第27話 旅のお供を作ろう

 ずぶ濡れになった私達は、陸地に着くと船をマリーナに戻してすぐにテントを出したの。今日はここが宿泊地ね。


 着替えを用意して、すぐ温泉に入ったわ。身体を洗って温泉に浸かると「ふいー」って変な声出して笑われちゃった。でも冷えていたのね。足の先からじんわりあったまって行くのがわかるの。みんなもそうだったのか、気持ちよさそうな声を出していたわ。ウィルも目の前をぷかぷか浮いて気持ちよさそう。お風呂好きな鳥になったわね。


 しっかりあったまって、シャルさんにタオルドライをしてもらった私。あ、ウィルもね。今一生懸命毛づくろいしているわ。私の方は、なぜか女性陣が世話をしてくれるの。1人で出来るんだけどね。


 ふわふわのポカポカになった私が着替え終わってトテトテ歩いて行くと、リビングではバージさんとダンさんは既に上がってきていたわ。ダイニングテーブルに座っていたバージさんは私を見るなり

 「ゆっくりあったまって来たか?」

 とヒョイっと私を抱えて膝に乗せるの。私もこれが普通になって来たわね。人の体温は安心するのよ。


 「はいでしゅ!ばーじしゃんたちはあったまったでしゅか?」

 「俺らはちゃっちゃと済ましてきちまうからな。でもあの温泉はすぐあったまるから助かるぜ」

 「ああ、気持ちよかったぞ」


 ダンさんはお風呂は長湯しないのね。バージさんはそれに付き合ったって感じかしら。


 「お風呂上がりはやっぱりこれよね」


 コトンと私の前にイエローグレープジュースを置くカエラさん。あ、嬉しい!飲みたかったの。


 「で、大人はこれ」


 エレンさんがバージさん達の前においたのは、仕込んでいた赤ワイン。


 「お、1日の終わりの楽しみだな!」

 「仕込んでいたのか」

 

 嬉しそうに味わって飲むバージさんと一気に飲み干すダンさん。もうデキャンタからおかわりを注いでいるわ。作った甲斐があるわね。あ、そうだ。


 「しゅみましぇん、りもこんとってくだしゃい」

 「ん?何調べるんだ?」


 ダンさんがホラと渡してくれたリモコンで、TVをつけて周辺地図を開いたの。すると現在位置から近くになったパルフール山脈。相変わらずポータルスポットと魔鉱石ポータルスポットがあったけど。見たかったのは麓に街があるかどうか。


 「あ、むりゅかのまちがあるんでしゅね」

 「ん?ムルカの街がどうした?」

 「まもにょのひがいをうけてにゃいかとおもったでしゅ(魔物の被害を受けてないかと思ったです)」


 そうポータルスポットは魔物を呼ぶし、それが二つあるという事は危険が増すのよね。だからヤナ族もしかして街に逃げて来てないかな、って思ったのよ。


 「その可能性もありますが、多分大丈夫でしょう」

 「あら、あなた。まだ髪が濡れてますわ」


 丁度そのタイミングで上がって来たグラレスさん。シャルさんはマイペースにグラレスさんのお世話してるわね。


 「ムルカの街は別名魔導具の街だ。街を魔導結界で常に囲っている。そうそう破れはしないだろう」


 あ、ルインさんも上がって来たのね。でも魔導結界かぁ、凄いわね。というか魔導具の街ってルインさん好きそうな街よね。


 「あ、前にルインがなかなか動かなかった街よね」

 「ああ、魔導具屋で話し込んで出発が遅れたやつか」

 「屋台でも似た様な事をしてたわ」


 そう思っていたら赤獅子メンバーからやっぱりって情報が上がってきたわ。これにはルインさん「ぐっ、それは仕方ないだろう」って言ってたけど。多分また同じ事になりそうね。


 「今回はルインさんも抑えてもらいましょう。情報を集めたら即移動しますよ」


 真面目な表情でグラレスさんがルインさんを抑制していたわ。グラレスさんには何かが見えているのね。またスキル上がったかしら?


