津島三七十、目覚める
体育館の中を、大きな獣が闊歩する。
角の生えた狼の様な獣だ。赤い体に青白い目、角は白色で、体色の濃淡は一定ではない。体からはドロッとした液体が滴っている。
獣は体育館のステージからゆっくりと進む。向かう先は津島たちが倒れている体育館の入口だった。
よく見ると、体育館の中には赤い霧が薄く充満している。
獣は霧の中を進み、倒れた津島たちの前に着くと、津島の胴体を咥え、体育館の中央に向かって投げた。
ドサッ。
そう音をたて、津島は床へ落ちる。握られていた右手が少し開き、その中のお守りが垣間見えた。五メートルも飛んだはずなのに、津島は眉一つも動かさずに眠り続けている。
獣は再度津島に近づくと、大口を開けた。
開けた時、獣の頭は人の身長ほどに膨れ上がった。口が耳までも裂け、津島をすっぽりと覆うように上へと覆いかぶさると、牙に囲まれた口内が明らかになる。枝分かれした舌が在り、怪異は津島をそれで持ち上げようと、舌を伸ばした。
ドロリ……
ドロ…
…リ
ベチャリ
ベチャ …リ。
怪異の体液が音を立てて床に落下した時、津島はハッと目を覚ました。
目を開けた時、津島は視界いっぱい広がる怪異の口を見、
「うわああ!」
次の瞬間左に勢いよく転がり、相手の牙を逃れた。同時にガチンッという音がし、怪異の口が勢いよく閉まる。
紙一重の回避。
更に距離を取りながらそれを認識した途端、津島の身体から冷や汗が噴き出た。
さっきまであの変な人と一緒に居たのに、行き成り何此の状況。
あれは夢だって言っていたってことは、起きて現実に戻ったってことで良いの?
と云うか……。
起こされるのが後一瞬遅れていたら、少なくとも足一本はくわれていた。
冷たいものを背中に感じ、助けを求めて周りを見回す。
期待を心に入口の方を見る。そして呆然と呟いた。
「皆……?」
其処には、未だ昏倒する綿雪らの姿があった。
思わず駆け寄ろうとした時、津島の左側の空間から衝撃が走る。
反射的に首を回すと、そこには地を蹴る怪異の姿が。
怪異は前足を上げ、此方へと飛び掛かってくる。
……あ、これ、無理だ。
……避けられない。多分、嚙み砕かれる。
周囲の景色がスローモーションで流れるのを感じながら、津島は直感した。
今からどのような動作を取っても、攻撃を回避することは不可能だ。それを本能で理解した。
あれ? 僕、死んじゃう? もしかして。
そう思いながら呆然と怪異を見る。事実を直感したからか、体が動く様子は無かった。
……まあ、良いか。
諦観が頭を過った、次の瞬間だった。
右手に握り続けていたストラップが光り、津島の目の前に、青緑色の膜が展開されたのは。
津島の眼前三十センチメートルの位置から津島を囲むように半円状に展開されたその膜は次の瞬間、獣の牙と衝突する。
高音をまき散らし乍ら攻撃を受け止めた膜は、そのまま怪異を反対側へ吹き飛ばした。
轟音。
飛び掛かった倍の威力で吹き飛ばされた怪異は、体育館の壁に衝突し、木の折れる音と共に体育館の壁へめり込んだ。
「……え?」
津島が呆けた声を出すと同時に、
ピキッ。
と言う音とともに、右手でガラスが砕けた。
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