第39話 族長から許可をもらおう
あ……なんだろう……良い匂い……
……お腹空いてきたわ……お肉の匂いもする……そういえば生ハム丸齧りする夢見てたような……あ、目の前にまだある……食べちゃえ。
「ッテェ!おい、ユイ起きてくれ」
バージさんの声だぁ……やっぱり生ハム固いなぁ……ってアレ?
「んにゅ?ばーじしゃん?」
「よお、寝坊助。俺の腕は美味いか?」
「ほえ?」
いつものように私の横に寝ていたバージさん。問題は私がバージさんの腕に齧りついていた事。あ、しっかり歯形残ってる。
「どーりでかたいわけでしゅ」
「おい、ユイ。俺の腕を何と間違えたんだ……」
「えへへ。ごめんなしゃい」
バージさんにごめんなさいのハグをして起きる私。バージさんはそんな私に甘いんだもの。呆れながらも頭を撫でて許してくれたわ。
「ありぇ?もういちのこくでしゅか?」
「いや、まだだが、さっきから良い匂いはしているんだよなぁ。ユイはここにいるし誰だ?って思ってたらお前に齧られた」
「うう、しょれはしょれでしゅ。しょれよりキッチンにいくでしゅよ」
私の下手な誤魔化しに、笑いながらも着替えを手伝ってくれるバージさん。お世話になります。
着替え終わりトテトテ歩いてキッチンに行くと、既に料理を始めているシャルさんとグラレスさんの姿が。
「あら、ユイちゃん、バージさん。もっと寝ていても良かったのですわよ」
「おはようございます。ユイさん、バージ」
シャルさんは得意のパンを何種類も焼いていて、グラレスさんもスープを作ってくれているところだったわ。私もバージさんも二人に挨拶しながらキッチンに入ったの。うん、良い匂い。匂いを嗅ぎながら私は料理の手伝いに、バージさんはTVをつけて魔導エクレシア辞典を見始めたの。
「ところで、こんなにはやくからどうしたんでしゅか?」
「ふふっ、今朝は族長を朝食に招待してるでしょう?それにユイちゃんの願いを叶えなきゃって思ったら気合い入っちゃったんですの。旦那様にもお願いしちゃいましたわ」
「いやぁ、可愛い妻のお願いですからね。それにスープも最近ユイさんのおかげで色々作れるようになりましたから」
ぺろっと舌をだす可愛いシャルさんと、小皿を私に出しながら味見をお願いしてくるグラレスさん。あ、これビーフシチューだ!うん、美味しい!グラレスさんはワインが結構効いているのが好きなのね。族長さんも結構お酒飲んでいたし、丁度良いかも。
私が美味しい!と伝えると、鼻歌交じりにさらに煮込み出したグラレスさん。ふふ、上機嫌ね。じゃ、私はサラダでも作ろうか?
うーん、でも私が今作りたいのは夢に見たアレなのよね。実は王都で見つけていたの、骨付きボア肉。
アイテムボックスからお肉出したら結構重い……ふらふらしている私を見てグラレスさんが慌ててお肉を作業台の上に置いてくれたの。
「これは立派な骨付きボア肉ですな。ユイさんこれはどうするんです?」
「こりぇでなまはむつくりゅでしゅ!」
「ん?なまはむ?」
グラレスさんが手伝いを申し出てくれたんだけど、生ハムはわからなかったみたいなの。「おいしーものでしゅよ!」と言っておいてあえて詳しく教えなかったわ。出来上がりが楽しみになるもの。
で、生ハム作りには欠かせないのがこれ!家電魔導具で見つけていたの!
[時間促進魔導具] MP200,000
***今すぐに味わいたい!というご要望にお応えして出たこの製品!燻製機能搭載で燻製から、時間促進だけ利用して調味料まで多種多様にご利用できます。コース設定も可能で、勿論生ハムの工程が楽に出来上がりますよ。時間と職人の技が必要な物でも、お手軽に作れる職人泣かせのこの一台!自動メンテナンス、自動洗浄は常備搭載、魔導具ショップサイトだからこそ手に入る逸品です!今回は生ハム専用のナイフもお付けしましょう!さあ、貴方も自分好みの味に出会いませんか?***
突然現れた大きな箱型の時間促進魔導具に驚くグラレスさんの横で、笑顔で「あらまぁ」と私のやる事に慣れたシャルさん。グラレスさんもすぐに気を取り直して面白そうに手伝ってくれたわ。といっても、3歳児でも出来る簡単設計。骨付きボア肉を天板の上に載せて、大量のお塩を所定の位置にセットしてコース設定するだけなのよ。
えーと……生ハムは1番ね。時間は合計で30分か……
凄いわよね!だって整形、塩蔵、洗浄、塩分の安定、乾燥から成熟まで四年かかるのが30分で出来上がるのよ。楽しみで仕方ないわ。今回はオート設定のままだから味の変化はできないけど、慣れてきたら色々遊べるわね。
私は待っている間に玉ねぎに似たオニオを薄切りにしようとしたんだけど、シャルさんに止められちゃったの。危ないからだって。3歳児は辛いわ。でもシャルさんだって危ないと思うでしょ?スライスするだけならすっごい上手くなったのよ、シャルさん!……味付けはどうしようもないけどね。
仕方ないから私は魔導具の前にぺたんと座って、観察する事に。だんだん出来上がっていく工程が面白くて、いつのまにか身体を揺らしながら歌っていたみたいなの。魔女のアニメのオープニング曲ね。
それを聞いたグラレスさんが曲を気にいっちゃって、覚えようとして一緒に歌い出すのよ。音程が違ったりすると私に聞き直したりしてね。笑いながら時間を過ごしていると、みんなも起きてきて、冒険者組は恒例の朝の鍛錬へ。
チン!
