第49話 ゴムに切れ目があるとこうなりますよね

「ゴム製の~~~ガトリング!!」


 腕の長い男が両手をフル回転させてパンチを打ってくる。

 近づいちゃえばリーチは関係なくなるだろうって思ったんだけど、下がって避けるってことができないのが想像よりもたいへんだ。

 かわした拳が床や壁を砕いてる。


【インキュバスきゅん、よくかわすねえ】

【SPD特化?】

【しかしこれじゃジリ貧だろ】


 コメントが流れてくる。

 視聴者っていう人たちらしい。

 こんなの、見てて何が楽しいんだろう?


「ゴム製の~~~ストーム!!」


 腕長さんも言っていることは変わるけど、やってることは変わらない。

 ひたすら連打、連打、連打だ。

 だんだん、慣れてきた。


【インキュバスきゅん、防戦一方】

【風に吹かれる落ち葉のようだ】

【ポエマーが降臨しました】


 防戦、そうだ。防戦はよくない。

 ヴォーさんに教わったことだ。

 闘いの基本は攻め。

 攻めて攻めて、自分のリズムを相手に押し付ける。


 拳が絶え間なく通り過ぎていく。

 顔の横。

 頭上。

 首筋。

 脇腹。

 肩。

 途切れることのない風切り音。


 間合いはまだ遠い。

 必殺の距離に入れない。

 それでも攻めなきゃ。

 どうやって?


 かわしながら考える。

 かわしながら隙を狙う。

 かわしそこねた一撃を短剣で払う。

 硬いゴムでも切りつけたような感触。

 それでも腕長さんの拳には、薄っすら血が滲んでる。


 ……あっ、そうか! 簡単なことだった!


 かわす。

 斬る。

 かわす。

 斬る。

 かわす。

 斬る。


 近づけないなら、近づいてくるものを斬ればいい。

 

 かわす。

 斬る。

 かわす。

 斬る。

 かわす。

 斬る。

 かわす。斬る。かわす。斬る。かわす。斬る。かわす。斬る。かわす。斬る。かわす。斬る。かわす。斬る。かわす。斬る。かわす。斬る。かわす。斬る。かわす。斬る。かわす。斬る。かわす。斬る。かわす。斬る。かわす。斬る。かわす。斬る。


 みちみちっと、異質な音が混じりだす。


「ゴム製の~~~マシンガン!!」


 言葉は違う。でも同じ技。

 連打、連打、連打。

 かわす、かわす、かわす。

 斬る、斬る、斬る。

 みちり、みちり、みちり。

 何かが裂ける音がする。


 かわす、かわす、かわす。

 斬る、斬る、斬る。

 みちり、みちり、みちり。

 何かが裂ける音が大きくなる。


 みちり、みちり、みりち。

 みちり、みちち、みりり。

 みちっ、みりっ、ちちっ。


 ――ぶちっ


「うがぁぁぁあああああああ!?」


 片腕がちぎれた腕長さんが悲鳴を上げてのたうち回る。

 ちぎれた腕は、どこかに勢いよく飛んでいった。

 切れ目を入れたゴム紐を何度も引っ張ったようなもの……なのかな?

 この前、イワナのおじいちゃんのお土産を縛ってた輪ゴムで遊んでたら、突然切れてひどい目にあった。

 よりによって顔に飛んでくるんだもんな。

 あれは痛かったし、びっくりした。


 って、そんなことを考えている場合じゃない。

 攻め、攻め、攻め。

 この隙にとにかく攻めないと。


「<血鉄針釘ブラッディーネイルズ血継伝導トランスミッション>!」

「がぁぁぁあああ!?」


 腕長さんから流れ出た血液をスキルで操る。

 無数の釘に変えて、顔面に突き立てる。

 ヴォーさんの<斬撃伝導トランスミッション>からヒントを得た技だ。

 体外に出たものであれば、他人の血でも操れることに気がつけた。


 そして、顔面には感覚器官が集中している。

 視覚はもちろん、嗅覚、聴覚。

 それらをまとめて潰されて、すぐに対応できる配信者は少ない。

 そう、ヴォーさんに教わった。

 ボクのスキルは威力が低い。

 ポーションをかければあっという間に治せる傷しか与えられない。

 実際、目の前の腕長さんも、腰のポーチから何かを取り出そうとしている。


 だから、させない。

 一気に間合いを詰める。

 反対の腕も根本から斬り飛ばす。


「ゴームゴムゴムゴム! なかなかやるゴムね! ならば奥の手! モード・セカンド解――」


 させない。

 首をはねる。

 両足を飛ばす。

 心臓を突いてえぐる。

 流れ出た血で釘を作り、石畳に縫い留める。


 強い配信者は。死んだあとも何をしてくるかわからない。

 これもヴォーさんに教わったことだ。

 その証拠に、腕長さんの身体からピンク色のイトミミズみたいなのがわき出している。


 それも斬る。

 斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。


 粉微塵になるまで、斬る。

 すっかり動かなくなってから、短剣の血振るいをする。

 だいぶ刃が傷んじゃった。

 歯医者さんに診てもらわなきゃ。


 振り返ると、イワナのおじいちゃんがピアノを弾いていた。

 なんでだろう?

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