朝です。早速何かいます
そして、十二月のとある水曜日。
横浜のとある町のとある一軒家、その二階にある部屋の布団の中で、一人の少年が寝息を立てていた。
彼の名は
そんな部屋の窓を
着物に袴をつけた女性だ。白い髪に水色の眼、そして白い狐の耳と九本の尻尾を持っている。
彼女の名は綿雪。二か月前の文化祭から何かと津島に付きまとう妖怪である。悪戯好きでよく他人を振り回す性格をしている。
綿雪は勢いとは裏腹に静かに着地した。そのまま部屋の中心である布団に音もなく近づき、布団の数十センチ前で止まり、ニヤリと笑うと____。
掛け布団を思いっきり剝いで、ついでに津島の腹にジャンピングダイブ。
「起きろー! 三七十! 朝だぞー!」
「グハっ!」
衝撃に津島がもがいた。
何何一体何が起きたのさ?!
混乱する頭で目を開くと、そこにはしたり顔で自分の腹に乗る妖怪がいる。
因みに妖狐の体重は人間の約二分の一であるらしいので、津島の受けたダメージは少ない。因みに綿雪の体重は二十n……これ以上は止めておこう。
「ちょっ、綿雪、何するのさ!!」
「え? 起こしただけだけど?」
憤慨する津島に、綿雪がキョトンと返す。
否、キョトンとするな。どう見ても起こし方に問題がある。子供が真似したらどうして呉れる。
津島も綿雪の答えを聞いて怒っている。彼は口を開いた。
「折角の惰眠を邪魔しないでよ!! しかも布団を剝ぐとか最低!!!」
「ええ……そっち?」
意外な事に、如何やらそうらしい。
「逆にそれ以外何があるの!」
「否、あるでしょ。起こし方とか、不法侵入とか、他に怒るべき点が」
「それやってる本人が言う?」
津島が呆れたように言った。
「うん」
綿雪が何の迷いもなく返した。津島が呆れて盛大な溜め息を吐く。
「全く、そもそも今何時だと思って……」
そう言うと、津島は布団脇に置いてある目覚まし時計を見た。そして固まった。
現在時刻、八時三十分。
因みに学校が始まるのは八時五十分。登校に掛かる時間は歩いて三十分。
あ、やべ。
と津島は思った。
「うわっ遅刻!」
津島は跳ね起きた。否、起きられなかった。綿雪が腹に乗っていた。
「ちょ、ちょっと退いて綿雪!」
「え? 何で?」
「何で? じゃないよ! 遅刻するでしょ!!」
「いつもそんなの気にしないじゃないか」
綿雪が首を傾げた。
確かに、津島は何時も遅刻するし、遅刻しても全く気にしない。綿雪の疑問も
若しかして変なものでも食べたのかな? 其れとも真面目君に成ってしまったのだろうか?
綿雪がちょっと真剣に心配した。
真面目君になったことは心配することではない気がするのは気のせいだろうか? 否、きっと気のせいだろう。
まあ相手はあの変人の津島である。趣味が女性を口説くことと惰眠を貪る事と無茶をして他人をハラハラさせることと言うやばい奴である。よって真面目君になるなんてことは無い。
津島は言った。
「今日は新しい副担任の先生が来るの!! 女性だから口説かなきゃいけないでしょ!!」
「お、おう……? だよね、君ならそう言うと思ったよ……?」
少し予想していた綿雪が複雑そうに言った。その後津島の上から退く。
綿雪が退くと、津島は凄いスピードで準備を始めた。パジャマから制服へと着替え、荷物を鞄に詰めていく。
そんな津島を見て(え? 着替えを見て平気なのか? もう二人ともそんなことは気にしていない。というかお互い気を使うような性格を持っていない)、綿雪はふと思い出したように言った。
「あ、そうだ。そう云えば私君に頼みたい事があったんだけd……」
「そんなの後で幾らでも聞くから!! 後にして!!」
津島が綿雪の台詞を遮って頼んだ。然し聞く綿雪ではない。
「本当かい? 助かるよ。実は君に入って欲し……」
「入る!! 入るから!」
津島はあまり考えずに答えた。取り敢えず話を終わらせたかった。
「おお、じゃあ頼むよ」
話を終わらせた綿雪を横に、津島はどんどん準備を進めていく。
そんな津島に綿雪が言う。
「詳しいことは後で話すね」
「はいはい!」
津島が適当に返事をした。準備はもう終わっている。
「じゃあ学校行くから」
そう言って津島は部屋の扉をくぐった。
その背中に、綿雪が手を振って言う。
「うん、じゃあまた十五分後に」
階段を駆け下りる津島はまだ知らない。三十分後、この時まともに話を聞いておけば良かった、と後悔することを。
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