第4話 移動って?

 「みぎゃあああああ!!」

 『ご安心下さい。進行の邪魔にはなりません』


 いや、そんな問題じゃなくて!ほら、また来たわ!あ、弾かれた……。


 『反撃の強度を「強」にしておりますから』


 そんな感じでいいのね……でも迫力がありすぎて叫び疲れるわ。あ、皆さんこんにちは。移動中の由依です。魔導ハイヤーの旅は順調?に進んでいますよ。ええ、一度も止まってないもの。


 驚いたわー。最初に人の姿が見えたと思ったら、「タク」によると『アレはオークですね。撲滅していかれますか?』って聞くのよ?「は?」って言っちゃったわよ。返事に困っていたらタクが『オークは生かしておいても誰かが被害を受けるだけですので撲滅をおススメ致します』って説明するわけ。そうなると……


 「じゃ、しゅしゅむほーこーにいたりゃおねぎゃいしましゅ(じゃ、進む方向にいたらお願いします)」


 そう言わざるを得ないわよねぇ。それでどうなったかって言うと……


 「にゃんで……にゃんでしゅうりゃきゅのにゃかとーりゅんでしゅか!(何で……なんで集落の中通るんですか!)」

 『進行方向でございましたので、ご命令通りに遂行しております』

 「しょうでしゅけどー!!(そうですけどー!!)」

 『ご安心下さい。順調に進んでおります』


 ええ、まさかオーク集落の中を突っ切るとは思わなかったのよ。しかも集落に入った途端最大の「反撃」使うものだから窓の外は真っ白になって、周りが見える様になったらオークの一面の屍が出来てたってわけ。それも一度も止まってないのよ、このハイヤー。流石に唖然としたわよ。


 で、今は戻って来たオークやら、残っていたオークを弾きながら進んでるのよ。結界があるとはいえ、向かって来られると叫ばずにはいられなくて冒頭に至るのね。


 でも3歳児疲れるのも早いのよ。流石に眠たくなって「もうまきゃせましゅ……」って言ってストンと眠ったわけ。多分その後しばらく眠っていたと思うけど、「タク」に呼ばれたのよね……


 『……ナー、オーナー起きて下さい。オーナー!』


 何かしら……呼ばれている……?……ああ、「タク」ね。


 「んにゅ……なんでしゅか?」

 

 折角気持ちよかったのに……

 目を擦りながら何とか起きると、窓の外の景色は止まっているの。あら?もう着いたのかしら?


 「もうついたでしゅか?」

 『いいえオーナー、フロントをご覧下さい』


 フロント……?と思って見て見たら、前方に木に寄りかかった血だらけの男性がいるじゃない!えええ!……もしかして死んでるの?


 『前方から生命反応を感知致しました。いかがなさいますか?』

 「いきていりゅんでしゅか?でもどうしゅれば……?(生きているんですか?でもどうすれば……?)」

 『オーナーがご希望でしたら、救助方法はございます。ご希望致しますか?』

 「たしゅけりぇりゅのにゃらたしゅけたいでしゅ!(助けれるのなら助けたいです!)」

 『畏まりました。但しオーナーが外に出て救助する事になりますが、宜しいですか?』

 「もちりょんでしゅ!(勿論です!)」


 元日本人として見過ごせないわ!出来る事があったらやってあげたいもの!魔導ペンダントもしてるし、魔導ブレスレットでどんな人かわかるし!


 『畏まりました。こちらの「魔導救急キット」をお持ち下さい』


 ふんっと気合いを入れていたら、「タク」が床下をパカっと開いてティッシュ箱サイズの箱を出してきたの。この箱の中の魔導具を取り出して「タク」の指示通りに動くように言われたわ。 


 「はいでしゅ!しゃいしょはどーしゅるのでしゅか?(はいです!最初はどうするのですか?)」

 『では、まずは蓋を開けて、ひし形の魔導具をお出しください。そして服の上からでも大丈夫ですので、患者の上に置いて来て下さい』

 「はいでしゅ!」


 ドアを開けて手のひらサイズのひし形魔導具を持って、男性の元にそろそろと近づく私。でも近づいてそっと服の上に魔導具置いたら即座にドアの所に戻ったわ。だってやっぱり知らない人だもの。戻ると「タク」に「魔導救急キット」の蓋を閉める様に言われて蓋を閉めるとボタンがあったの。え?これを押すの?


 「おしましゅ!(押します!)」


 私がボタンを押した途端にひし形の魔導具が光り出して、血まみれの男性の身体を光が包みこんだのよ!そして大体数秒経ったかしら?光が収まって魔導具が無くなっていたの。男性は相変わらず血まみれだけど、表情が穏やかになっていたわね。


 「タク」によるとあれは一回きりの魔導具で、中程度の「ヒール」が入ったものだったらしいわ。ん?今度は何?


