第6話 これからの予定って?

 「ありぇがふぇんしゅるでしゅか?(あれがフェンシルですか?)」

 「ああ、そうだ。別名塩の街って言ってな。ほれ、あの立派な山があるだろ。アッピド山は岩塩の取れる山なんだ。で、湖は魚が取れるし、城壁の外行きゃボアやオーク肉が取れるからな。飯が美味い街だな」


 フェンシルが見渡せる小高い丘の上で指を差す私に、その私を片手で抱き上げながら街の説明をしてくれるバージさん。……側から見たら攫われて来た子供とヤクザさんのでこぼこコンビは、フェンシルの街が見えるところまでようやく着いたのよ。


 まあ、着くまで色々あったけど……


 ******************


 バージさんのスキルを見せてもらった後、テントに戻った私達。お皿やペットボトルを片付けて、一先ず今後の相談をする事にしたのよ。でもスキルを使ってまた少しお腹が空いたバージさんと、泣いてお腹が空いた私。そこで急遽オヤツとお茶の時間を取る事になったの。


 「では!おやちゅくっきんぎゅのおじかんでしゅ!(ではおやつクッキングのお時間です!)」

 「おー!待ってました!」


 ノリの良いバージさんを観客にまた床にペタンと座ってクッキングタイム。またまた簡単なものよ。


 「よおいしゅりゅのはこちりゃ!(用意するのはこちら!)」


  魔導マルチナイフ MP3600

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 セット価格があるなんて、なんてお得!って事で買わされたこの二つ。まあ、必要だし良い買い物したって事で良いかな。パンはスライスする機会が多いと思うのよ。で、バージさんにやってもらおうと思うの。だってね……


 「しゃて!ぱんをうしゅくきりましょ(さて!パンを薄くきりましょ)」

 「待て待て待て待て!」


 魔導マルチナイフを片手に魔導まな板の上にパンを乗せて、いざ!と思っていたらバージさんからストップがかかるのよ。理由は「危ねえだろうが!」だって。一応説明したのよ、安全な魔導具選んだって。でも「切るくらいなら俺がやる」って睨むのよ、この人。意外に過保護よねぇ。


 「じゃ、ばーじしゃん。パンをいっしぇんちくりゃいにきってくだしゃい(じゃ、バージさん。パンを1cmくらいに切って下さい)」


 とりあえず、魔導まな板と魔導マルチナイフとコッペパン三個を渡してやってもらったのよ。そしたら真剣な顔で「1cm……1cm……」って言いながら切っているの。まるで人を殺しそうな目線でパンの薄切りやっているのは面白かったわね。


 「そにょあいだに!こりぇをやりましょ(その間にこれをやりましょ)」


 アイテムボックスからバターの塊を出して、バターを魔導オーブンレンジで温めて溶かしておいて、あと用意するのはお砂糖ね。グラニュー糖があれば良いけど、ある物でやらなきゃね。バージさんからパンをもらって天板の上に並べて、魔導オーブンレンジに入れて「ラスク」の項目にセットしてスイッチポン!「チーン!」ってすぐに出来るのは良いわよね。


 うん、一度で両面できるのはラクね。バージさんに魔導オーブンレンジから取り出して貰って、片面にバターをつけて砂糖もたっぷりふりかけて……もう一度「チーン!」で出来上がり!


 「かんたんりゃしゅくのできあがりでしゅ!(簡単ラスクの出来上がりです!)」

 「へえー、美味そう」


 ってバージさん冷めてから食べてって!「美味!」って食べちゃった。……ま、いっか。このまま食べよ。サクサクして甘くて美味しい〜!……ハッ!またマジックが起こってる……私二枚だけしか食べてないのに(泣)。


 ニヤけているバージさんにもう一度切らせて、作り直してを更に2回。バージさんが満足する頃には、食べながらゆらゆら揺れている私。眠くて眠くて駄目だったわ。


 そして気づいた時にはベッドの上。しかも朝になっていたわ。どうやらバージさんが運んでくれたのね。で、そのバージさんはっていうと姿は見えないけど多分隣で寝ていたのね。まだ布団あったかいもの。


 目を擦りながら起きて、リビングに行っても居ないし、外かな?っと思って入り口を開けて見たら、バージさん剣の稽古をしていたの。動きが凄い早いのよ。ビックリしちゃった。ボケーと見ていた私に気付いて、「お、起きたか」って動きを止めて迫力スマイル。朝一でも大丈夫なくらい見慣れて来たわね、私。


