第5話 バージさんって?

 「おい……どうなっているんだ……?」

 「ばーじしゃん、こっちでしゅよ」


 テントの中にバージさんを迎えてみたんだけど、やっぱり中に入って驚いていたわね。なかなか動いてくれないから手を引っ張ってリビングまで連れて来たの。


 「はい、しゅわってくだしゃい(座って下さい)」

 「……ああ……」


 ソファーに座らせた後もキョロキョロ周りを見るバージさん。そんなバージさんをそのままに、私はキッチンに行ってコップを二つ戸棚から取り出したの。飲み物と食べ物用意しようと思って。飲み物は買って来ていたペットボトルのお茶と、私はジューサーでバナナジュースを作ろうかな。簡単だもの。魔導ジューサーミキサーが置いてある床にぺたんと座って、始めましょ。


 「じゃいりょーはこちりゃ!(材料はこちら!)」


 バナナ一本、牛乳適量、以上!本当は氷欲しいんだけど、今回は仕方ないわね。魔導ジューサーミキサーにバナナをちぎりながら入れて牛乳を適量っと。でスイッチポン!


 ガアアアアア……!あ、結構静かね、この魔導ジューサーミキサー。……いい頃あいかな?魔導ジューサーミキサーを止めて、カポっと蓋をとってコップに注いでちょっと味見。


 「うん!おいしーでしゅ!」


 あ、砂糖無しでもいいわね、これ。……はっ!後ろから視線を感じる!そう思って振り返ってみると、後ろにバージさんが立って、私を見下ろしているじゃない。どう見ても睨まれているわね。


 「あにょ……にょみましゅ?(あの……飲みます?)」


 もう一つのコップにバナナジュースを注いで、バージさんに勧めてみたわ。いや、そうする様に圧力を感じたっていうのかしら。


 「ああ……悪いな」


 受け取ってクイっと飲み干すバージさん。あ、お茶あったんだわ。思い出してアイテムボックスからお茶も用意していると「お前アイテムボックス持ちか……!」と驚くバージさん。驚くと迫力が2割増しね。なんか慣れて来たけど。


 「そうでしゅよ。あ、こりぇもどーじょ(あ、これもどうぞ)」


 ペットボトルのお茶を渡すと「……どうやって開けるんだ?」とクルクル回すバージさん。あ、そっか。開け方わからないものね。開け方を教えて、飲む方法を教えたらぐびぐび飲んでたわね。やっぱり喉乾いていたのね。


 「助かった。喉がカラカラだったんだ。ありがとな」


 私に空のペットボトルを渡しながら、ポンポンと頭撫でで感謝をするバージさん。怖い顔でもやっぱり良い人よねぇ。「グキュルルル……」……どうやらおなかも空いたみたいね。顔をぽりぽりしながらニヤついているもの。これは照れているのかしら?面白いわね、この人。


 「ちょっと、まってぇてくだしゃい。かんたんにちゅくりましゅ(ちょっと待ってて下さい。簡単に作ります)」

 「悪いな。……なあ、見てて良いか?なんか面白え」

 「?いいでしゅよ」


 といっても簡単なのよねぇ。材料は缶のホワイトソースと缶のミートソース、ピザ用チーズを用意してっと。床にアイテムボックスから出してコトコト置いて。あ、缶詰開けて貰おう。


 「バージしゃん、こりぇあけてくだしゃい」

 

 バージさんの前に持っていって開け方を教えると、簡単にカパッと開けてくれたのよ。助かるわー。アレ開けれなかったのよ。あ!「だめでしゅよ!」ちょっと目を離したら指入れて舐めているんだもの。「これだけでも美味いぞ」って言いながらも返してくれたけどね。完成したミートソースだもの、美味しいわよね。さて!


