第26話 新たなサイトを検証しよう
『♪~♪~♪~♪~』
館内スピーカーからご機嫌なルインさんの鼻歌が聞こえる船内。魔導エクスプレスクルーザーはウェルグロードを順調に進行中。船内の窓から見える景色も穏やかなもの。ビッグシャムダイルが船を避けていくのよ。というより……
『面白いわー!魔物をこうやって避けるなんて初めてですわー!』
『シャル、次は私の番ですよ』
『ええ、わかっていますわ。あ、またでてきたわー!』
そうシャルさん、グラレスさんが魔導誘導棒を使って進行方向にいるビッグシャムダイルを退けさせているの。普段戦えない2人が魔物排除に自分達が役立つ事にハマってしまってね。運転席側で仲良く交互に魔物を誘導しているわ。
で、船内には必死に魔導エクレシア辞典を読むバージさんと、現在お仕置き中で立たされているダンさん、優雅にお茶を飲むカエラさんとエレンさんと私がいるの。あ、ウィルは自由に歩きまわっているわよ。今はバージさんの膝の上にいるわね。
「それで、馬鹿は置いといて、新しいサイトがまた追加されたんですって?」
「そうでしゅ。まきまどーぐしゃいとでしゅ」
「聞いた事ないわね……」
どうやら魔木エレンさん達も聞いた事がないみたい。魔導エクレシア辞典はバージさんが使っているし、これはサイトを開いてみることになったの。
【生活魔導具サイト】
【移動魔導具サイト】
【産業魔導具サイト】
【魔木魔導具サイト】
こうして見ると二つも増えたのよね……産業の方はまだ使い道はないから見ているだけだけど、拠点ができたら使えそうなものがいっぱいあったわ。さて、本命の魔木魔導具サイトを開いて見ましょうか。
『 魔木を選択して下さい。
→・キーリ(断熱性及び調湿性(防湿効果)に優れ、同時に収縮・膨潤率が低く木材としての狂いが小さいことも特徴。総合力アップ)
・カエテ(絹糸のような光沢、緻密で複雑な木目有り。 肌触りはなめらか、材質は硬く粘り気有り。攻撃性アップ)
・フナ(加工性、接着性は比較的よく、衝撃にも強い。但し曲がりやすい。衝撃耐性強化)
・ヒハ(防菌、防魔物性高い。木の香りが強い。魔物避けアップ)
・ボウノキ (加工し易い。水耐性強化) 』
「さいしょにきをしぇんたくしゅるんでしゅね(最初に木を選択するんですね)」
「へえ、そんなに種類あるの?」
「ユイちゃん、次に進めてみて」
「はいでしゅ」
カエラさんと同じくこんなに種類があるのって意識してなかったわね。ま、エレンさんの言う通りまずは進めてみましょ。キーリが良さそう。
『統合させる魔導具もしくは対象を選択して下さい。
→・購入済み魔導具一覧
・サイトから直接選択
・ステータススクリーンより選択 』
「わかったでしゅ!こりぇまどーぐきょーかしゅるんでしゅね!(魔導具強化するんですね!)」
「でも話を聞いていると、魔導具以外も出来そうよ?」
あ、エレンさんのいう通りね。んー、試しにこの室内の壁やってみようかな?