 でも身体に精神年齢が引っ張られているのかしら。トテトテ歩いてバージさんにぎゅーとくっついたの。やっぱり安心するのよねぇ、この人の側。その様子に「ふはっ」と笑って私を抱き上げたバージさん。「メシにしようぜ」と私を片腕で抱いたまま、テントに移動して簡単に食事にしたの。


 で、朝から魔導具お買い上げ。


 魔導ポット MP13,000

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 カップスープも買っていたのよ。朝は簡単にしたくてね。苺ジャムも出して、パンは山盛り。やっぱりマジックは起こったわ。ちゃんと噛んでいるのかしら?カップスープに感激したバージさんはカップ麺まで食べてたわね。お腹が落ち着いてようやく本題を話しあえたの。


 「まずはフェンシルの街に戻って、荷物取ってこなきゃいけねえな。で、食料調達だな」

  

 カップラーメンのスープまで飲み干すバージさんが言うには、このデラックス魔導テントがあれば宿はいらないだろうって。宿のベッドは硬いし、壁は薄くてうるさいしって事で私も納得。


 身分証作らなきゃっていったら「3歳児に身分証出すとこねえよ」と正論が返ってきたわね。……そうね。3歳だったわ、私。でも元社会人として身分証ないのは心もとないなぁって思っていたら、バージさん面白い事言うのよ。「行きたいところに行けるから良いんじゃないか?」って。


 そういえば私日本にいた時、いろんな場所に旅行行きたかったのよね。この世界を一周するのも良いわね。って思っていたら、やっぱり確認したくなったのよね。


 「いりょいりょなとこりょいきたいでしゅ。……いっちょにいってくれましゅか?(色々な所行きたいです。……一緒に行ってくれますか?)」


 上目使いに聞く私の気持ちを汲み取ってくれたバージさんは、私の頭撫でながら「当然だ、相棒」って言ってくれたの。嬉しくてまたぎゅーと足に抱きついちゃったわ。昨日から抱きつき癖がついたわね。でも側にいるとほっとするのよ、この人。で、ソファーによじ登ってバージさんの隣に座る私を撫でながら、バージさんが言うには……


 「それでも少しの間はフェンシルにいようぜ。あそこは良い街だし、飯も美味いからな」


 だって。確かにそうね。旅の楽しみはその街の美味しいもの巡りもあるし!その街その街の特色を楽しまないと!


 そこで話しあって決めたのが、フェンシルの街の近くにテントを張って、しばらくそこを拠点として街に遊びに行く形にする事。生活手段はこのテントでも獲物は仕留められるしって言ったら「俺が稼ぐ!」ってテントに対抗意識を燃やすバージさん。うん、そこは頑張って、と気楽な私。


 こんな感じで話がまとまって、早速動き出したのよ。バージさんによると、拠点候補地はここから歩いていける距離っていうから歩いて移動するって話になったんだけど……


 「みぎゃああああああ!!」

 「うーわ!凄え、この靴!」


 覚えてますか?魔導ブーツの存在を。バージさんの靴、結構限界にきていたからサイズ自動修正するあのブーツを出したのね。私は普通に靴あるし。でも(個人差があります)のこの情報、普通は効果が効かないのかな?って思うでしょう?効果が効きすぎる場合の事も言っていたのね……私を抱えながら飛ぶ様に走るバージさんの早いこと早いこと!体感はジェットコースターに乗っている感じだったわ。


 当然、目的地についた途端に安堵の気持ちからお漏らししてしまった私。自分も汚れたのに「悪い悪い」って笑って、泣く私を上手く誘導してアイテムボックスからテントを出させて、世話してくれたわ。魔導洗濯乾燥機、大活躍よ。


 一緒にシャワーを浴びて(3歳児だからね)身体を拭いて貰って(3歳児だもん)着替えさせてもらって……って所まできたら、この人世話好きなのねってわかったけど。お世話になるのも良いものね。


 で、ようやく冒頭に至るのよ。

 でも今日はフェンシルの街を見るだけ。

 明日街に行く事にしたの。

 だってね……


 「さーて、今日の晩飯は何にするんだ?」

 「きょーはありゅものでちゅくるしちゅーでしゅ!てつだってくだしゃい!(今日はある物で作るシチューです。手伝って下さい!)」

 「はいよー」


 はらぺこ二人組はこんな感じだもの。

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