第7話 フェンシルの街の中って?

 「ほわあ!しゅごいおっきいでしゅね!」

 

 私の目の前にはフェンシルの城壁。小さいから余計に大きく見えるのよね。でも今はバージさんに抱えられているからまだ目線高いんだけどね。


 そう、私達は朝起きてすぐにフェンシルの街に出発して、街の城門が開く前に到着したの。でも流石岩塩の街。商人さんや冒険者、一般の人達が既に入場の為に列を作っていたの。それで私達も列に並んでいるところなのよ。


 「ああ、ここは高い山に囲まれているからな。魔物対策の為にも高く作っているんだろう」


 私の言葉にバージさんが情報を教えてくれるのは良いんだけど……


 「おい……!あの子大丈夫なのか……?」「見ろよ!『加速のバージ』に子供いたぞ!」「うわ……!子供攫ってきたのか……?」「ちょっと助けた方がいいんじゃない……?」って周りの人達の声が聞こえてくるのよね。


 バージさんの見た目が見た目だからかしら。やっぱりそう見えるのよねぇ。良い人なのよ、皆さん。かと言って今私が何か言っても、火に油を注ぐ様な物だし。……というか気になる単語が聞こえてきたわね。


 「かしょくのバージ……?(加速のバージ……?)」


 思わずバージさん見上げちゃったわよ。なにその厨二チックな二つ名は。ジーッと見つめる私の目線にニヤリとするバージさん。


 「ああ、気にすんな。周りからそう言われているだけだ」


 相変わらず怖い顔を更に極悪人の表情にしながら、私の頭を撫でるバージさん。「うわ……」「おい……」「ちょっとお前行ってこいよ」「お前助けに行けよ」と周りが更にざわめき始めたのよね。でもこれ、バージさん照れてるだけなんだけどな。そう考えていると……


 「よお!極悪人!遂に子供攫ってきたのか?」


 前から一人の冒険者らしき男性が声をかけてきたのよ。赤い短髪に丈夫そうな革の装備を身につけた体格の良い男性。バージさんと同じくらい大きいわね。


 「……ダンか。馬鹿いうな。俺が拾われたんだ」

 「は!?」


 知り合いみたいだけど、バージさんそれはどうなの?確かに私が助けたけど。ほらその男性も驚いているじゃない。「え?」「は?」「あの子度胸あるな……」って周りもざわめき始めたわね。


 「ブハッ!そう来たか!面白え!」

 「……なんだ?その子可愛い顔して意外に強者だな」


 ギャハハ笑う男性の後ろから、今度はやたら整った顔の銀髪ロングの男性がきたわね。この人は長めのローブの下に軽く革の装備をつけているわ。なんかゲームの魔法使いの格好みたいね。


 「ルインもいたか。って事はグラレスさんも一緒か。仕入れ帰りか?」

 「ああ、ダンの馬鹿が調子こいてなきゃ、昨日の夜はちゃんとしたベッドで寝れたんだがな」

 「だから悪かったって。でも稼ぎは上がっただろ」

 「それがなきゃ袋叩きだな。グラレスさんにまで迷惑かけて」

 「ああ、だからオークの取り分渡しただろ。まあ、グラレスさんだから突っ込んで行ったんだけどな」

 

 ん?また気になる単語が出てきたわね。まさか……


 「違うだろ。面白い馬車見つけたって走っていっただろうが」

 「だってよ。馬車がオークを弾き飛ばしているんだぜ!誰だってアレは確かめに行くだろ!」


 はい、決定。ここにも被害?者いたわね……あ、バージさんもわかったのか、私を見ているわね。(周りから見たら睨んでいる様に見えているでしょうけどね)


