第27話 あたしは完璧で究極のアイドル
あたしの家は、いわゆる宗教の家だった。
真言立川流って密教が最初だったんだけど、邪宗としていじめられて、それから、色んな宗教の人が集まってきたんだって。
代々続いてて、千年くらいの歴史があるらしい。
居間には金箔を貼った
でも、踊るのだけは楽しかった。
ご信者さんがうっとりと、頬を高調させてあたしの一挙手一投足を見つめてる。
あたしが法力を放つと拍手喝采だ。
あたしはこれだけをやりたい……って思った。
でも、うちは宗教の家だ。
表には出られない。
だから、Vの身体を手に入れた。
Vtuberっていうのは、仮想の3Dアバターで配信をするアイドルだ。
ネットの世界で、あたしは踊り続けた。
――そして、ダンジョンが現れた。
事務所は大慌てだ。
チャンネル登録数はオールリセット。
あたしにビジネスのことなんかわかんないけど、大変なことなんだなっていうのはわかった。
だから、あたしの家の秘術を使った。
男の子を24人、それから出る精液を金の髑髏に塗り込む。
見るものは多ければ多いほどいい。
その方が「氣」が集まるのだ。
再生数は爆発的に伸びた。
なのに、マネージャーはカンカンだった。
なんでだろう?
チャンネル登録数もすごく増えたのに。
あたしは完璧で究極のアイドルだ。
それがわからないってことは、事務所の人たちがおかしいってことだ。
それは可哀想なことだ。
退所を告げられた日、あたしは事務所を焼いた。
それから、心を込めて、一晩中念仏を唱えた。
もっとマシな来世に輪廻できますようにって。
さて、今日は新企画だ。
モンスター虐待ってジャンルがあるらしい。
新しいことはどんどん試したい。
だって、あたしを知らなかった人たちに知ってもらえる機会だから。
さっそくゴブリンを捕まえる。
ニホンザルを全身脱毛して緑色のラッカーを塗ったようなモンスターだ。
法力で身体を縛り、耳をちぎる。
ギャーギャーうるさい。
【あー、そういうんじゃないんだよなあ】
【不細工なのが殺されても不細工なだけ】
【やはりモン虐初心者か】
むーん、これじゃダメなのかあ。
「インドラヤソワカ」と
全身がびくびくと痙攣して、眼球が沸騰し、口から泡を吹く。
【おっこういうの!】
【なかなかやるじゃん】
【才能を感じる】
えー、いまのはウケるんだ。
ツボがいまいちわかんないな。
ちょっと色々試してみよう。
オークの群れが出てきた。
豚みたいな頭をしたマッチョメンだ。
手に手に槍を持ち、こちらに向かって突っ込んでくる。
「ノウマク サラバタタギャテイビャク サラバボッケイビャク。サラバタタラタ センダマカロシャダ ケンギャキギャキ。サラバビギナン ウンタラタ カンマン」
それを踊りながらかわして、
ほんとはこんなに長々唱える必要はない。
だけど、カタルシスには溜めがいる。
エンタメの基本だ。
「オンアビラウンケンソワカ――<不動明王火界呪>!」
あたしを中心に、円形に炎が拡がる。
地面から火柱が立ち上がって、あたしの巫女服を舞い上げる。
オークたちが「ピギィ」と奇声を上げて炎に伏せる。
その中で、あたしはくるくると踊る。
【ひゅー!】
【かっけー!】
【こういうのもたまにはいいね】
今回は好評みたいだ。
次はどうしようかな?
でっかいトカゲみたいのが出てきた。
恐竜ってやつかな。
図鑑で見たことある。
【ティラノかあ。亜竜だから炎も電撃も通らんぞ】
【しっぽ攻撃もあるから気をつけてー】
【牙も普通に気をつけろよー】
視聴者さんも乗ってきてるな。
けっこう人気のモンスターなんだろう。
あたしは牙を、しっぽをかわし、袖をはためかせて踊る。
「ひふみ よいむなや こともちろらね」
跳ぶ。
「しきる ゆゐつわぬ そをたはくめか」
廻る。
「うおえ にさりへて のますあせゑほれけ」
最後は2回転のバック転。
「ふるべ ゆらゆらと ふるべ」
無数の勾玉が宙に浮かぶ。
どれも、目の前の恐竜の牙のように鋭い。
「ふるべ ゆらゆらと ふるべ」
手を振る。
勾玉が殺到し、鱗を削る。
恐竜が悲鳴を上げる。
「ふるべ ゆらゆらと ふるべ」
手を振る。
勾玉が殺到し、肉に突き刺さる。
恐竜が悲鳴を上げる。
「ふるべ ゆらゆらと ふるべ」
手を回す。
勾玉を回転させ、丸ノコみたいにして首を跳ね飛ばす。
恐竜の身体が倒れて、どすんと地面を揺らす。
両手をさっと振って、勾玉を消す。
それから、7機のカメラドローンに向かって深々と頭を下げていく。
【888888】
【まじかっけぇわ】
【チャンネル登録しました】
ありがとう、ありがとう!
感謝しながら、階層を潜る。
あのきれいなインキュバスは12層なんだっけ?
って、もう12層だし、暗がりの向こうに見えてきた。
金のナイフを2本持つ、金髪の男の子。
女の子みたいにきれいな男の子。
彼と踊ったら、ぜったいぜったいきれいなはずだ。
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