第25話 ウェルグロードを通過しよう 2

 「すげー景色だなぁ」

 「ああ、こんなに近づいて見る事ってないからな」


 ダンさんが私達の後ろに立って、冷静に正面の景色をバージさんと話しているんだけど……


 「みぎゃあああ!」


 次から次へと現れるビックシャムダイルの姿に私は叫びっぱなし。大口を開けて迫ってくるんだもの。でも結界に弾き飛ばされているのよ。あの大型のビックシャムダイルが!


 『ふははは!どけどけえ!』

 『ねえ、私達いる?』

 『そうねぇ……』


 館内スピーカーから聴こえてくる運転席の様子は、ルインさんが暴走中。カエラさんエレンさんは呆れながら、それでも待機をしてくれているみたいね。


 「おおお!またきましたな!」

 「まあ、今度も大きいですわ!」


 グラレスさん、シャルさんはすっかり慣れて楽しんでいるの。……みんな凄いわ。私は1人バージさんにひっついて、この状況に慣れないのにね。


 『現在結界強度を強にしております。大概は弾き飛ばして絶命するか、気絶のどちらかですね』


 冷静なのはルーザーも一緒。みんなに結界の解説しているわ。


 それにしても、こんなに出てくるんだもの。そりゃ水場を船で行こうなんて考える人はいないわよねぇ。


 そんなこんなで、魔導エクスプレスクルーザーが通った後は、ぷかぷか浮いているビックシャムダイルが残されているんだけど……


 「ああ、あの皮が勿体ない!」


 グラレスさんにはもはや皮にしか見えていないのね。私もそういう事ならと収納し始めて何匹になったのか、もう数えてないわ。そんな感じで順当に進んでいた私達にルーザーがあるものを見つけたの。


 『この先の大陸樹の根本に空洞がございます。そこにポータルスポットを発見しました』


 どうやら大陸樹の根本まで来たみたい。だけど根本に行くには流石にこの船では行けないの。でみんなで話し合った結果、板状の根を歩いていく事になったんだけど、待機組と先行組に分かれる事になったのね。勿論私は行かなきゃいけないから私とバージさんは先行組。後は体力が余っていたダンさんと3人で行く事になったの。


 で、今バージさんの背中に固定されて移動中の私。


 「ひょおおお!」

 「ユイ!しっかり捕まっていろ!」

 「この靴凄えわ!」


 ダンさんにも魔導ブーツを出して備えて見たら、装着したダンさんはどれくらい早くなるか試してみたくなったんでしょうね。ジャンプだけでも距離が伸びるし、移動はバージさん並み。「これバージより早くなるんじゃね」って言葉がきっかけで、意外に負けず嫌いなバージさんが挑発に乗っちゃったのよ。


 それで高速で木の根を移動出来ているんだけど、こっちは必死。バージさんの服をしっかり握っていても、ジェットコースターに乗っているみたい。ようやく止まってくれた時はほっとしたわ。


 「ばーじしゃん、ついたでしゅか?」

 「いや、アレを見てみろ」

 「うげ!流石ポータルスポット……うじゃうじゃいやがる!」


 そうなの!木の根の空洞にはビッグシャムダイルの子供がいっぱいいたのよ!でも子供っていっても1m以上はあるのよね……


 「どうするバージ。子供を殺せば余計にビッグシャムダイルが集まってくるぞ」

 「なら決まっているさ」


 ダンさんの懸念はバージさんもわかっていたみたい。


 「【誘引解放アトラクドリリース】」


 スキルを解放したバージさん。


 「【魔物調教ダァームド】道をあけろ」


 するとバージさんの言う通り左右に分かれるビックシャムダイルの子供達。空洞の真ん中にポータルスポットまでの道が出来たの!