 「まじゅ、ふかじゃらをよーいしましゅ(まず深皿を用意します)」


 耐熱の深皿これ結構大きいから、バージさんも満足するでしょ。


 「ぱんをしきちゅめて、みーとそーしゅとほわいとそーしゅとちーじゅをのしぇて、ちんしましょ♪(パンを敷き詰めて、ミートソースとホワイトソースとチーズを乗せて、チンしましょ♪)」


 歌いながら、アイテムボックスからパンを出して、ちぎりながら敷き詰めて、ミートソース、ホワイトソース、ピザ用チーズを乗せてオーブンレンジの中へ入れてっと。あ、ラザニアの項目あるからそれに合わせて、後はスタートを押すだけ。


 魔導オーブンレンジだからかしら?すぐにチン!って出来上がったの。うん、良い感じに焦げ目がついているわね。


 「ゆいときゅせい!ぱんらじゃにあできあがりでしゅ!(由依特製!パンラザニア出来上がりです)」


 あ、どうしよう。熱くて取れない。んーと、ハンドタオルで良いか。


 「これ取り出せば良いのか?」

 「はいでしゅ。てーぶりゅにもっていってくだしゃい(テーブルに持っていって下さい)」


 タオルを持ってまごまごしてたら、バージさんがスッとタオルを私から取って、器用にレンジから取り出してくれたのよね。リビングテーブルに持っていってくれたから、私はお皿とフォークと大きめのスプーンを用意してたの。これもバージさん持っていってくれたのよ。結構動いてくれる人なのね。


 テーブルにペットボトルのお水2本と、足りないかも知れないから、コッペパンみたいなパンをお皿に5本出してっと。私がそうやって準備していると、私の分もラザニアを取り分けてくれていたバージさん。あら慣れているわね。


 「ありがとーごじゃいましゅ。じゃ、たべましょー!」

 「ああ、ありがとな」


 一人「いただきましゅ」といって食べてみたら、うん、やっぱり美味しい。流石大手メーカーの味付けね。バージさんは?って思ってみてみたら……


 「おりょ?」


 さっきまで深皿半分以上あったのがもう無くなってたのよ。え?マジック?ポカーンとしていた私に気づいたバージさん。またニヤついた顔で「あ、悪い。美味すぎて食っちまった」とパンを口に入れていたのよ。しかもそれ既に3本目?


 「は、はやいでしゅね。たべりゅの(は、早いですね。食べるの)」

 「まあな。ソロの冒険者やっているとこんなもんだ」


 水をぐびぐび飲んでトンっとペットボトルを置くと、更に迫力のある顔で私をみるバージさん。何かしら?慣れてきたとはいえ、流石に怖いわよ?


 「まずは改めて礼をさせてくれ。助けてくれて本当に感謝する。その上で聞くが、お前は何者だ?」


 あー……やっぱりそう思うわよね。私がどう答えようか悩んでいると更に言葉を続けるバージさん。


 「さっきからずっと観察させて貰ったが、どうやら連れはいないようだし、お前が持っている魔導具はどれも一級品だ。それも俺が知らないものばかり。それにお前の行動は子供にしては賢すぎる」


 これ、慣れてなければ震える案件よね、と考える私。でも落ち着いていられる理由はね、バージさんの感情が魔導ブレスレットを通して伝わってくるのよ。「疑惑、心配、保護すべき」ってね。……ここまで良い人だとわかると、大丈夫よね。


 「じちゅは……」


 もうバージさんに全て話してみたの。私は異世界からの渡人で、この魔導具は私のスキルで出したもの。アイテムボックスもこのデラックステントもクレーリアという方から貰った事。


 舌足らずな私の話を根気強く聞いてくれたバージさん。言い終わって、「……しんじらりぇないでしゅよね(信じられないですよね)」と下を向く私。そこで気づいたのは結構バージさんに気を許していた事。これで否定されたら結構傷つくわね……と考えていたら、ヒョイっとバージさんに抱き上げられたの。


 「そっか、そっか。よく一人で耐えたな。偉い偉い」


 穏やかな声で私の背中をポンポン叩きながら褒めてくれるのよ。ちょっと、私元大人だって話したじゃないって言いたかったけど、出て来たのは涙だった。


 「お前は良くやっているよ。一人でこの世界に来て、一人で生きようとするなんて。しかもそのちっこい身体で頑張っていたんだ。もっと褒めても良いぞ」


 あの怖いと思っていた顔が優しく見えたと思ったらもう駄目だった。気がついたら涙がとめどなく溢れ、私の泣き声が部屋の中に響いていたわ。


 やっぱり寂しかった。

 怖かった。

 不安だった。

 誰かに頼りたかった。

 

