第11話 曜子、あずさ、友美、李恵、かな子、ひとみ、ルミ、彩乃、敦子、布美枝、あゆみ、椿、マリア、紗穂、沙保里、芹香、魅音、仁美、咲、ひなな、えりな、しのぶ、歩夢、鈴羽、真帆、七海――

 くそが、くそが、くそが、くそが、くそが。

 オレは自分の首を縫い付けながら、言い続ける。


 くそが、くそが、くそが、くそが、くそが。

 オレは壊れた奴隷イヌどもを修理なおしながら、言い続ける。


 カメラドローンどもはどっかに消えちまった。

 あいつらは撮れ高が高いところに勝手に群がる。

 オレの芸術的な針さばきとペンチ使いは映す価値無しってか?


 くそが、くそが、くそが、くそが、くそが。

 大衆はオレの価値に気づいていない。

 凡愚どもはオレをあざ笑う。

 最後に来ていたコメントはこれだ。


【逃げられてやがんのwww】

【百対二でも負けちゃうんでちゅね~www】

【しょせん陰キャは何をしてもダメwww】


 くそが、くそが、くそが、くそが、くそが。

 絶対に全員ぶっ殺す。

 ダンジョンポイントDPを貯めて、てめぇらの個人情報を全部抜く。


 通学を、通勤を、その帰りを、あるいは自宅で待ち伏せし、あるいは行きつけの店を張り込んで、必ず、必ず必ず必ず必ずぶち殺してオレの奴隷イヌに変えてやる。


 そのためには視聴数が足りない。

 オレの価値を知らしめ、無能どもにわからせるだけのチャンネル登録数がいる。

 なのに、カメラドローンはどっかに消えやがった。


 くそが、くそが、くそが、くそが、くそが。

 運営・・とやらも、いつか必ずぶち殺す奴隷にする


 美智子の応急修理が終わった。

 背中に六つ、ふくらはぎにひとつずつの乳房をつけた自信作だ。

 顔が焼かれちまったのが腹立たしい。

 帰ったら、在庫から色の合う皮を探さなければ。


 ――ぴーんぽーんぱーんぽーん

   ――ぴーんぽーんぱーんぽーん


 間抜けな電子音が響く。


 夜明けを知らせるダンジョンチャイムだ。

 ダンジョンにかかったあらゆる魔法は夜明けとともにリセットされる。


 これであのインキュバスどもが逃げた落とし穴シュートが再起動した。

 劣化した奴隷イヌどもから順番に飛び込ませ、最後に俺が飛び降りる。

 落ちた先に何があるのか知らないが、 危険があっても奴隷イヌがクッションになるだろう。


 落ちる。落ちる。落ちる。

 予想よりも深い。

 肉吊りフックを壁に引っ掛けて速度を落とす。

 奴隷イヌと距離が空いちまうが、仕方がないだろう。


 滑る、滑る、滑る。

 フックが火花を上げている。

 もう10層以上は落ちてるんじゃないか?

 落とし穴シュートの罠って言えば、せいぜい2、3層落ちるのが相場だろうが。


 くそが、くそが、くそが、くそが、くそが。

 ダンジョンまでオレを馬鹿にするのか。

 絶対にいつか殺してやる。


 下が明るくなってきた。

 ようやくゴールか。

 こんな馬鹿げた長さの落とし穴シュートはありえねえ。

 オレの作品イヌが1体でも壊れていたらぶち殺す。


 世界中のダンジョンにガソリンを流し込んで火をつけるんだ。

 あるいは、毒ガスでもいい。

 洗剤の何かと何かを混ぜると毒ガスが出るって何かで見たことがある。


 そうだ、毒ガスがいいな。

 毒ガスなら死体が傷つかない。

 素材がたっぷり手に入る。


 落とし穴シュートから飛び降りる。

 足裏に、ぐにゃりと肉の感触。


 ああ、この感触は絵美じゃねえか。

 リザードマンの皮膚を貼った冷たい感触。

 その下は明美だ。

 下半身だけ十人分つないだからでかい。


 向こうにいるのは和美。

 舌と手のひらに目玉を移植したシンプルな作り。

 隣は里菜。

 足を逆関節に仕上げるのには苦労した。


 それから曜子、あずさ、友美、李恵、かな子、ひとみ、ルミ、彩乃、敦子、布美枝、あゆみ、椿、マリア、紗穂、沙保里、芹香、魅音、仁美、咲、ひなな、えりな、しのぶ、歩夢、鈴羽、真帆、七海、くるみ――


 すべてのオレの作品イヌが、首をはねられ石畳に伏していた。

 黄金の輝きが、俺に迫った。

 視点がすとんと低くなる。

 転がるオレの頭の先には、あのインキュバス。

 オレの作品イヌになるインキュバス。


 その隣には、金色の牙のウサギ。

 その牙からは白い煙が上がっている。


 カメラドローンが5機、6機と飛んでいる。

 ぐるぐる、ぐるぐるとオレを撮っている。

 そうだ、もっと撮れ。

 それが正当な評価だ……


 * * *


「ぷはっ、さすがに堪えたぜ……」

「ヴォーさん、大丈夫?」

「ああ、怪我はねえ」


 俺はペストマスクが動かなくなったのを確認し、どっかりと腰を下ろした。

 しつこいやつだと睨んで待ち伏せていたが、予想はドンピシャだった。

 落とし穴シュートがリセットされる夜明けとともに40層に降りてきたのだ。


「それにしても、その牙すごいね!」

「ああ、いい拾いもんだったな。まさか聖属性だなんて思わなかった」


 ペストマスクとその配下の反死者ゾンビを仕留められたのは、ジョカに新調してもらった牙のおかげだ。

 あの黄金兜を鋳潰して牙に仕立て直したのだ。


 どういうエンチャントが施されているのかはよくわからなかったが、聖属性でアンデッドに特攻を持つことだけは間違いなかった。


「しかし、こいつをずっとつけてるのはキツイな」


 牙の根本に仕込まれたレバーを上げ、牙を外す。

 聖属性はアンデッドだけじゃなく、たいていのモンスターに有効だ。

 無論、俺も例外じゃない。


「じゃ、ジョカんとこに戻るぞ」

「ええー、あの歯医者さん……?」

「嫌なのは痛いほどわかる」


 嫌だが、元の牙に変えてもらわなければこの先が立ち行かない。


「歯医者に行くのは嫌なもんだが、我慢して行くだけの価値はあるもんだ」

「うん……わかった!」


 アルプに言い聞かせながら、俺はこう思う。

 ……ああ、歯医者には行きたくねえ。

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