「かべをやってみましゅ」
ステータススクリーンで室内の壁をタップするとまた選択画面が出て来たわ。
『 選択して下さい。
1・全面をキーリと統合 MP 5,000
2・天井と床をキーリと統合 MP 2,500
3・壁のみキーリと統合 MP 2,500 』
これ面白い!タップすると、ステータス画面にそれぞれの完成形の画像が出てきたのよ。それで色々試した結果、全部は面白くないし、壁はほぼ窓だから面白みはないし、という事で……
「ににしましゅ!」
ダブルタップで決定すると、天井と床が光りだして、光が収束した後は天井と床が全て白いキーリに変わっていたわ。
「へえ!これ内装を変える事ができるのね!」
「木のいい香りがするわねぇ」
カエラさんとエレンさんから高評価をもらっている中、ダンさんはバージさんと魔導エクレシア辞典を覗きこんでいたの。
「なあ、どうやらこういう事らしいぞ」
[魔木魔導具サイト]
魔素を多く含んだ魔木そのものが購入できるサイト。他サイトの魔導具と統合するとデザインと魔木の特徴が強化されて加わる。魔木自体が魔導具化されており自動メンテナンス付きの為、劣化、破損無し。自動修復、清掃機能付き。建築、内装、家具修復に適したサイト。
ダンさんに言われ覗き込んで見て納得。魔導具化された素材って事ね。これも拠点作りにはいいわね。まあ、私達は魔導デラックスコテージあるから出番は少なそうだけどね。
「これ大陸樹にあったポータルスポットだったからかしら?」
「……そうかもしれないわね」
カエラさん達が言う通りだとすると、新しいサイトってポータルスポットの環境も関係するのかしらね。まだまだ謎が多いわね。
「とこりょで、またけしきがかわったでしゅ。ありぇはなんでしゅか?」
さっきまでの木の板の道から、今度は大きなハスの花が縦に並んだ様に咲いているの。まるでそこを歩けと言わんばかりにね。
「お!ビッグシャムダイルのゾーン抜けたか!バージ!行こうぜ!」
「うおっ!いきなり動かすな!」
「ヒュイッ!」
ダンさんがバージさんの腕を掴んで立ち上がらせた途端に、膝から落ちるウィル。エレンさんがナイスキャッチしていたわ。そしてバタバタ外へと出て行ったダンさんとバージさん。代わりにグラレスさんとシャルさんが船内に戻って来たの。
「おお、いい感じになりましたねぇ」
「あら、木のいい香り」
船内が変わったのをみても動じないのよねぇ、この2人。
「ふふっ、ダン達はしゃいでいるわね」
エレンさんの声でふと窓の外を見ると、バージさんとダンさんが葉っぱの上をジャンプしながら移動している姿がみえたの。え?葉っぱなのに沈まないの?
「ええ!だいじょーぶなんでしゅか?」
思わず窓に張り付いてみていると、笑いながら私の頭を撫でるグラレスさん。
「はっはっは、大丈夫ですよ。あの葉は満潮時の移動手段に最適なオオギニバスと言う種類の植物です。2mほどもある葉は人が2人乗っても沈みません。まあ、黙って立っているとそのうち沈んでいきますけどね。だから冒険者しかこの時期通らないんですよ」
「でもこの時期だから見れる景色なのですわ。噂には聞いていましたが、綺麗ですわね」
「ほー」
グラレスさんとシャルさんの説明に納得して変な声を出す私。そっか、普段は見れない景色なんだわ。そう思って、改めて船と同じ速度で並走する2人をみていると、館内スピーカーからルインさんの声が聞こえてきたの。
『今日のミレニアスロックの大滝はタイミングいいかもしれん』
ん?今度はミレニアスロックの大滝?思わずグラレスさんを見上げると、私を抱き上げて正面の窓に移動したグラレスさん。
「ユイさん、ほら。あれがミレニアスロックです」
グラレスさんの指差す先には、三角巨大岩の山頂からゴオオという音と共に大量の水が流れ落ちる景色。雄大な景色に近づくにつれて水飛沫で窓から景色が見えなくなった時……
「あーいい運動した!」「ったく濡れちまったじゃないか」
気持ち良さそうにダンさんとバージさんが戻ってきたの。グラレスさんに降ろしてもらってアイテムボックスからタオルを差し出すと、
「おし、ユイも来い」
ってバージさんに抱えられて運転席に連れて行かれたわ。運転席には、びしょ濡れになりながらも気持ち良さそうにしているルインさんの姿があったの。慌ててタオルを出そうとする私に、バージさんが教えてくれたのは……
「ほらユイ、レインボーリングが綺麗に見えるだろ?」
「ほあああ!しゅごいきれーでしゅ!」
そう、滝の水飛沫で虹が大岩を囲み、丁度指輪の様に太陽が宝石の位置にあったの!
「レインボーリングは幸運を運ぶと言われている。俺達にとっても幸先がいい」
ルインさんが言うには、満潮時のウェルグロードを渡り切った者だけに見える景色だそうよ。うん、これはずぶ濡れになってもいいから見たい景色ね!
気がつくと、全員デッキに出てこの景色を堪能していたわ。
ゆっくりと景色を見ながら進む船に、次第に見えて来た陸地。
今日は陸に上がったら、すぐテントを出して休む予定だったんだって。みんなずぶ濡れになる事わかっていたのね。
無事にウェルグロードも乗り切れたみたい。今度はパルトール山だって。山登りね!
「へっくちゅ!」
でもその前にお風呂に入らなきゃ。
風邪引いたら大変!
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