第10話 冒険者ギルドで登録って?

 「おや、おはよう!ユイちゃん。ってなんだい?赤獅子まで裏にいたのかい?でも朝食はとっくに終わっちまったよ」


 裏口から入って来た私達を、厨房にいたアイラさんが嫌な顔せず迎えてくれたの。昨日みたいに私を抱き上げて、顔を私の頬につけてスリスリするアイラさん。バージさんにすぐに取り上げられたけどね。アイラさん柔らかくて優しい匂いするから抱き上げられるの結構好きなんだけどな。


 そう考えている私に「ほら、口開けて」と横から手が出てきたの。その手の人は、アイラさんのご主人でこの宿のオーナーのグリットさん。大柄な男性だけど、大きな手で器用に食材を捌いて料理するのよ。


 私が「あー」って口を開けると、グリットさんは私の口に果物を入れてくれたの。噛み締めると皮からジュワって果汁が出て来て皮ごと食べられる種無し葡萄と同じ味がしたわ。「んー!おいしーでしゅ!」って喜ぶ私を嬉しそうに見ているグリットさん。「美味いだろ?今が旬のイエローグレープだ」って教えてくれたのよ。


 モグモグする私の横で「あー!グリットさん!俺らの分は?」とダンさんがグリットさんに手を出していたけど、「お前らは自分達で買え」って言われてたわね。


 あ、ルインさんもちゃんと起きているわよ。「ユイちゃんはイエローグレープが好き……っと」……なんか紙に私の事メモしてるけど。起きてからテンションは少し下がったけど、相変わらず私に対してキラキラした目で見てくるのよねぇ。だから他のメンバーやバージさんがルインさんを私に近づけないようにしているの。面白いから私は良いんだけどね。


 「で、どっか行くのかい?」


 下準備をする手を休める事なくバージさんに尋ねてくるアイラさん。そう、この後は冒険者ギルドに行く予定になったの。なんか家族パーティ申請っていうのがあって、それだと私の身分証明にもなるからってバージさんは教えてくれたけど。


 「ばーじさん、おとうしゃんになりゅでしゅか?」

 「……やめてくれ。せめて兄さんにしてくれ……」


 って一幕があってね。どうやら設定上、バージさんの妹って事で登録するみたい。まだ戸籍登録とかされていない世界だから出来る技ね。


 「ああ、冒険者ギルドに行ってくる」とアイラさんに答えるバージさん。そしたら「家族パーティ登録かい?バージあんた父さんになるんだねぇ」ってやっぱりアイラさんも同じ事思ったみたい。その様子にギャハハ笑うダンさんにくすくす笑うエレンさん、カエラさん。「その手があったか!」とルインさん。……ルインさんの妹にはならないわよ?


 そんな感じで、木漏れ日の宿を後にして冒険者ギルドに向かう私とバージさん。あ、赤獅子メンバーは雇用主のグラレスさんのところに行って今後の相談するらしいわ。どうやら、私達と行動を共にしたいみたい。私は賑やかになるのは良いけど、バージさんは「二人が楽で良いんだが……」ってちょっと渋っていたわね。喜ぶ私の顔を見て諦めたみたい。とことん私に優しいのよね、バージさん。


 宿の外で赤獅子メンバーと一旦分かれて、私はバージさんに抱き上げられたまま冒険者ギルドに向かったの。途中の屋台でイエローグレープ見つけたり、また調味料を見つけたり寄り道いっぱいしたけどね。で、冒険者ギルドに着いたんだけど……


 「おっきーでしゅね!(大きいですね!)」

 「まあ、この街はウルスの平原の近くだからな」


 あ、ウルスの平原って私が現れた場所の事よ。魔物多かったでしょ、あそこ。だから冒険者も多いらしいわ。


 話しは戻るけど、冒険者ギルド5階建て位あったのよ。しかも商業ギルドと併設してるみたいだから横幅もあるの。開け放たれた大きな扉から中が見えるんだけどね。大きな広いホールの奥にカウンターがズラっと並んでいて、右と左で商業ギルドと冒険者ギルド受付に分かれているみたい。


 そして、右の壁には商業ギルドの依頼版、左の壁には冒険者ギルドの依頼版があったわ。左右それぞれに階段があって、二階は応接室や相談室、専属受付がついた冒険者達の部屋があるんですって。それで、バージさんは?って思って見ていたら、当然のように左の階段上がっていくの。


 「ばーじしゃん、せんぞくのおへやなんでしゅか?(バージさん、専属のお部屋なんですか?)」

 「まあな」


 ニヤリとした顔で教えてくれたけど、バージさんソロだけどAランクなんですって。Aランクは大抵専属部屋で受付するらしいの。因みに赤獅子もそうらしいわ。この街でAランクはバージさん、赤獅子、そしてもう一つパーティがいるらしいけど、この三組が専属部屋持ちなんですって。凄いわねぇ。


 階段を上がってすぐの部屋の扉をバージさんがノックして、「ハーディいるか?バージだ」って声をかけたの。中から「はーい!バージさん、どうぞ!」って元気な了承の返事が聞こえてきて、部屋に入った私達。


 部屋の中は奥に机があって、机の手前にテーブルを挟んで向かい合わせのソファーがあったの。奥の机で眼鏡をかけた女性が書類を整理していたわ。可愛い系の女性ね。そばかすがなんか親しみを感じるわね。思わずじっと見ていたら、私と目があった女性が笑顔で歓迎してくれたわ。