生ハムも出来たみたい!カパっと魔導具の扉を開けると、しっかり熟成された骨つきボア肉。あ、さすがに丸ごと齧りはしなかったわよ。やりたかったけどね。
後は、お皿にレモンと黒胡椒を程よく合わせた薄切りオニオをお皿に真ん中に高く盛り付けて、周りに薄切りにした生ハムを綺麗に飾って出来上がりなんだけど。ここでもシャルさんが綺麗にスライスしてくれたわ。アレ結構難しいのにね……
生ハムサラダもいっぱい作ったし、ビーフシチューも焼きたてパンも完成。3人で配膳していたらみんなも帰ってきたわ。ついでに族長とシーラさんも。
「おはよう御座います。ユイ様、グラレス、シャルさん。お招きありがとうございます」
「おはよう御座います。あら?もう準備ができているのですか?」
族長、私の事様づけで呼ぶのよね……なんとかならないかしら。シーラさんたら手伝う気満々だったみたい。そんな二人に挨拶をして迎え入れた私は、二人を席に案内したの。シャルさんやグラレスさんは飲み物を準備してくれたわ。鍛錬組も席につき早速朝食を食べる事になったんだけど……
「美味え!これなんだ?」
「すっごいサッパリしているのに味わい深いわ」
「ふむ。こんな味でしたか」
ダンさんは生ハムが美味しくて驚いてくれて、エレンさんも生ハムを味わいながらも食べてれたわ。グラレスさんは生ハムだけをじっくり噛み締めていたの。うんうん、良い感じ。さて、族長やシーラさんは?って見てみたら、
「こんなに美味しくて豪勢な朝食は久しぶりです」
「ユイ様!これお肉なのに生で良いのですか?」
族長は結構な量を食べて満足顔だし、シーラさんは生ハムの見た目がちょっと気になったみたい。でもみんなが喜んで食べているのを見て口にしたら、シーラさんも気に入ったみたいよ。良かった。
他のみんなも美味しそうに食べてくれているからこれは成功ね!生ハムまた作りたいし、街に行ったら仕入れておこうっと。
あっという間に食卓のお皿が空になって、食べ終わったみんなにシャルさんがお茶を出してくれたわ。みんなが満足そうにお茶を飲んでいる時、シャルさんが本題を切り出したの。
「ねえ、族長さん。村の結界は広げる事は可能かしら?」
「結界ですか?それはまたどうして?」
理由を尋ねる族長に治癒温泉の説明をしていくシャルさん。話していくたびにシーラさんは「まあ!」って喜んでいるし、カエラさんやエレンさんもいかに温泉が素晴らしいかを語っていったの。この温泉に関しては女性陣がとりわけ意欲的なのよね。
「温泉……ですか」
でも、族長は考え込んでいたわ。温泉が出来るのは勿論嬉しいそうよ。でも問題は結界。今は街の方に詳しい人が避難中だし、何よりここでは建築資材が手に入りずらいんだって。それに今はマパヤの毛の刈り入れ時だし、手伝いたくても手伝う余裕がないそうよ。
「族長。では作る許可だけ下さいませんか?」
「グラレス、許可は出せるが……」
「でしたら大丈夫ですよ。ね、ユイさん」
私ににっこりと笑いかけるグラレスさん。
ふふっグラレスさんも温泉好きだものね。
「もちろんでしゅ!つくらせてくだしゃい!」
やる気になっている私の様子に、ふっと笑いながら族長は許可をくれたのよ!手伝える事は出来るだけ村人が協力をすることも提案してくれたわ。
嬉しい!早速計画たてなくちゃ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。