第20話 愛、愛、愛、愛、愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛

 愛、愛、愛、愛、愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛。

 わたくしは、愛が大好きです。


 昼間はそっけない教父様も、夜、寝室に来るときだけは笑顔をくださいました。

 乱暴な男の子たちも、寝室に来るときだけは笑顔をくださいました。

 不審げに寺院を訪れる方々も、わたくしが奉仕すると笑顔をくださいました。


 愛、愛、愛、愛、愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛。


 もっと、もっと、愛が欲しくなりました。

 変わらぬ愛が欲しくなりました。

 わたくしに愛を向けてくださった瞬間に、喉にナイフを突き立てました。

 その顔を、剥ぎ取りました。


 愛、愛、愛、愛、愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛。


 わたくしは、どうも不器用なようでした、

 教父様からは、「歯を立てるな」ですとか、「もっと優しく触れ」とよく叱責をされました。

 教父様の愛が欲しくて、わたくしは、一生懸命、一生懸命練習しました。


 愛、愛、愛、愛、愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛。


 教父様を5番目にしたのは、不器用なわたくしなりによい判断でした。

 顎の下をくるっと切って、頭のうしろに線を入れて、少しずつナイフでそぎ取っていくと、きれいに教父様のお顔がはぎ取れました。

 ちょうど、縫い物で筒を裏返すときのあの要領です。


 愛、愛、愛、愛、愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛。


 寺院のみなさまで、まずはウィンブルを作りました。

 修道女がかぶっている頭巾のことです。

 みなさまの笑顔に、みなさまの愛に包まれて、わたくしの心はとても温かくなりました。


 愛、愛、愛、愛、愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛。


 寺院のみなさまには、何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も癒やしの愛を施しました。

 何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も愛の形を剥ぎ取りました。


 愛、愛、愛、愛、愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛。


 わたくしが不器用なのがいけなかったのでしょう。

 癒やしの愛を施すたび、みなさまのお顔は変形して、右目から指が生えたり、左目から歯が生えたり、耳の代わりに小さな足が生えたり、唇にびっしりと目が生えたり、そんな風に、愛がなくなってしまいました。


 愛、愛、愛、愛、愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛。


 愛のないものは哀れです。

 愛のないものは要りません。

 愛のないものは生きない方がよいのです。


 愛、愛、愛、愛、愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛。


 みなさま、助けを請いました。

 みなさま、赦しを請いました。

 みなさまに誤解されることがとてもとても悲しかった。


 愛、愛、愛、愛、愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛。


 それでも、やり遂げました。

 不器用なわたくしでは、ナイフは合わなかったようです。

 納屋にあったチェーンソーというもので、みなさまをバラバラにしました。

 それから、ひとつにしました。


 愛、愛、愛、愛、愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛。


 わずかな愛しかなくなったみなさまも、こうしてひとつになれば大きな愛となるはずです。

 わたくしがもっと器用なら、もっとちゃんと愛にできたはずなのに……。

 それについては、謝ることしか、祈ることしかできません。


 愛、愛、愛、愛、愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛。


 わたくしは、みなさまの愛に応えねばなりません。

 わたくしは、みなさまにもっと愛をそそがなければなりません。

 わたくしは、世界を愛で満たさなければなりません。


 愛、愛、愛、愛、愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛。


 だからわたくしは、神に祈ります。


 愛、愛、愛、愛、愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛。


 だからわたくしは、お裁縫を練習します。


 愛、愛、愛、愛、愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛。


 だからわたくしは、ダンジョンに潜るのです。


 * * *


 通路の奥から、ギャリギャリという金属音。

 舞い散る火花が徐々に近寄ってくる。


「愛、愛、愛、愛、愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛」


 そんな言葉も聞こえてくる。

 段々と大きくなっていく。


「愛っ! 愛ですのねっ!!」


 闇から現れたのは、喜悦を浮かべる美しい修道女。

 全身を人面の修道服が覆っている。

 両手に小型チェーンソーを持ち、満面の笑みを浮かべていた。


 ……ったく、配信者ってのはこんなんばっかりか。


「アルプ、いけるか?」

「う、うん!」


 アルプが金色のナイフを両手にそれぞれ構える。

 黄金野郎の兜から作った牙を、ジョカんとこでナイフに仕立ててもらったもんだ。


「レベル30から40ってとこだな。いくらか格上だが、いまの・・・お前なら十分やれるはずだ」

「わ、わかった!」


 アルプがナイフを構えて前に出る。

 ギャリギャリと火花が近づいてくる。


 俺は後ろに下がって観戦だ。

 ちくしょう、自分が戦うよりもずっと心臓がバクつくのはどういうわけだ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る