第9話 赤獅子メンバーって?

 おはようございます、皆さん。今日は朝から一人で読書だって気合いを入れて起きたら、バージさんに先を越されていたユイです。


 「おはようごじゃいましゅ」

 「お、ユイ。起きたか」


 パタンと魔導エクレシア辞典を閉じて、迫力の笑顔のバージさん。私を抱っこして朝の挨拶をしてくれたの。最近抱っこにも慣れてきた私。そんな私にちょっと言いづらそうに話しかけてきたバージさん。何かしら?


 「あー……ユイ、起きてきたばかりで悪いんだが、今、外で既に待機している連中がいてな。このテントの中に入りたいって言っているんだが、どうする?」

 

 ん?このテントって一見普通のテントのように見えるから、あえて入りたいって言うのってどういう事かしら?それにバージさんは入れてもいいと考えている人達って事よね。じゃあ……


 「ばーじしゃん。あかししのみなしゃんでしゅか?(バージさん。赤獅子の皆さんですか?)」

 「やっぱりわかるか。ユイ、アイツらの中に魔法使いのルインって奴が居たの覚えているか?アイツ一発でこのテントが魔導具だって気づく程魔導具オタクでな。朝鍛錬してた時から押しかけてきてうるせえんだ。で、面白がったパーティメンバーが全員裏庭で待機しているんだが、全く……ユイが寝てるって言うのにアイツら……」


 表情を更に怖くして(困っているのね)バージさんが教えてくれたけど、そういえばこのテント魔物だけじゃなくて、私が許可した人しか入れない仕様になっていたんだったわ。それにしてもテントの中に入れるのかぁ……どうなんだろう?


 「ばーじしゃん、あかしししゃんたちいりぇてもだいじょーぶしゅか?(バージさん、赤獅子さん達入れても大丈夫ですか?」

 「ユイはアイツら昨日会ったばかりだから不安になるのもわかるが、アイツらは信頼していい。Aランクの冒険者だし、街の評判もいいし、口は固いぞ。だが、ユイが嫌なら断るから気にするな」


 どこまでも私に合わせてくれるバージさん。助かるわ、一人の人として扱ってくれるもの。そんなバージさんが信頼している人達だから大丈夫かしらね。


 「じゃあ、おもてにゃししにゃいといけないでしゅね(じゃあ、おもてなししないといけないですね)」

 「まあ、奴らにユイの料理までやらなくてもいいと思うが、ユイが歓迎してくれると喜ぶだろうよ」


 私の頭を優しく撫でながら、入り口に向かうバージさん。外に出ると裏庭で赤獅子のメンバー四人が立って談笑していたわ。出てきた私達に先に気づいたのは、やたら整った顔の男性。ルインさんだっけ?


 「ああ!ユイちゃん、起きたんだね!お願いだよ!是非テントの中見せてくれないか!」


 バージさんに抱かれたままの私に向かって、お願いをしてくるルインさん。なんかクールなイメージだったのが崩れたわね。


 「すまん、ユイちゃん。コイツ魔導具ってなると止められなくてな」


 最初に会った時とは違って、リーダーとして一応止めてくれたらしいダンさんが頭を掻きながら私に向かって謝ってくれたわ。


 「きゃあ!可愛い!こんな可愛い子だったの?あ、おはよう!ユイちゃん。私カエラっていうのよ。ウチのルインがごめんね」

 

 その隣りで両手を胸の辺りで組んで、私を褒めてくれた金髪ポニーテールの美人さんがカエラさんっていうのね。この人も優しそう。


 「まあ!本当に可愛いわ!ユイちゃん、私はエレンって言うのよ。一応止めたのよ、ルイン」


 カエラさんの隣りで顔に両手を当てて私を褒めてくれるのは、ふわふわ茶髪ロングの可愛い女性。エレンさんっていうのね。可愛い人に可愛いって言われるのって照れるわね。


 「良かったな。ユイの許可が出たぞ。ユイ、どうやってアイツら中に入れるんだ?」


 バージさんが赤獅子メンバーに私が許可出した事伝えたけど、確かにどうやるんだっけ?バージさんの時は、バージさんが入る様にって意識しただけなのよね。一応ペンダント触って赤獅子メンバーを見ながら「はいっていいでしゅよ(入っていいですよ)」って言ったら入れる様になったみたい。赤獅子メンバーのみんな「壁がなくなった!」「へえ、凄いな」「私達も入って良いのね」「ありがとう」って言って私達の方へ歩いてきたもの。それじゃあ、歓迎しないとね。


