第24話 ウェルグロードを通過しよう 1
「だんだん木の根が道の端に出て来ましたね」
ハイヤーから見える景色が変わって来た事に気づいたグラレスさん。私もさっきから窓に張り付いているの。だって時折水の中に木が生えているのが見えるのよ。水の中でも大きな木が育つなんて!正に異世界っていう雰囲気にワクワクする私。そんな私をグラレスさんとシャルさんが温かい目でみていたらしいわ。
今日の車内には全員が乗っているの。道幅が狭くなって来たからっていうのもあるけど……
「問題は満潮時期だという事か……」
「普段の道が水没しているからなぁ」
「ビッグシャムダイルの生息地で足場が不安定なのは心配ね」
「だが、大陸樹のザキジマスオオノキは根が板状になっている。この時期はそこが道になるんだが……」
「歩きはねぇ……」
赤獅子メンバーとバージさんが不安そうに見つめる先には、グラレスさん達にウェルグロードについて聞く私の姿。
「しゅごいでしゅ!きのねがみちになるでしゅか!(すごいです!木の根が道になるですか!)」
「そうなんです。大陸樹と呼ばれる巨大な木の根は板状なんですが、何人乗っても揺れず割れず安定した足場で潮の満潮時の貴重な道になるんです」
「幅も結構あるけれど、柵があるわけじゃないから気をつけて歩かないとね」
「がんばりましゅ!」
気合いの入る私とグラレスさん、シャルさん。その様子を、はあ、とため息をついて見守る冒険者メンバー。まあ、この時はいけると思ったのよ。
『間もなくウェルグロードが一望出来る丘に入ります。一旦停車しますか?』
タクが気を利かせてくれたみたいだから、初めての私はすぐお願いしてみたわ。ハイヤーからワクワクしながら降りてみた景色は……
「おっきいでしゅねー!」
湖の中央に雲まで届く大きな大樹。その幹が折り重なって湖を縦断出来る道を作りだしているの。その周りにはマングローブの様な細い木が林の様にその道を囲っているわ。
ウェルグロードは雨季と乾季で通れる道が変わる為、通る人達も変わるのよ。乾季は地面を歩けるから商人もよく通るけど、雨季を通るのは冒険者くらい。他は周り道をして避けて行くそうなの。
私達はここを突っ切った方が早いから、ここを通る決断をグラレスさんがしたのよ。
「とうめいなおみじゅでしゅ(透明なお水です)」
「ああ、よく見えるだろ?だからビッグシャムダイルもよく見つかるし、俺らも隠れられないんだ」
私の感想にダンさんが更に教えてくれたけど、確かに蠢いている黒い点がいっぱいいるわ。雄大な景色だけど、危険もいっぱいね。……大丈夫かしら?
そう思っていたらヴァン……と目の前にステータス画面が出て来て、魔導具ショップサイトが点滅しているのよ。これは開けって事ね。そう思って開いてみたら、【移動魔導具サイト】に貴方にオススメ!がついていたの。開いてみると……
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あ、一つ文字化けが見える様になったわ!ここでクルーザー?まず見てみましょうか。
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本当にタイミングいいわね……相変わらず何を目指しているのかわからないけどだしてみてもいいかな。
「あたらしいのりもにょあるでしゅよ」
私がみんなに魔導エクスプレスクルーザーの事を説明すると、乗ってきたのは冒険者組。グラレスさんやシャルさんは歩く気満々だったから、一応「頑張りますよ!」って伝えていたんだけど。みんなに説得されていたわね。
結局まずは近くまで行って出せるかどうか見る事にしたの。私の中でクルーザーって大きいイメージだったから。
しばらくハイヤーで進むと、停泊場にちょうど良い場所があったの。勿論タクが見つけたんだけど。そして1日契約してみたらアイテムボックスに〈マリーナ〉が出来たわ。あ、マリーナは個人所有の船が止まる場所のことよ。レンタルとはいえ1日私の船って事になるわけね。
〈マリーナ〉をタップすると、出て来たのはスポーティなオープンエクスプレスクルーザー。意外に小型なの。そして上部に運転席、ここはルインさんが嬉々として座って色々みていたわ。その後ろでダンさんやバージさんもみていたわね。
私達は当然居住空間を見にいったの。
「まあ!綺麗ね!」
「これはまた素晴らしい!」
「けしきがみえましゅ!」
上に運転席があるから前が見やすいし、四面に窓があってどの方向でも景色が見えるのよ。天井や床は白のタイルで雰囲気いいし、向かい合わせのロングソファーが二つ、先頭に2人掛けソファーが一つあったの。思わず全部窓側に向けちゃった。そして入り口扉の横には個室のトイレ。防音付きが嬉しいわ!
冒険者組も中に入って来て内覧をワイワイやっていたら、この船のAIが挨拶して来たの。
『ようこそ!魔導エクスプレスクルーザーへ!本船のAI〈ルーザー〉と申します!本日1日どうぞ宜しくお願いいたします。さて、上部では既に運転をマスターしたお客様がいらっしゃいますのでいつでも出航出来ます!勿論、オートでサポートもいたしますので、ご安心下さい。さて、一つお願いがございます。出航前にオーナーがお持ちのペンダントを本船のどこでも良いので触れさせて下さい』
あ、そうか。ペンダントと同期させるのね!
「こりぇでいいでしゅか?」
『同期を開始します………同期完了。いつでも出航可能です』
私が船の壁にペタッとペンダントをつけると、すぐにルーザーが同期を開始。同期は完了すると、うっすらとピンクに色づく結界が発動しているのが見えたの。
『良し!じゃ、席についてくれ!出航するぞ!』
船内マイクを通して指示を出すルインさん。やっぱりテンション上がっているわね。口調が違うわ。
「まえにしゅわらしぇてくだしゃい!(前に座らせて下さい!)」
私も子供特権で見晴らしの良い場所をキープ!バージさんの膝の上だけどね。みんなが微笑ましいものを見るかの様に譲ってくれたのよ。ちょっとズルかったかな?
全員が席につく中、エレンさんとカエラさんは運転席に上がって行ったわ。成る程、魔法組と遠距離射撃が出来るカエラさんが外で攻撃態勢に入るのね。
『良し!では出航する!』
「しゅっぱぁーちゅ!」
ルインさんのテンションに乗せられて、私も出発の声をあげたの。するとエンジン音とともに動き出す魔導エクスプレスクルーザー。流石快適空間ね。揺れも音も静かだわ。
ワクワクした私達を連れて満潮時のウェルグロードを進む船に、静かにざわめき出す周囲の魔物達。
さあて、この先はどうなっているのかしら?
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