 「まあ、その馬車は気になるが、お前ら持ち場離れて良いのか?」


 あ、バージさん上手くはぐらかしてくれた。ありがとう!バージさん。


 「エレンにカエラがいるから大丈夫だろ。ま、バージが面白い状況になっているから様子見に来ただけだからな」「同じく」


 どうやら私達を見て揶揄いに来るぐらいは、バージさんと親しいのね。その後「じゃ、またな」「宿で」と言って先頭に戻って行った二人。二人が向かった方向を見ると、馬車から手を振る商人風の男性とこちらを見て軽く手を挙げて挨拶する二人の女性冒険者みたいな人達の姿が見えたの。あれが冒険者パーティーって人達かしら。なんか良い人そうね。


 「アイツらは俺を見た目で判断しねえ、気持ちいい奴らだ。『パルトール商店』って言う、この街一番の商店の専属護衛『赤獅子あかしし』メンバーのリーダーのダンと魔法使いのルインだ」


 バージさんが二人の背中を見ながら教えてくれたけど、少し柔らかい表情で話してくれたって事はそれぐらい仲が良いのかしら。バージさん意外に友達は多そうね。


 「あにょばしゃのにゃかにいりゅひともなかいいでしゅか?(あの馬車の中にいる人も仲良いですか?)」

 「いや、グラレスさんはこの街にいる冒険者なら誰でも世話になっている人でな。俺もその一人なだけだ」


 私の質問に簡単に答える割には、その人に向かって頭を下げるバージさん。バージさんがお世話になった人かぁ。覚えておいた方がいいわね。


 そうこうしているうちに門が開いて列が動き出したの。門の下まで来た時、某仏国の有名な門を思い出したわ。TVで見ただけだったから、あの有名な門も真下から見上げるとこんな迫力あったのかなって呑気に思ってたわね。


 「お!バージか。お前いつから子持ちになったんだ?」


 私達の番になってガタイの良い兵士のお兄さんにバージさんが身分証明書みたいなカードを渡していた時、腕の中にいる私に気がついたみたいね。バージさん、兵士のお兄さんも知り合いなのかしら?


 「エギル、お前わかって言ってるだろ。しっかり聞いてたんだろう?ダンから」

 「そりゃ、聞くだろうが。バージがこんな珍しい状況になって戻ってくるんだぜ。なあ、嬢ちゃん。この街は初めてかい?」


 あ、やっぱり知り合いだったんだ。このお兄さん私の頭を撫でながら優しく笑いかけてくれたから答えようとしたら、バージさんその手を掴んで「俺の相棒に触んな」って睨んでいるのよ。これには流石に驚いた兵士のお兄さん。


 「おいおい、更に面白い状況だな。後で教えろよ。じゃその子の分の銀貨一枚貰うぜ。早くギルドで登録してやんな」

 「ほらよ。わかってる」


 ニヤニヤしながらバージさんからお金を受け取る兵士のお兄さん。でも私を見ながらこう言ってくれたのよ。


 「バージの相棒のお嬢さん、ようこそ!岩塩の街フェンシルへ!」


 兵士のお兄さんが両手を広げて歓迎してくれた手の先には……綺麗な山脈の中に広がる湖を囲むカラフルな街並みが目の前に広がって、思わず「ほわあ!」って変な声あげちゃったわ。私が感動していると「エギル仕事しろ!」って歓迎してくれたお兄さんが、同僚の兵士さんに怒られていたけどね。バージさんも「後でな」ってサッサと兵士のお兄さんを後にしてたけど。また会えたら歓迎してくれて嬉しかった事伝えなきゃね。


 ようやく入った街は、門の近くが大通りになっていて馬車や人が既に大勢行き交っていたわ。大通りには屋台も沢山出店していて良い匂いがたちこめているの。


 バージさんに昨日聞いていたけど、この世界各家庭にトイレがちゃんとあって魔導具が処理をしているんですって。その魔導具は一年に一回取り替えなきゃいけないみたいなの。おかげで中世みたいな世界だけど街の中に汚物の匂いが漂う事なく綺麗な空気が味わえるのよ。元日本人として、助かるわ。それに美味しい匂いの中に馴染みのある匂いがしてきたのよ。


 「ばーじしゃん、ばーじしゃん!ありぇ!あしょこのやたいにいきたいでしゅ!(バージさん、バージさん!あれ!あそこの屋台に行きたいです!)」

 「お?なんだ?もう腹減ったのか?」


 バージさんが揶揄うけど、あの匂いはお腹すいていなくても惹かれちゃうわ!


