も彼も綿雪の額を凝視している。
「あれ? 意外と元気がない」
少し驚く綿雪。高校生とはこうまで大人しい者だったかな。と考えて、まあ、いいか、私が高校生の時もこんな感じだった気がするし。と完結する。
え? 綿雪さん高校生だった時なんてあったの?
「まあいいや。あ、何か質問ある? 私のことでも授業のことでも良いよ」
生徒達が、無言のうちに顔を見合わせ始める。因みにチラチラと綿雪の額を見ながら。
ありゃ? 興味無し? ショウセイ君の時は滅茶苦茶質問してたのに。
なんとなく釈然としないものを感じつつも、まあいいか。と思い、授業を始めようかと口を開きかけた時。
恐る恐る……といった感じで、生徒の一人が手を挙げた。
おっ来た! と綿雪がその生徒を当てる。
「服部さん。どうぞ」
当てられると、図書委員の服部は意を決して口を開いた。
「あの……」
「うん。何?」
服部その後暫く無言だったが、やがて覚悟を決め……。
「……」
言わんと決心し……。
「……」
勇気を出して決意を固め……。
「……」
思い切って……。
「……」
……。
「……」
……否、言おう? と云うかそろそろ尺稼ぐのが辛くなってきたから言って欲しい。
「こらこら。焦らせちゃ可哀想でしょう?」
否、そうだけど……ってお前は話しかけてくるんじゃない! 一応こちとら地の文なんだよっ。話せない設定になっているの!
「ええ。そっちからは話しかけて来る癖に」
其れとこれとは話が別じゃい!!
「あの、先生。誰と話しているんですか?」
「え?」
綿雪はハッとなると、右を見、左を見、そして上を見た。
そして一言。
「……今の誰?」
未だ判ってないんかい。
「あの、それでですね、先生」
「あ、なんだい?」
「あの、ええと……」
「そのたん瘤(こぶ)、如何したんですか?」
「え?」
此処で漸く、綿雪は生徒たちの視線が自分の額に集中していることに気が付いた。
綿雪は手をそっと自らの額に当てると、ありゃーと呟く。
そう、綿雪の額には今結構大きなたん瘤が出来て居るのである。
このたん瘤は綿雪が頭を押さえた津島を引きずって戻って来た時にはすでにあったのだが、生徒たちはどうツッコンでいいのか今まで分からずに放置していたのだ。
「あーこれはあれだ、そこで机に突っ伏している三七十と頭をごっつんこしてね。というか此処まで腫れていたのか」
気がつかなかった。
と呟いて額をさする綿雪。
がしかし、生徒たち一同は其れよりも、綿雪の台詞に全力でツッコミを入れていた。
ごっつんこ?! この歳で表現がごっつんこ?!
三七十?! 服部さんは苗字呼びなのに何で津島と転校生だけ名前呼び!?
然し、綿雪はそんなことは毛ほども気にせず、
「それで、他に質問は?」
今一度、今度は騒めきながら顔を見合わせるクラスメイト達。
そして、今度は大人数が質問を始めた。
「先生いくつ?」
「(身体年齢は)二十四歳」
「えっ? 何で津島だけ名前呼びなんですか?」
「なんとなく」
「と云うか先生津島の彼女だよね?」
「え? ちがうよ。ただの居候」
「何だと! それはそれで新情報!」
念の為言うと、正確には居候でもない。勝手に屋根裏で寝たり雨を凌いだりしているだけである。
「我鬼君と仲がいいみたいでしたけど、どんな関係なんですか?」
「二百年位年くらいの腐れ縁」
「おい貴様っ」
ポロッと本当の事を言った綿雪を睨む我鬼。然し質問した生徒は一言。
「先生冗談が下手だよ」
「ハハハハハ。よく言われる」
「彼氏いるの?」
「今はいないよ」
またもや、綿雪の返答に我鬼が噛み付く。
「待て。昔は居たのか? 初耳だぞ」
「ショウセイ君に言う必要は無いからねえ」
「小生の名前はショウセイではない!!!」
「「そこっ!?」」
少々混沌とした状況になる教室内。そんな中主人公はというと。
「ううっ…頭痛い……響く」
綿雪と激突した頭をさすりつつ、一人呻いているのであった。
「さてと、そろそろ質問は善いかな」
数分後、綿雪は一通り質問に返答し終えそう言うと、今一度チョークを手に取った。
「よし、じゃあ授業を始めよう―――と云いたいところだけど、実はもう一つお知らせがあります」
ここで、先程のダメージから大分回復した津島は、何故か嫌な予感を感じ始める。
不審に思い顔を上げると、綿雪とばっちり目が合った。
サーー。
え、何? 何この悪寒。
綿雪は目だけで津島に笑いかけると、クラスに向け言い放った。
「私は、この学校に新しい部活を作りたいと思います」
そして、黒板に、
なんでもお助け相談会部。
と、書いた。
……はい?
と、津島は思った。
何だそのダサい名前の部活。
心の声とともに、どんどん膨らんでいく嫌な予感。
そんな中、綿雪は新設部の説明を始める。
「いやー高校に入ったら部活を作るのが夢だったのだよね。で、此れはあれだ、ボランティア部みたいなものなのだけれど、学校で困っている人のお手伝いやお悩み相談をする部活なのだよ。あ、ほら、ス○ットダ○ス的な……」
「先生それアウトです」
「まあまあ、著作権に関しては大丈夫でしょう……多分」
綿雪は一瞬声を小さくするが、そのまま気を取り直したように続ける。
「とは言っても、この学校だと一年間同好会として活動しなきゃいけないから、まだ暫くは部活とは言えないのでけれどもね。まあ、それであれだ。同好会にするにもメンバーが五人居ないといけないのだよね……と云うわけで、入ってくれる人ー!」
綿雪が元気いっぱいと云う風に手をピョンっと上げた。
そのまま他の生徒へ手を挙げることを促す。
が、皆もう他の部活に入っているのか、顧問の癖のせいか、名前のダサさゆえか、それとも漂う活動内容の面倒くささのせいか、誰も手を挙げるものは居なかった。
「「……」」
沈黙が教室に流れる。このまま誰も入らないで授業が始まるのか。結構気まずいぞそれは。そう思われた次の瞬間。
「…………因みに三七十とショウセイ君はもう入っていますっ!」
綿雪が爆弾を投下した。
「はあッ?!」
「小生の名前はショウセイではない!」
右から津島、我鬼の順に叫び声が上がった。
……そして我鬼さんはツッコむところそこなんかい。
「え? だって入って呉れるって言ったじゃない?」
綿雪が津島に対して首を傾げた。
「えっ」津島は頑張って記憶を探ってみた。「あっ!」そして思い出した。
「あ、そうだ。そう云えば私君に頼みたい事があったんだけd……」
「そんなの後で幾らでも聞くから!! 後にして!!」
「本当かい? 助かるよ。実は君に入って欲し……」
「入る!! 入るから!」
今朝の、適当に流してしまった会話の事を。
「……まさか今朝の入って欲しいものって……」
「これ」
いうと、綿雪は黒板の文字を笑顔で叩いた。
因みに津島に拒否権は無い。逆らうと何をされるか分かったものじゃあ無いのである。
「……まじかあ」
言うと、津島は再度机に突っ伏した。
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