第43話 最前列が全滅しました。第二陣、確保願います。後衛は支援魔法を

 盾。盾。盾。盾。盾。盾。盾。盾。盾。盾。

 盾の群れが押し寄せてくる。

 牙を突き立て斬撃を伝導とおす。

 ぼろぼろと首が落ちていく。


 アルプは血を操って曲がった刃物にしている。

 盾を迂回して切りつけている。

 また新しいスキルに目覚めていたようだ。


「やめなされ、やめなされ。よそ見はやめなされ」


 魚じじいはうしろで腕を組んで観戦している。

 相変わらず表情は読めないが、声は楽しそうだ。

 いい加減にしやがれ。


「おい、じじい! テメエも手伝え!」

「ほぉっほぉっほぉっ、まだ団子が腹にたまっておってのう」

「やかましい!」


 頭にきたので、せき止めていた流れを変える。

 じじいの方に配信者が向かうようにしてやった。

 下手をすると俺が囲まれる危険もあるが、あのじじいだけ高みの見物ってのは納得がいかねえ。


「仕方がないのう。腹ごなしの運動でもするかの」


 魚じじいが掌底を放つと、数人の配信者がまとめてぶっ飛ぶ。

 ったく、最初からマジメにやりやがれってんだ。


【最前列が全滅しました。第二陣、確保願います。後衛は支援魔法を】


 盾持ちの雑魚を蹴散らしたら、今度は素手の集団が迫ってくる。

 全身がきらきらとマナの光を帯びている。

 さっきの雑魚どもよりも数段格上。

 そのうえ、<筋力増強><速度向上><防御硬化>といったバフを受けているようだ。

 だが、そんなものは関係ねえ。

 盾持ちよりもやりやすい。


 伝導とおすまでもなく、首をすっ飛ばしていく。

 アルプも武器を短剣に持ち替え、一振りごとに首をすっ飛ばす。

 じじいも手刀で配信者どもの首をすっ飛ばしている。


【えー、魚人がかなりの高レベルのようです。後列B班のみなさん、左翼に加勢してください】

「ほぉっほぉっほぉっ。やめなされ、やめなされ、こんなじじいに構うのは」


 そんなことを言いながら、魚じじいの声には喜悦の色が混じっている。

 正円の目玉が戦いの愉しみに濡れている。

 手刀で首を跳ね飛ばし。

 掌底で胸を陥没させ。

 足刀で胴を両断し。

 踵で顔面を潰す。


 俺も負けちゃらんねえな。

 俺はじじいやアルプのように器用じゃねえ。

 牙を振るう。

 牙を振るう。

 牙を振るう。

 牙を振るう。


 ひたすらそれだけだ。

 ひたすら足元に生首をためていくだけだ。


【えー、B班、C班の方が全滅しました。これよりA班出ます。私も指揮ができなくなるかと思いますので、後衛の方、撤退は各自判断でお願いします】


 牙を振るう。

 牙を振るう。

 牙を振るう。

 牙を振るう。

 首が落ちる。

 首が落ちる。

 首が落ちる。

 首が落ちる。


 鎧を着た男たちがいなくなる。

 魔法使いマジックキャスターらしい連中は背を向けて逃げ出している。

 追い打ちは……するまでもないな。

 さすがに疲れた。


「ヴォーさん、ヴォーさん! ボク16人!」


 16人?

 ああ、倒した数か。

 大したもんだ。


「俺は17人だな。もう少しで抜かれるところだったぜ」

「くっそー! おしかった!」


 本当は数なんて数えてなかったが、そういうことにした。

 20人以上はやったと思うが……アルプの成長は確かだ。

 もう少し、もう少しを積み重ねて強くなっていけばいい。


「ほぉっほぉっほぉっ。ヴォーもよい顔をするようになったのう」


 魚じじいが配信者どもの懐を漁りながら口を挟んでくる。

 相変わらず表情は読めないが。何やら楽しげなのが腹が立つ。


「ほぉっほぉっほぉっ。おっ、面白いものがあったのう。これを飲んでみい」


 魚じじいが缶を放ってくる。

 俺とアルプはそれを受け取る。

 赤色で細長い金属の缶だ。


「プルトップ――上についとる金具を引っ張って開けんるんじゃ。うまいぞお」


 言われた通り、8の字をした金具を引っ張ってみる。

 手じゃ上手く引っかからない。

 牙を引っ掛け、缶を両手で引く。


 ――ぶっしゃぁぁぁあああ


 大量の泡と飛沫が飛び出し、喉を直撃する。

 俺は思わずむせ返ってしまう。


「ぶわっ!? ぐほっ、ごほっ、なんだ!?」

「ほぉっほぉっほぉっ。コーラじゃよ、コーラ。刺激的でうまかろう」

「このクソジジイが……」


 コーラとやらで濡れながら、俺は呟く。

 ったく毛皮がべとべとで最悪だ。

 ……まあ、味は悪くないんだが。


「それからお主、もう撮っていても面白いことなんぞないぞ」


 魚じじいが天井に缶を投げる。

 石材に突き刺さり、缶の底が破裂する。

 そのあたりを見るが、別に何もいない。


「じじい、いよいよボケたのか?」

「ほぉっほぉっほぉっ。そうかもしれんのう」


 魚じじいは自分でもコーラ缶を開け、ごくごくと飲み干した。


 * * *


【企画失敗乙www】

【パイセン、台本ちゃんと書いたんすかあ?www】

【配信はハプニングありき……つってもこれはさすがに】


 天井を這いながら戻っていると、そんなコメントが流れてくる。

 はあ……悔しいけど、反論はできない。

 大規模オフ会になっちゃったのがまず失敗だった。

 少人数ならもっと緻密な台本も考えられたけど、百人近くも集まっちゃったらなあ……。


 とはいえ、同接数はけっこう多かった。

 オラは興味ないけど、配信者が殺される方にもけっこう需要があるってことなのかな?

 視聴者さんにも色んなタイプがいるんだなあ。


 オラはオラのやり方を変えるつもりはないけど、勉強にはなった。

 次回の企画に活かしたいと思う。

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