第18話 戦術規模の宇宙艦隊を殲滅できるレベルの火力を一斉に投射する
それは奇妙としか言いようのない生物だった。
七色に光る髪からは、様々な獣の耳がでたらめに生えている。
右の目は瞳孔が3つあり、左の目は昆虫を連想させる複眼だ。
衣服はまとっておらず、6つの乳房を揺らしている。
左右の足は長さが異なり、ひょこひょこと斜めにかしいでいる。
いや、異なるのは長さどころではない。
片足は人間の
逆関節の片足が、でたらめなリズムで蹄を鳴らしている。
「おにーんにん♪(おにーにん♪)おにーにん♪(おにーにん♪)ちんーこの……あれー、こんにちけもん♪」
「こんにち……けもん?」
「こんにちけもーん♪」
奇妙な生き物が、話しかけてきた。
こやつは何者なのだろうか。
まあ、よい。切って捨てるまでよ。
高周波ブレードで袈裟懸けに両断する。
まったく、やはりつまらぬ――
「すっっっごい切れ味だけもん♪ もっと、もっと欲しいけもん♡」
は? どういうわけか、奇妙な生き物はそのまま立っていた。
たしかに両断したはずが、傷跡すら残っていない。
「どしたけもん? もっと、もっと欲しいんだけもん♪」
生き物が近寄ってくる。
ふ、この程度でうろたえるとは余もまだまだだな。
ブレードを縦横無尽に振るい、さいの目に切り刻む。
たとえ航宙プラナリアでも再生不能の微塵切りだ。
生き物は挽肉となって地面にどしゃりと潰れた。
さて、先を急ぐか――
「いいけもん♡ もっと、もっともっと激しく欲しいけもぉぉぉん♡♡♡」
「はぁ!?」
今度は声が出てしまった。
挽肉からずるずると、生き物が立ち上がったのだ。
斬撃は無効か。ならばこうしよう。
左腕の武装を解禁して放つ。
亜光速の弾丸を射出する
弾体が空気圧縮熱により瞬時にプラズマ化する。
数千度の高熱と、発射に伴う衝撃が生き物を跡形もなく吹き飛ばした。
ダンジョンの通路が崩壊し、天井が崩れ落ちた。
「さいこぉぉぉおおおっっっだけもんっっっ♡♡♡ もっと、もっともっともっともっと激しく、もっともっともっといっぱい欲しいけもん♡♡♡」
どうなっている!?
分子単位どころか、原子核の崩壊にまで至る威力だぞ!?
にも関わらず、この生き物は瓦礫の中から立ってきた。
「早く、早く早く早くけもぉぉぉおおおんんん♡♡♡ いっぱいいっぱいいっぱいいっぱいめちゃくちゃにして欲しいけもぉぉぉおおおんんん♡♡♡」
「うぉぉぉおおお!?」
全武装を解除する。
タキオン粒子砲を、ドリルミサイルを、思念駆動銃を、超熱パイルバンカーを、次元断裂剣を、存在圧潰戦鎚を、戦術規模の宇宙艦隊を殲滅できるレベルの火力を一斉に投射する。
「いいぃぃぃィィィイイイけもぉぉぉおおおん♡♡♡ もっともっともっともっとめちゃくちゃにしてけもぉぉぉォォォおおおオオオんんん♡♡♡」
「何なのだ貴様は!?」
次元転送でエネルギーと兵器を取り寄せる。
ぶち込む、ぶち込む、ぶち込む、ぶち込む、ぶち込むぶち込むぶち込むぶち込むぶち込むぶち込むぶち込むぶち込むぶち込むぶち込むぶち込むぶち込むぶち込む。
「けもぉぉぉォォォおおおオオオんんんほぉぉぉおおお♡♡♡♡♡♡♡♡♡」
「うわぁぁぁあああ!?!?!?」
余の叫びが、ダンジョンに虚しく響き渡った。
* * *
「あれ? なんか揺れてる……?」
ダンジョンの天井からパラパラと砂がこぼれ落ちていた。
アルプは見上げながら不安げにしている。
そうか、アルプは発生したばかりだから、これもはじめてなのか。
「これはな、地震って言うんだ」
「ジシン……?」
「地面の深くでオオナマズだかベヒモスだかが暴れてな。それで大地が揺れるんだとさ」
「よっぽど大きなモンスターなんだね!」
「きっと山のように大きいんだろうな」
「へえー、いつか見てみたいなあ」
「ああ、俺もいつか見てみたいもんだ」
この話を聞いたのは、サキュバスの最長老だったか?
ダンジョンが発生する前から存在する古参だ。
千日連続で作り話をしたってくらいのやつだから、どこまで本当かはわからない。
ま、しかし話のネタとしては面白い。
「そういえば、こんな話があったな。大昔、地上にひどく性格の曲がった王がいてな――」
「えっ、えっ!? それからどうなったの!?」
ダンジョンが時折揺れる中、俺はサキュバスから聞いた
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