その後・人間たち
文化祭の話はここで終わりだが、折角なのであの後どうなったかを書いておこう。
まず、劇は大成功を収めた。
高校生離れの演技に、最後のアクション要素。劇の最後辺りには観客が押し掛け、一年四組が最後の挨拶をしたときには大きな拍手が起こった。
しかし、二日目に演目は行われなかった。
何故なら、体育館がぶっ壊れたからである。
体育館がぶっ壊れたからである。
戦闘で壁に傷はでき、窪み、舞台にはクレーターが出来た。こんな状態で体育館なんて使えるわけがない。
壊した犯人として見られている一年四組は、それはもうこっぴごとく叱られた。
具体的には担任と校長に正座のまま約四時間説教をされ、更には部活動の一か月間の参加禁止と、文化祭の一年生の分の片づけを全て押し付けられた。
本当ならば退学処分になってもおかしくないのだが、津島の必死の言い訳と、何だかんだ凄い劇だったという事で学校に注目が集まり、学校に善い視線が集まったため免除になったのである。
この結果になるまで津島はめちゃくちゃ頑張った。喉がかれるまで言い訳を続けた。
出てきた妖怪たちは全員津島の知り合いということになり、「クラスのためにすごい助っ人を呼んだ」ということにした。無理がある。大分無理がある。
しかし校長は信じた。何故信じたんだ。そして何で免除したんだ。
まあしかし、クラス出し物でダントツ一位となれたので、善いか悪いかは微妙なところである。
そして二日目。綿雪はまた現れた。がっつり津島を連れまわして二日間の文化祭を満喫していた。
一日だけで案内は終わりだと高を括って居た津島は、二日目にも現れた綿雪に大層驚いたとか呆れたとか、その様子を見て二人が付き合っている疑惑が深まったとか、勘違いが加速したとか加速しなかったとか。
あ、勿論津島の猫耳写真は校内にばらまかれた。津島がぐったりとしてしまったのはそのせいもあるだろう。
ついでに、あの女性はと言うと……次の日、久々に良い気分で目を覚ました。場所は彼女の借りているアパートの一室だ。
目を覚ましたあと、自分のネット記事の閲覧数を見て、はあ、と息を吐く。そこそこの人数が見ているが、昔一度、少々バズった時には遠く及ばない。
あの感覚が忘れられず、昨日はわざわざ近くの高校までネタを探しにいったのだが、結局途中で帰ってしまった。
と、ここで女性は昨日の出来事を思い出し、昨日言った高校について検索を掛ける。すると、すぐに一つヒットした。
話題は勿論、高校生離れした一年四組の演劇について。それを見て、嗚呼、自分の見た演劇が記事になっている。と、少し顔を緩める。
彼女の頭からは、昨日の妖怪たちのことなど、すっかり抜けている。
「あれ、でも」
昨日自分は、それを見たあと何をしたのだったか。
それ以降の記憶がぼんやりとしていて、はっきりと思い出せない。
とここで、セットしていたトースターからカコンと音が鳴る。
時間が無いことを思い出した彼女は一度疑問を放って、朝食を食べ会社へ向かった。
嗚呼、またモラハラ上司の相手か……。そう思いながら。
そして、そのモラハラ上司の眉毛が油性ペンでとんでもない事になっているのを見て爆笑し、朝の疑問は、もう浮上することは無かった。
そして、現在十一月。
放課後、津島は相も変わらず教室で惰眠を貪っていた。
「藤樫さん煩いなあ……今度また張り紙を……むにゃむにゃ」
また寝ながら人に迷惑を掛けようと画策しているが、もうこれについて気にしてはいけない。いつものことである。
さて、彼は部活に入っていないので、放課後はもっぱら寝ていることが多い。
そんな冬の教室に、北風が舞い込んだ。
「うわっさむ」
津島、寒さに思わず飛び起きる。
誰だいこんなに寒いのに窓を開けたのは?
そう思い窓を見る……すると、そこに見知った顔が居た。
大層な美人である。真っ白な長髪に水色の目、着ている着物は初めて会った時と変わっていない。そして頭には白い狐耳、腰に白い狐尻尾を持っていた。
「へ?」
津島は驚いて変な声を出した。
目を何度もぱちくりさせる。夢であれ夢であれと何回も。しかし目の前の妖狐は消えない。
それでも諦めず、津島は今度は目を擦り始めた。勿論現実が変わることはない。
津島はそれでも諦めな……いや現実逃避が長くないか津島君?
そんな津島の様子を全く気にせず、綿雪は元気に言い放った。
「やあ三七十! 久しぶりだねえ」
「あ、わ、うっうん、久しぶりだね」
綿雪に話し掛けられた事で現実を認知し、津島の顔が引きつった。
あれえ可笑しいなあ、ここは感動の再開じゃないかぁ? 何で青ざめているのかなあ分からないなあ。あの後連れまわされたうえ散々脅されて別れた後やっと解放される―もう二度と関わりたくないーとか言っていたけれど、この中に津島が顔を引き攣らせる心当たりはまっったく無いしなあ、あれえ自分には全然分からないなー(棒読み)。
「な、何でここに?」
冷や汗を流しながら津島が聞いた。
一方明るく綿雪が返す。
「嗚呼、実はここら辺に用事が有ってね」
「よ、用事」
「うん、用事」
綿雪はにこやかーに津島を見た。津島は恐怖を感じた。
「それで、しばらく此処に滞在することに成ったのだけれど、どうもあんまり来たことがないから道に迷いそうだし、泊まる所もないしで困っていてねえ……」
津島は凄く悪い予感がした。
そんな中、綿雪は躊躇なく続ける。
「そしたら丁度ここに知り合いがいるじゃない? 頼まない手は無いよね」
最後、綿雪は最高の笑顔で言い切った。
「というわけで、暫く私の面倒を、見ろ」
命令系である。もう逆らえない、逆らったら酷い目に合う。
否、逆らわなくても酷い目に合うだろう。
あ、終わった。僕の平和な生活。
これから起こるであろう理不尽や面倒事を予想して、津島は思った。
冬の教室の中、津島三七十は一人青ざめたのだった。
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