 「あしょこ!あしょこでしゅ!(あそこ!あそこです!)」ってバージさんを急かしていった先は、ジュウジュウと焼けたお肉にタレを塗っているお兄さんのお店。


 「しょーゆのにおいでしゅ!」


 そうなのよ!醤油が焦げたあの香ばしい匂いが立ち込めていたのよ!思わず指を差して叫ぶ私に「お?嬢ちゃんギョーショの味が好きなのか?バージ、ほれいつもの5本」とお店のお兄さんがバージさんに葉っぱみたいな紙に包んだお肉を渡しているの。あれ?馴染みのお店なのかしら?と言うか醤油じゃないの?


 「ばーじしゃんぎょーしょって?」


 不思議そうに聞く私に、バージさんがお金を渡しながら「ガレット頼む」ってお兄さんに頼んでくれたの。お兄さん嬉しそうに「仕方ねえなぁ」って言いながら説明してくれたわ。


 お兄さんが言うには、この湖で採れた魚をアッピド山から採れた色とりどりの岩塩で漬け込み、月日をかけて自然発酵されて出来た汁がギョーショ。それに、お店独自の味付けをして売っているみたい。ギョーショって魚醤よね。でも嬉しい!魚醤が在るならアレもないかしら!


 「おにいしゃん!みしょってにゃいでしゅか?(お兄さん!味噌ってないですか?)」

 

 興奮して聞く私に「みしょ?」と首を傾げるお兄さん。バージさんは何か感じとってくれたのか「ユイ、どんなものだ?」って聞いてくれたの。舌足らずなまま一生懸命説明したらね……


 「そりゃ、モロだな」


 ってお兄さん言い切ってくれたのよ!しかも「この先の屋台のハーディ婆さんとこで売ってるぜ」って教えてくれたの!お兄さんに「ありがとーごじゃいましゅ!」ってお礼を言ってすぐバージさんにそこに連れて行ってくれる様お願いしたわ。調味料は買っておかなきゃ!嬉しそうな私に、バージさんは迫力の笑顔で「はいよ」って連れて行ってくれたんだけどね……


 「ばーじしゃん!ありぇ!うぃんにゃーほしいでしゅ!(バージさん!アレ!ウィンナー欲しいでしゅ!)」

 「ああ!べーこんでしゅ」

 「とまってくだしゃい!しゃかな!しゃかなでしゅよ!(止まって下さい!魚!魚ですよ!)」

 「いいにおいでしゅ!くだもにょもかうでしゅ(良い匂いです!果物も買うです!)」

 

 私が先に進ませなかったのよねぇ。バージさん店の人を怖がらせながらもご機嫌で付き合ってくれたのよ。後で、ちゃんと美味しい物作らなきゃね。勿論ハーディ婆さんの屋台でもいっぱい買ったわ。「こりゃ、可愛いお得意さんが出来たもんだね」って撫でてくれたお婆さん。また絶対買いにきますって宣言して大満足の私。あ、買った物は勿論アイテムボックスに詰め込んだわよ。いいわよね、いっぱい入るアイテムボックスって。


 ニコニコ顔の私を抱えながら、ご機嫌なバージさん(多分迫力が増していたでしょうけど)が辿り着いたのは、バージさんの常宿「木漏れ日の宿」。


 今日はバージさんが「この世界の宿も1日位体験してみたらいいんじゃね」って昨日言っていた提案に乗ってみる事にしたのよ。屋台でここまでいい物扱っていたんだもの。宿だったら余計に期待するわよね。


 「いらっしゃいませ!」


 期待を込めて開いた扉からは、元気な女将さんの声と賑やかな食堂が私達を迎えてくれたの。今日はお世話になりますね。


 ……ところで私今日一歩も街を歩いてないわ。

 バージさん腕痛くないのかしら?

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