 「ムルカの街までハイヤーで大体2日ってとこか……」

 

 バージさんも行った事があるみたい。概算で到着日数を予測していたわ。今度は街道だし、順調にいけそうよね。でも魔導結界って良い物あるなら他の街もそうすればいいのにって言ったらね……


 「街全体を覆う魔導結界を作るには、相当な年数と資金が掛かるらしい。どうやら歴代の魔導具士が少しずつ手を加えて今の大きさになったみたいだぞ」


 魔導具オタクのルインさんがそう教えてくれたの。って事は私の魔導具ってやっぱり規格外だわね。うん、ムルカの街で出すの控えよ。あ、でも作ったやつなら出せるわよね。ぴょんとバージさんの膝から降りて、ルインさんの手にリモコンを渡す私。この後、魔導エクレシア辞典を見るだろうからね。


 「あら、ユイちゃん何かするの?」

 「おかしちゅくるでしゅ!」


 まだ夕飯までには早いから、作りたいもの第二弾やれるかなって思ったのよ。トコトコキッチンに歩いていってペタンと床に座る私。その後をカエラさんとエレンさんシャルさんもついて来てくれたからある実を取り出して、これを割って貰う様にお願いしたの。


 「え?これなあに?ユイちゃん」

 「割ると白くてヌルヌルしているわ」

 「でも良い匂いね」


 3人が殻を剥いてくれたのはアーモンドの形をした大きな実。中に白い果肉が入っているけど私が欲しいのはその種。でもね……


 「そりぇ、そのままたべてみてくだしゃい」


 現地の人はそのままフルーツとして食べるって言っていたから、私も食べてみたかったの。私の分をカエラさんに一口サイズにして貰ってたべてみたらね。

 「おいしーでしゅ!」

 「へえ、爽やかな味」

 「でも実が少ないわ」

 「種が大きいですわね」

 そう、種の周りについている果肉はほんの少し。でもライチみたいな味がするのよ。


 「ユイちゃんこれが食べたかったの?」


 美味しそうに食べるシャルさんが私に尋ねてきたけど、違うんだなぁ、これが。


 「ちゅくりたかったのはこれでしゅ!」


 アイテムボックスから取り出したのは雑貨魔導具から購入したもの。


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 見つけていたの、この魔導具!そして探したわよ、カッカオーの実!王都で見つけた時は叫んだわ。だってアレが今後食べられないなんて悲しいもの。


 不思議に思う女性陣に「しゅごくおいしーものでしゅ」ってだけ伝えて手伝って貰ったの。最初はココアからね。これは10分で出来るから。で、出来た物にたっぷりミルクと砂糖を入れて一口味見。


 「あまーいでしゅ!」


 口の周りを茶色くしながら美味しそうに飲む私に、最初敬遠していたカエラさんが挑戦してみたの。まあ、この世界茶色い飲み物ってそうないものね。するとね……


 「お、美味しい!」

 「え?本当?」

 「まあ!私にも下さいませ」


 と、こうなるわよね。特に女性にはかなり好評だったわ。男性陣はルインさんとグラレスさんから好評。バージさんダンさんは、甘すぎるだって。苦くも出来るけどだったらチョコで驚かそうって思って。今回は丸い形のチョコボールを作ったわ。勿論ミルクチョコよ。

 

 「わいんといっしょにどーじょ」


 バージさんとダンさんは完成品をワインと一緒に食べてようやく「美味い!」「イケる!」が出たわね。女性陣は「こんな至福があるなんて!」って感激してたの。その様子を見るだけで私はにっこり。だって3歳のこの身体、あんまり食べちゃダメだろうなって思ってね。何事も程々が一番よね。


 「あら?バージ。ユイちゃんを見て」


 シャルさんに後で聞いた話なんだけど、私また目を閉じてふらふらしてたんですって。今日はお昼寝してなかったもの。眠かったのよ。


 「流石に疲れたか。寝かせてくる」

 「バージ父さんよろしくな」

 「兄さんだ!」


 ダンさんに揶揄われながらも、いつも世話をしてくれるバージさん。お世話になってます。まあ、この時は旅のお供を作ったぐらいの感覚だったけど、まさかコレが役立つとはね。


 その話は後でわかるわ。

 

 この日は私、みんなでチョコパーティーをした夢を見ていたの。夢の中まで甘かったのよ。

 でもこんな幸せな夢ならいつだって大歓迎よ。

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