第9話 死闘✕屍闘

 異形。

 異形。異形。

 異形。異形。異形。

 異形。異形。異形。異形。異形。異形。異形。異形。異形。異形。異形。異形。異形。異形。異形。異形。異形。異形。異形。異形。異形。異形。異形。異形。異形。異形。異形。異形。異形。異形。異形。異形。異形。異形。異形。異形。異形――


 異形の群れ。


 八ツ目の首を、七ツ腕の首を、六ツ足の首を、五ツ鼻の首を、四ツ耳の首を、三ツ頭の首を、二ツ口の首を、切り落とし、切り落とし、切り落とし、切り落とし、切り落とし、切り落とし、切り落とす。


 くそ、牙の切れ味が悪い。

 血脂と腐肉が絡んでいる。

 黄金野郎との戦いで錆びた牙は、まだ治っていない。


「ああうぁァああがぁぁああオぉォォおおぁぁぁアアああァ!!」


 絶叫。

 ペストマスクの野郎が突っ込んでくる。


「オレがっ! オレのっ! 作品イヌをッ!! 壊すなァァァあああ!!」


 ペストマスクが巨大なペンチを振り回す。

 こいつが死体繰りネクロマンサーか。

 魔法使いマジックキャスターは総じて身体能力が低い。


 俺はぴょんたんとバックステップで大振りのペンチをかわす。

 体勢を崩したペストマスクに、ぴょんたんと飛びかかる。

 ペストマスクの首が、湿った音を立てて石畳に落ちる。


「これで片付いたな。この手の魔法は術者を殺せば――」

「ヴォーさん! うしろ!!」


 がちゃり。

 ペンチの閉まる金属音。

 一瞬前まで俺の頭があった場所。

 咄嗟に前転していなければ、ザクロのように潰れていただろう。


 ペストマスクの胴体が、でたらめにペンチを振り回している。

 頭をもがれた虫のように。


「ああうぁァああがぁぁああオぉォォおおぁぁぁアアああァ!!」


 石畳のペストマスクが、奇声を発し続けている。

 死にかけの蝉のように。


「くそっ! てめえまで反死者ゾンビにしてやがるのかッ!」

「ヴォーさん、どうしたら!?」

「北が薄い! そっから抜けるぞ!」

「わ、わかった!」


 アルプが黄金兜をめちゃくちゃに振り回しながら走る。

 あの鎧野郎の兜を紐で繋いだ即席フレイルだ。

 それが半分皮を剥かれた反死者ゾンビの顔に直撃し――


 どじゅう、と煙を上げた。


 どじゅう、どじゅう、どじゅう、どじゅう、どじゅう。

 兜が命中するたび、そこが焼け焦げ煙を上げる。

 腐った肉が焼ける臭いが鼻を突く。


「な、なんか、すっごく効いてる……!?」

反死者こいつらは肉片ひとつでも動く! 仕留めようなんて思うな! 走れ!」

「う、うん!」


 首を狩り、首を狩り、首を狩り、囲みを抜ける。

 ぴょんたんぴょんたんぴょんたんと全力で駆ける。


「ど、どこまで走るの!?」


 アルプの息が上がっている。

 インキュバスは魔法使い寄りの種族だ。

 体力はない。


「次の角を右。もう少しだ。がんばれ!」

「う、うん!」


 背後から、ずちゃりべちゃりと足音が迫る。

 反死者ゾンビの足は遅いが、体力は無尽蔵だ。

 いつまでも追いかけっこはしていられない。


「ヴォ、ヴォーさん!? ここ、行き止まりだよ!?」


 やっと目的地に着いた。

 俺は行き止まりの右隅に飛び、床を落とす・・・・・


「ひゃぁぁぁあああ!?」

「落ち着け。力むと逆に怪我をする」


 俺はアルプの頭に抱きつき、金髪を撫でてやる。

 事前に説明してなきゃビビって当然だ。

 緊急事態だったとは言え、悪いことをした。


「ヴォ、ヴォーさん……これ、なに……?」


 ようやく落ち着きを取り戻したアルプが、震える声を発した。


「これは落とし穴シュートだ。40層まで通じてる」

「40層!?」

「ああ、用事もあったからな。ちょうどいい」


 俺たちは長い長いスロープを、12層から40層まで一気に滑り降りた。

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