 「しゃあ、どうじょ!いらっしゃいましぇ(さあ、どうぞ!いらっしゃいませ)」


 バージさんから降ろして貰って、とことこ先導する私の後をほっこりしながらテントの中に入った赤獅子メンバー。中に入ると……「やはり……!」と喜ぶルインさんに、「へえ!」「まあ!」「素敵!」と驚きの声が聞こえます。バージさんはその様子に腕を組んでニヤリとしてたわね。あれは自慢げな表情ね。


 「ばーじしゃん、あんないおねがいしましゅ。そのあいだのみもにょじゅんびしましゅ(バージさん、案内お願いします。その間飲み物準備します)」


 中に入ったら特に隠すものってないから、バージさんに赤獅子メンバーを託して、私は飲み物を準備するためにとことこキッチンへ。「え?大丈夫?」「手伝いましょうか?」って気遣ってくれるカエラさんとエレンさんを、バージさんが上手くフォローしてくれたわ。流石バージさん!


 いつもの定位置の床にぺたんと座ってさあ、やりましょう!


 「ゆいのかんたんくっきんぐ!」


 材料は昨日仕入れた果物。味がオレンジに似ていたのよ。で、おもてなしだから秘蔵のカシスリキュールを出してっと。あ、今日は氷が欲しいかな。【家電魔導具】でアレないかな?ステータス画面を出して……あった!


 「魔導小型瞬間製氷機」 MP22,000

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 【日用品魔導具】より

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 「こりぇでいいでしゅね!(これでいいですね!)」


 早速魔導小型製氷機と魔導ロックグラスを購入すると、キッチンの空いている場所(床)にシュッと現れる魔導具達。さて、用意は整ったわ。


 まずは、皮を手でむいて(簡単にむけるのよ、こっちの世界のオレンジ)魔導ジューサーミキサーに入れてスイッチオン!魔導小型瞬間製造機にお水を入れてこれもスイッチオン!どっちも音が静かで良いわね。その間に魔導ロックグラスにカシスリキュールを入れて……っと。確か1:4の割合が良いのよね。朝だし、軽めにつくりましょ。


 出来た氷を備え付きのトングで魔導ロックグラスに入れて(今回はロックタイプの氷よ)、あとはオレンジジュースを入れたら「カシスオレンジ」の出来上がり!ちょっと多く作りすぎたからバージさんにグラスに注いでもらいましょ。


 「ばーじしゃー……ん!!?」


 バージさんを呼ぼうと振り向いたら、後ろに全員立っていたの。ルインさんは目をキラキラさせて私をみていたし、ダンさん、カエラさん、エレンさんは驚いた表情で私をみていたわね。バージさんは「あちゃー」って言って頭を抱えていたわ。あ、もしかして全部見られたのかしら……?今更だけど、一番隠さなきゃいけないのって私のスキルだったわね……


 「あにょ!そにょ!これはでしゅね!」と慌てる私をバージさんが優しく抱き上げて「こうなる事がわかってて止めなかった俺も悪いからなぁ」と困った顔で私をみていたわ。それから赤獅子メンバーに顔を向けていつもより更に怖い顔で言ったの。


 「お前らだから此処に入れたんだ。この意味わかるよな」


 かなりドスの聞いた声だったわ。思わず私が「ひょえ!」って声出しちゃった。赤獅子メンバーのダンさんやカエラさん、エレンさんはかなり真面目な表情で頷いてくれたんだけど、「勿論さ!」と一人更に明るく答えるルインさんのおかげでちょっと空気が緩んだわね。