 『今度は身体全体を洗浄致します。箱から正方形の魔導具を出し、また患者の身体の上に置いてきて頂けますか?』

 「はいでしゅ!こりぇでしゅね!(はいです!これですね)」


 「タク」から言われた通りさっきと同じ行動をして男性の上に置いてきてすぐに戻る私。振り返って見てみると、今度はボタン押さなくても起動していて男性が泡に包まれていたわ。……息できるのよね?って思わず心配になっちゃったわよ。で、数秒ほどで泡が消えて男性の本来の姿が見えたわけだけれど……


 「このしぇかいにも、やきゅじゃしゃんいりゅんでしゅね……(この世界にも、ヤクザさん居るんですね……)」


 まぁ、普通はカッコ良い男性が出て来ると思うわよね。ある種の人から見ると良いかもしれないけど、私からするとアレは完璧にヤのつく家業の人よ!しかもボス級よ!寝ていても迫力があるったら!もう起きる前に出発しようと「タク」に言ったら……


 『はぐれオークがこの辺りを彷徨いておりますが、宜しいのですか?ヒールの魔導具を使うと安静にさせるために、2、3時間は強制的に眠らせるのでなにがあっても起きない仕様ですが』


 って言うのよ?もう仕方ないから、男性がテントの結界に入る様にテントをアイテムボックスから出して、反対に「タク」をアイテムボックスに納車したわよ。因みに、アイテムボックス内の車庫をダブルタップしたら空間が開いて『本日の業務は終了致します』って言って戻って行ったわ。


 そして、残ったのはテントと私とヤのつく家業の男性。


 一先ず見守っていようと思って、すぐ様テントの中に避難したの。それでも安心出来ないから魔導具で何かないか探して見たの。そして選んだものがこれ。


 〈雑貨魔導具〉より

  魔導フルフェイスヘルメット(赤) MP3,500

 ***魔導バイクに必須のフルフェイスヘルメットです。軽量で貴方の頭のサイズにジャストフィットするこの魔導ヘルメット!物理衝撃、魔法衝撃も防ぎます!インナー内装は吸汗、通気、速乾性、抗菌性、防臭性抜群!ヘルメットの空調機能で冷気を導入、ヘルメット内部の熱気を排出し、良質的な空気対流システムを形成します。防音設計で風切り音はありません!貴方の快適なツーリングをお手伝い致します!***


 魔導ブーツ(焦茶) MP5,000

 ***足が速くなりたいですか?そんな貴方にこちら!サイズは自動で調整され、通気性防臭対策は万全!更に俊敏性がアップされて貴方の動きもより軽やかに!(個人差はあります)どんな足場でも歩けるドラゴンの皮製です!それでこのお値段はお買い得ですよ!さあ、今すぐ手に入れましょう!***


 〈護身魔導具〉より

 魔導小型防護盾(強化透明ボード) MP10,000

 ***貴方の手のサイズに合わせ、軽量化と防護力強化を実現!敵に衝撃、魔法を跳ね返します!メンテナンス機能搭載、常に最善の状態でご使用が可能です!透明なので視界を遮る事もありません!これで貴方も冒険者に!(オーナーはおススメしません)***


 魔導防護ベスト(衝撃、魔法、刃物耐性有り)ピンク MP5,000

 ***触れるだけで貴方のサイズに調整される保護ベスト!その名の通り、衝撃、魔法、刃物は通しません!身を守るだけではなく、通気性も抜群!着心地まで気を配った逸品です!色も各種ご用意オシャレな貴方を満足させます!***

 

 魔導プロテクターセット(膝、肘当て)赤 MP2,000

 ***もはや語るまでもないサイズ自動調整プロテクター!衝撃、刃物耐性は勿論貴方の動きをサポートします!更に多彩な色もご用意!これをつけて、貴方も斥候職に!***


 魔導誘導棒(黒) MP4,000

 ***貴方の手にジャストフィットは勿論、どんな対象、衝撃、魔法でさえ、方向を変える事が出来る誘導棒が登場!まずは広範囲センサーで対象を認識、後は貴方の指示で対象の進行方向を変更させるのです!これで魔物も盗賊も寄せ付けません!(但し対象にもよります)さあ!一家に一本いかがですか!***


 まあ、説明が面白い事になっていたけど、これで万全よね。……多分今の私の方が不審者かもしれないけど……安全には変えられないわ。あ、でも誘導棒は腰に刺しておきましょ。


 「しゃあ、いちゅでもおきてくりゅでしゅよ!(さあ、いつでも起きて来るですよ!)」


 気合いを入れて盾を構える事数分……依然起きて来ないのよねぇ。待つ事30分……まだ起きない。


 「あきてきたでしゅ」


 折角装備したから見せたかったのに。せめてヘルメットは脱ごうと思って脱いだら「う……」と言う声が聞こえてきたのよ。思わず即座に被り直したわ!盾を構えてジリジリ近寄る私に、気がついたヤの字(こう言うことにしたの)。


 「……何だ?お前……?」


 おおお!起きたてでボヤっとしてる筈なのに怖いー!でも勇気を出してヤの字の奴に盾を構えて言ってやったわ!


