第37話 コカン湖のコッシー!ついに発見される!!

「お兄ィィィイイイちゃァァァアアアんンンン!!」


 暗闇から奇妙な女が飛び出してきた。

 女――と呼ぶには若すぎる。

 せいぜい十歳やそこらのガキだ。

 金髪で、西洋人形のような容姿をしている。

 服装は入院着? どうもチグハグだな。


「お兄ちゃん、お兄ちゃんでしょ!?」

「え、な、この子、何っ!?」


 そのガキが、アルプに突然抱きついた。

 あまりの突拍子もなさに反応ができなかった。

 アルプも混乱しているようだ。

 俺も混乱している。


「お兄ちゃん! お兄ちゃんでしょ! 私、ずっと探してたんだから!」

「え、ちょ、何言ってるの!?」

「私よ、お兄ちゃん! ポルクシアよ! お兄ちゃんの妹よ!」


 ガキがアルプの身体にしがみついて揺すっている。

 状況がわからねえが……念のため聞いておくか。


「アルプ、お前、妹がいたのか?」

「ちょっ、ヴォーさんまで!? えっと、あの、たぶん……いない……」

「お兄ちゃん!? 忘れちゃったの!? 私よ、ポルクシアよ!」


 ま、アルプに妹がいるわけねえわな。

 アルプは男性型淫魔インキュバスだ。

 妹がいたら種族が変わっちまう。


「さ、お兄ちゃん。私と帰りましょう!」

「え、ええ……ちょっ、ヴォーさん、助けて!?」

「わー! かわいいウサギさん! お兄ちゃんが飼ってるの?」


 もふもふとなでくり回される。

 カメラドローンがその様子をぐるぐると撮っている。

 何なんだこれは……こんな居心地が悪いのははじめてだ。


「こんにちわァん。ずっと診察に来ないもンだから、わっちから往診に……あらァん? 何やらかわいい子がおりんすねえ」


 ああ、くそ、また面倒くさいやつが増えやがった。

 女身蛇体の迷宮歯医者、ジョカがカバンを片手に現れた。


「誰よ! この女! お兄ちゃんの何なの!」

「何なのって言われても……歯医者さんだよ」

「アルプはんの短剣もわっちが鍛えたでありんすよ」

「お兄ちゃんの短剣・・って……どういう意味よ! この色情狂! あばずれ! 売女! クソビッチ!」


 ガキが武器を手にとって、俺はやっと開放された。

 毛並みがめちゃくちゃだ。

 ひとまず足でざっと整える。


「あの、短剣って、これのことで……」

「お兄ちゃんは下がってて! こんな悪い虫がついてたのね! だから、お兄ちゃんはいなかったんだ!」

「あらァん、おませさんでありんすねえ。お兄ちゃんの短剣・・がそんなに気になるでありんすか?」

「このスケベババア! 条例違反! ショタコン! 死ねッッ!!」


 ガキが鞭とノコギリを振るってジョカに襲いかかるが、まあ相手にならんな。

 ジョカは「あらァん」だとか「おお、こわい」なんて言いながら攻撃を避け続けている。


「お兄ちゃんの短剣・・なんておっしゃりなんしから、ちゃんと見たことがあるんでありんすねえ」

「うっさい! 変態! バカバカバカ!」


 ガキは顔を真っ赤にして武器をめちゃくちゃに振り回す。

 ジョカめ、完全に遊んでやがるな。

 ああ、カメラドローンが増えた。

 十二機もあるじゃねえか。

 こんなのははじめてだぞ。


【幼女vs美熟女ラミア!】

【これはほっこりしますねえ】

【がんばれょぅじょ! 負けるなょぅじょ!】

【ラミア姐さんの乳揺れ(*´Д`)ハァハァ】

【ょぅじょのパンチラ(*´Д`)ハァハァ】

【ここは変態のすくつですね……いいぞ、もっとやれ】


 空中にコメントが流れはじめた。

 こっちはたまにあることだ。

 同接数が多いとコメントが投影されるようになる。


「あらァん、たくさん見られるとわっちも興奮しちゃうでありんすよ」

「バカバカバカバカ!」

「そうでありんすねえ、この子をからかうのもなかなか乙でありんすが……ああ、そうでありんす。本当に短剣・・か、確かめてみるでありんすかねえ」


 ジョカは楽しそうに笑って、攻撃を避けながら移動する。

 そしてアルプの背後に回って、その黒タイツを一気に下ろした。


 あー……


「えっ、ちょっ、ジョカさん!? いきなり何するの!?」

「わあ……これは……すごいでありんす……」

「キャァァァアアアアアアアアアアアア!?」

【は!?】

【え!?】

【モン虐民には見慣れた逸物】

【それは おにんにんというには あまりにも大きすぎた】

【大きく ぶ厚く 重く そして カリ高すぎた】

【戦艦大和の主砲かな?】

【ちょっとギネス申請してくる】

【コカン湖のコッシー!ついに発見される!!】


 あー……

 コメントが流れまくって何にも見えねえ。

 カメラドローンもまた増えて邪魔くせえ。

 なんとか目を凝らすと、ガキが泡を吹いて倒れている。


 あー……

 ま、少なくとも俺のせいじゃねえ。


「おい、ジョカ。責任取れよ」

「え? 何でわっちが?」

「何でもだ。地上に捨ててくるなりなんなり片付けとけ」

「ええー、面倒でありんす……」

「知るか。アルプ、行くぞ」


 タイツを履き直したアルプと巣穴に向かう。

 カメラドローンがぶんぶんとついてくる。

 ああ、まったく、わけがわからねえ一日だったぜ。


 ……ま、歯医者にかからずに済んだのだけはよかった。

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