 「ばーじしゃん!しゅごい!」

 「やったな!バージ!」


 私とダンさんは喜んだけど、バージさんは顔を顰めたままだったの。どうしたのかな?と思ったら目の前に1匹のビッグシャムダイルがポータルスポットの前を陣取っていたの。


 「まずいな……子供はスキルでなんとかなっているが、あいつは駄目だ」

 「アレ、雌か?アイツ倒すのは訳ないが、子供達がどうなるのか考えると下手に動けないな……」


 バージさんとダンさんが固まる中、それなら!と思いついた私。


 「ばーじしゃん!おろしてくだしゃい!」

 「ユイ、今おろすのは危険だ!」

 「いいでしゅからはやきゅ!」


 私とバージさんが言い合いしているなか、ダンさんが紐を解いて私を降ろしてくれたの。


 「ダン!お前!」

 「バージ、ユイに考えあるみたいだぜ。スキルの効果が効いているうちに動いた方が良いだろう?なあ、ユイ」

 「ありがとうでしゅ!」


 ダンさんの腕からぴょんと飛び降りて、アイテムボックスからあるものを取り出した私。


 「ユイ、なんだその棒?」

 「あれ?それって……」


 ダンさんには初お目見えだけど、バージさんは二回目かしら。


 「はーい!こっちでしゅよー!みなしゃん、みじゅにはいりましょー!」


 そう、私が出したのは魔導誘導棒。


 魔導誘導棒(黒)

 ***貴方の手にジャストフィットは勿論、どんな対象、衝撃、魔法でさえ、方向を変える事が出来る誘導棒が登場!まずは広範囲センサーで対象を認識、後は貴方の指示で対象の進行方向を変更させるのです!これで魔物も盗賊も寄せ付けません!(但し対象にもよります)さあ!一家に一本いかがですか!***


 これ使えるかなって思ったら案の定……


 「おいおい……大人しくみんな出て行くじゃねえか」

 

 ダンさんが驚く前をドシンドシンと歩いて入り口から外に出るビックシャムダイル。子供達も当然だけど、上手い具合にポータルスポットの中にいた子供達も出てきたのよね。


 「はーい!こっちでしゅー!おでぐちはこちら!」


 最後の1匹が入り口から外の水場に入ったところで、誘導棒をその場に置いてっと。これでしばらく入って来ないはずよね。


 「ばーじしゃん!これでだいじょうぶでしゅ……よ?」


 やりきって振り向いたら、四つん這いになって落ち込むバージさんの姿があったの。そのバージさんの姿を見て笑っているダンさん。


 「ぶははは!バージ、折角の良いところをユイに奪われたなぁ!」

 「……俺がようやく出来た事をこんな簡単に……」

 「ありぇ?」


 まあ、こんな一幕もあったけど、気を取り直してポータルスポットの中に入った私達。ステータスを出して、空間が光に包み込まれ、出てきた選択は……


 『 新たなサイトを追加しますか?

  YES→魔木魔導具サイト

  NO→消滅 MP 10,000 』


 「まきってなんでしゅ?」

 「初めて聞くな」

 「なんだそれ?」


 みんなが?マークだったのよ。魔導エクレシア辞典、船においてきちゃったし。でもあって困るものじゃないからってここはYESにした私。


 光が収まり、ステータスのポータルスポットが3/100になったのを確認して、サイトの確認は船に戻ってからにしたわ。入り口まで戻り、誘導棒で今度はビックシャムダイルを空洞の中に誘導して、無事外に出た私達。


 「こーりゃ、面白え!」

 「ダン!こっちに誘導すんなよ!」

 「わかってるって!」


 船までの移動中、ビッグシャムダイルを誘導させながら先頭を行くダンさん。魔物が思うように避けて行くのが面白いんだって。バージさんは「俺はスキルでそこまでやれる様にするからいい」って意地でも触らないって言ってたけど。


 あ、私は今バージさんの腕の中にいるわ。そんなに高速で移動してないからなんとか捕まっていられたのよ。順調に進んで遠くに船が見えてきた時はホッとしたわ。


 「あ!ふねでしゅ!」

 「よっしゃ!無事に戻ってきたな」

 「……まあな」


 まあ、心に傷を負ったバージさんは置いといて、船に戻った私達を外で待っていてくれたグラレスさん、シャルさん。ルインさんは運転席で待っていてくれて、その近くで

 「おかえりー!」

 「無事でよかった!」

 と手を振って迎えてくれるカエラさんとエレンさん。


 「ただいまでしゅ!」


 両手を広げて待っていてくれたシャルさんの腕の中に抱きつきながら応える私。バージさんもルインさんやグラレスさんに労いの言葉をかけて貰っている中、ダンさんは誘導棒でエレンさんカエラさんを船内に誘導して遊んでいたわ。その後2人にお仕置きされてたけど……女性を怒らせたら駄目よね。


 さあ、全員がまた揃ったし、さあ、先に進みましょう!

 ん?新しいサイトの確認?それは次回ね!

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