 私の中にぎゅっと押し込めていた感情が溢れ出したの。その間バージさんずっと私を抱き上げて背中をポンポンしていてくれた。人の体温がこんなに安心するなんて思わなかったわ。


 おかげでなかなか泣き止まない私。すると、バージさんは「よし、ちょっと外に出るぞ!」と私を抱えたままテントから外に出たの。涙としゃくりあげるのは止まらなかったけど、流石に声がおさまったのをみて、ニヤリとするバージさん。


 「よし。なら今度は俺の番だな。俺のスキルを教えてやるよ。【誘引解放アトラクドリリース】」


 バージさんがその言葉を発したら周囲がざわつき始めて、草木の葉がガサガサし始めたの。そしてリスみたいな動物とウサギみたいな動物が出て来てバージさんの下に集まって来たわ。


 更にバージさんが空を見上げて「来い」っていったら綺麗な色とりどりの鳥たちが来て、私達の周りをゆっくり旋回しているの。取り分け綺麗な尾長鳥がバージさんの肩に止まって毛繕いし始めたのは驚いたわ。おかげで涙もしゃくりあげるのも止まったみたい。そんな私を見てニヤリとするバージさん。


 「俺のスキルは【誘引ゆういん】でな。人と魔物以外の生物を引き寄せるスキルなんだ。こんな顔でこのスキルなんだぜ。流石に恥ずかしくてな。余り使ってなかったんだが、泣いている子供にはピッタリだと思ってな」


 相変わらずニヤリとしながら私を片腕で抱き上げて、頬をぽりぽり掻くバージさん。この人面白い……!それに可愛い子達がいっぱい!


 「ばーじしゃん、ばーじしゃん!おりょしておりょして!(降ろして降ろして!)」

 「はいよ」


 いきなり騒ぎ出す私をゆっくり降ろしてくれたバージさん。そのまま胡座をかいて座り、一匹のウサギみたいな動物を抱き上げると「ほれ」と渡してくれたの。


 「しゃわってもだいじょーびゅでしゅか?(触っても大丈夫ですか?」


 恐る恐る手を伸ばす私に、バージさんは「俺のスキル解放している時は大丈夫だ」といってウサギよりも耳が短い子を優しく手渡してくれたのよ。


 その子鼻がピクピクしていてすっごい可愛いの!フンフン私の匂いを嗅いでいたと思ったら、スリッと頬ずりしてくれたのよ。私もしっかり抱き上げて撫でてあげたら目を閉じてくれたのよね。ふわふわで気持ちいい〜。

 

 すっかりご機嫌になった私をみて、真面目な表情でバージさんが語りかけてきたの。


 「俺も孤児院育ちでな。両親もいなけりゃこの顔のせいで恋人もいねえ。スキルも【誘引】だけだ。だが、ソロで冒険者をやれるぐらいは腕っぷしはある。……だからどうだ?俺と一緒に行動してみねえか?」


 バージさんが真っ直ぐ私をみて誘ってくれたの。ブレスレットからは「期待、不安、心配」が伝わって来たわ。うん、この人なら大丈夫!むしろ面白いわ!でも一応……


 「わたしちいしゃいでしゅし、じゃまになりましぇんか?(私小さいですし、邪魔になりませんか?)」

 「お前一人くらい何ともねえし、お前だって自分の身守れる位強えしな。むしろ俺が世話になるんじゃねえ?俺料理できねえし」

 「いまみゃでどうやっていきてたでしゅか?(今までどうやって生きてたですか?)」

 「宿暮らしだな。ラクで良いが、今後はお前次第か。なあ……相棒」


 バージさんは相変わらずニヤリと怖い顔だけど、もう怖いよりも優しく見えてきた私。うん、この人なら信頼できる。


 「よりょしくおねがいしましゅ!(よろしくお願いします!)」

 「ああ。よろしく頼む」


 ウサギを降ろしてバージさんの近くに行き、差し出す私の小さな手を優しく握り返してくれた大きな手のバージさん。


 こんな小さな私を相棒ですって。

 ふふっ……こちらこそ宜しく、相棒。

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