 その後はとりあえずみんなにカシスオレンジを出して、私はオレンジジュースを注いで、リビングのソファーに全員座ったの。なぜかルインさんが私の隣りにいたんだけどね。


 「いいか?これを他で話したら、お前らでも俺が許さねえからな」


 バージさんが私を膝に乗せて、更にドスを効かせて私の事を説明し出したわ。私には時々確認するぐらい。実際まだまだ赤ちゃん言葉が取れていないから助かるけど、なんか落ち着かなかったのよね。話の間バージさんの方に身体をむけて、ぎゅーっとくっついていた私。


 一通り話終わったバージさんが、優しく私の頭を撫でているとエレンさんが笑いだしたの。


 「ふふっ、それでバージの表情が柔らかくなったのね。ねえ、ユイちゃん。私達は貴方を不安にさせる事は絶対しないと誓えるわ。勿論貴方を不安にさせるものからは、バージと一緒に守ってあげれる。理由はね……」


 エレンさんの優しい声に振り向いた私の手を、隣りに座るルインさんがぎゅっと優しく掴み綺麗な笑顔でこう言ったの。


 「まさか憧れの渡り人に会えるとは!しかも魔導具を生み出すスキルなんて!」


 興奮気味に話すルインさん、ちょっと顔が近かったのよ。そしたらバージさんがルインさんの手を私から離して、ルインさんから遠ざけてくれたわ。……うん、ちょっと表情がバージさんとは違う意味で怖かったのよね。ありがとうバージさん。


 「ごめんなさいね、ユイちゃん。この魔導具バカの事はおいといても、私達は数百年前に渡り人がいた土地で育ったの。だから渡り人である貴方を尊重する事は勿論、クレーリア様からギフトを頂いた貴方を守る事を教えられてきたのよ」


 残念そうなルインさんの近くに移動して、頭をパシっと叩きながら説明してくれるカエラさん。


 「ああ、それにバージがこんなに変わる姿を見せられたら、余計にな」

 「ダン、貴方バージの心配をよくしていたものね」


 優しい表情で私達を見るダンさんと、そんなダンさんのことを教えてくれるエレンさん。バージさんを見上げると、バージさんに目を隠されちゃったけど、アレは照れた表情だったわね。


 「そうだとも!バージの友として故郷のビーツの民としてユイちゃんを守ろう!」


 何やら更に興奮したルインさん。そんなルインさんをみて「仕方ないわね……ねえ、ユイちゃんこれってもしかしてお酒入ってない?」とコソっと聞いてくるカエラさん。「はいってましゅ」って答える私ににっこり笑って、朗々と話し出しているルインさんにカシスオレンジ差し出したの。


 「ねえ、ルイン。喉乾いたでしょう。これユイちゃんが用意してくれたものよ。飲んであげないと」

 「おお!そうだな!これは飲まないと!」


 カエラさんからカシスオレンジを受け取ったルインさんは、ぐいっと一気飲みしてくれたんだけど……


 「ん?これは……!」


 と言ってドサっとソファーの背もたれに寄りかかるルインさん。……寝てるわ。え?睡眠薬なんて入れてないわよ?「え?え?」と私があわあわしていたら「大丈夫だ」と頭を撫でてくれるバージさん。どうやらルインさんはアルコールを飲むとすぐ寝ちゃう体質なんですって。「ルインがうるさくなってきたらよく使う手なのよ」と苦笑いするエレンさん。……成る程、納得。


 ルインさんが寝ている中でようやく穏やかな雰囲気になった室内。ルインさんには悪いけど、赤獅子メンバーとゆっくり話して人柄がわかってきたわ。


 お調子者だけど、しっかり全体を見ることの出来るダンさん。華やかで明るいカエラさん。可愛くて穏やかなエレンさん。そして魔導具オタクだけど、やる時はしっかりやるルインさん。


 みんなが私の事を知って受け入れてくれたの。

 この世界で信頼できる人がまたできたのよ。

 嬉しかったぁ。


 そうそう、勿論カシスオレンジは大好評だったわ。

 冒険者はお酒好きだろうからって思って出して良かった。

 ……カシスリキュールは売り切れちゃったけどね。

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