 「しょちりゃかりゃにゃまえをのびぇよ!(そちらから名前を述べよ!)」


 くうー、締まらないわ。しかも何でか首を傾げているのよ?もう一回名前を言う様に言ったんだけど、やっぱり不思議そうなの。何で?って思ったら……防音機能ついてたんだわ、このヘルメット。仕方ないから盾を下ろして、ヘルメットを脱いで、再度盾を構えて言ってやったわ。


 「にゃをにゃのりぇ!(名を名乗れ!)」

 「………にゃ」


 く、悔しいわ!あの顔で「にゃ」よ!しかも怖い顔でニヤけているのがわかるのが更に悔しい!子供になって行動も引っ張られているのかしら。思わず「ちぎゃうのー!」と地団駄踏んじゃった。


 「……ふはっ!悪い悪い。……お前だろ、俺を治してくれたの。違うか?」

 

 あら?言葉わかるのね。そして意外に声は穏やかで子供の私にも気を使う言い方しているのは好印象ね。顔怖いけど。でも油断はしないわ!


 「しょうでしゅ。おどしゅにゃら、こちりゃにもかんぎゃえありましゅよ!(そうです。脅すなら、こちらにも考えありますよ!)」


 私やっぱり興奮してたのね。魔導ブレスレットは穏やかな青の感情を伝えてきていたのよ。この時は気がつかなかったわ。で、当然ヤの字も穏やかに言い出したの。


 「しねえよ。……助かった。下手しちまってな、荷物も置いてきたし危なかったんだ。ありがとうな」


 あら?意外に笑うと怖さ半減ね。しかも素直に感謝伝えるわね。やっぱり魔導具が正しいのかしら。だとしたら申し訳ないわね、ヤの字。で、とりあえず盾は構えたままで、聞いてみることにしたの。


 「にゃにがあったんでしゅか?(何があったんですか?)」

 「ああ、休んでいたらいきなりオークの群れが森から出てきて囲まれたんだ。30はいたな。切っても切っても森から続々と出て来るもんだから、背後に気を配れなくてな。深手をおっちまった」


 なぜかしら……何となく身に覚えがあるのは。


 「なんせ凄え馬車が現れてな。馬車がオークを弾き飛ばしているんだぜ。あれ見て驚いてしまった俺も悪いんだけどな」


 笑って言う怖い顔のヤの字。それを聞いて青ざめる私。


 「しゅ、しゅみましぇん!」


 3歳児の土下座って上手くいかなかったけど、それどころじゃないわ。明らかに原因私達じゃない!謝らなきゃ気が済まないわ!


 「おいおいおい。何でお前が謝るんだ?しかも親御さんはどうした?戻って来るんだろ?きたら俺がお礼言わなきゃいけない立場だぜ。たっかいポーション使ってくれたんだろ?しかもクリーンまでかけてくれて」


 土下座している私の頭をポンポン優しく撫でて話すヤの字。なにこの人、良い奴じゃない!感動していたら続けてヤの字が言うのよ。


 「しかしまいったな……荷物全部やられちまった。金、街行かなきゃねえんだけど……」

 「しゅみましぇーん!」


 頭ぽりぽりかきながら言うヤの字の言葉に更に謝る私。後から思ったんだけど、これ他の人が見たら3歳児を脅しているヤの字の人よね。シュールだわ……。


 まあ、結局ヤの字にこれまでの経緯を話せるところ話したのよね。誤魔化しながらだけど。でもね……


 「そうか……良くやったな」


 って褒めるのよ、この男。自分がそのせいで被害受けたのにそれを追求しないの。この男を見捨てようとした私の方が性格曲がっている気がして少し落ち込んだわね。


 それにしてもさっきからブレスレットが伝えて来る感情は「優しさ、穏やかさ、実直、心配」なのよ。ペンダントは一向に反応しないし……いっそのこと街まで一緒に行って貰う?街に入る時大人がいた方が何かと安心よね。


 でもそうすると、少なくともテントとアイテムボックスのことは言わなきゃいけなくなるし……ってなぜかペンダントが「安心。安全」って伝えてきたのよ。……なら良いかなって思って。


 「あにょ!よけりぇばいっしょにいきましぇんか?(あの!良ければ一緒に行きませんか?)」

 「……ああ、助かるな。混ぜてもらって良いか?俺はバージだ」

 「ゆいでしゅ!」


 でっかい身体を私の目線まで屈んで、手を差し出して来るバージさん。大きな手に私の小さな手を乗せて握手したの。ゴツゴツした大きな手からは温かい感情が流れてきたわ。うん、この人なら信頼できそう。ちょっと話してみようかしら。


 「まじゅはにゃかでやしゅむでしゅ!きてくだしゃい!(まずは中で休むです!来て下さい!)」


 テントの入り口を掴んで手でバージさんを招く私に、「俺はいれるのか……?」と苦笑して怖い顔をさらに怖くしながら歩いて来るバージさん。


 バージさんが中に入って色々と驚くのは次の話。

 

 「あ!へりゅめっととてゃてわしゅれてたでしゅ!(あ、ヘルメットと盾忘れてたです!)」


 慌てて取りに行く私の後ろ姿を見ていた目はやっぱり怖かったけど、何故か安心した私なのでした。


 

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