 「あ!いらっしゃいませ!可愛い子ですねぇ。バージさんの子ですか?」

 「ハーディ、違うってわかって言ってるだろ」

 「まあ、バージさんにそんな甲斐性はないですからね。女性に逃げられてますし」


 ニコニコしながら結構ストレートに言う人なのね。しかもバージさんを怖がってないわ。と、私が感心している一方で、ハーディさんの言葉に呆れながら答えるバージさん。


 「お前……相変わらずストレートだな。まあいい、家族パーティ申請を頼む」

 「おや、本当に親子ですか?これは快挙ですね」

 「お前の中での俺の評価がわかって嬉しいよ。妹で申請してくれ」

 「はいはい、やっぱりそうでしたか。で、どこで拾って来たんです?」

 「いや、俺が拾われたんだ」

 「は!?」


 ガタッと机から立ち上がって「これは話しを聞かないと!」と面白そうに何も無い空間から、お茶とジュースとお菓子を取り出していそいそ向かいのソファーに移動して来たハーディさん。アイテムボックス持ちなのね、ハーディさんも。


 興味深々のハーディさんに、バージさんが話せる範囲の経緯を上手く説明してくれたんだけど、「ふむ、訳ありですか」ってすぐ見抜かれたわ。でもそこは突っ込まずに「わかりました。では登録に入りましょう」ってすぐに行動に移してくれたの。


 「登録といっても簡単です。バージさん、ギルドカード出して下さい」


 ハーディさんがまた空間から正方形の黒い石盤を取り出したの。そしてバージさんのギルドカードをその上に載せて、私に更にその上から手を乗せる様に私の前に石盤を差し出すハーディさん。「魔力登録するだけですから怖くないですよ」ってニコニコしながら教えてくれたわ。


 バージさんの膝から降ろして貰って、ペトっと石盤に手をつけたら、ヴァン……って石盤からキーボードの映像がでてきたの。「はーい、手を離して良いですよー」ってハーディさんの指示で手を離して、ソファーに座っているバージさんの隣によじ登る私。


 座って様子を見ていると、映像のキーボードがタッチパネルみたいになっていたの。ハーディさんが文字を打ち込んで「よし、決定っと」ってポンと画面をタップしながら言ったら、一瞬パアッと光ったバージさんのギルドカード。


 「はーい、バージさん。確認して下さい」


 バージさんがハーディさんから受け取ったギルドカードを一緒に除き込んだら、こう書いていたわ。


 名前 バージ 19 ランク: A

 所属 フェンシル冒険者ギルド

 パーティ: 家族パーティ[ユイ(3)]


 ……えっ!バージさん19だったの?思わずバージさんの年齢で驚いちゃったわ。声に出さなかったけど。……バージさん老けて見えるわね。


 何気に失礼な事を考えているのがバレたのか、「ユイ、何考えた?」ってツンって人差し指でおでこをつつかれたの。表情に出てたのね。はい、ごめんなさい。でも同じ事を私から感じ取ったハーディさんも同意しながら、バージさんに今後の事を尋ねてきたの。


 「まあ、バージさん老けてますからね。さてどうします?依頼受けて行きますか?」

 「いや、これからパルフール山脈に向かうから、しばらく留守にする事も伝えに来たんだ」

 「おや、狙いはビッグホーンワイルドシープですか?」

 「ま、色々だな」

 「そうですか、わかりました。色々素材持って帰ってきてくださいね」


 結構サラッとした報告で「じゃ」と言って席を立った私達。勿論バージさんは私を抱えてくれているわよ。ハーディさんも「はーい、いってらっしゃい」って気軽なものだったわ。後から聞いたんだけど、冒険者ってあちこちに移動するからよくある事らしいわ。移転届とか無いから楽なものね。


 バージさんの腕に抱えられながらざわざわと賑やかなギルドを出て、「さあて、ユイ。これからどうする?」と歩きながら私に聞いてくるバージさん。「やたいみたいでしゅ!(やたいみたいです!)」っていう私の希望通りに二人で屋台に向かって歩き出そうとしていた時……

 

 「おーい!バージ!ユイ!」


 後ろから誰かに呼ばれたの。振り返ってみると、さっき分かれたばかりのダンさんが走ってきたわ。あれ?ダンさん一人ね。どうしたのかしら?


 「悪い!ちょっと一緒に来てくれないか?グラレスさんがお前らを呼んでるんだ」


 ん?お前らって事は私も?グラレスさんに私の事も話したの?ダンさん。


 「……そうか、グラレスさんも出身はビーツだったか……わかった。ユイ、悪いが屋台巡りは後でいいか?グラレスさんの店に行こう」


 珍しくバージさんが私に聞かずに行き先を決めたのよ。確かグラレスさんはバージさんにとっても恩人だったっけ?なら私も挨拶しておかないとね。ダンさん達が私の事を伝えた理由もわかるだろうし。素直に頷く私を見て、私達に謝るダンさん。


 「悪いな、二人共。じゃ、行こうぜ」

 「ああ」「はいでしゅ」


 今日の予定を変更して3人でパルトール商店に歩き出した私達。


 あ、そういえばグラレスさんのお店って、何の店なのかしら?着くまで聞かない方が面白いわね。楽しみだわ。

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