第28話魔導具の街ムルカに行こう

 旅のお供も作り、よりお茶の時間が楽しくなったハイヤーの旅。ハイヤーに乗りながら仕込みをして、景色を楽しんで、時々魔物と戦って。魔導エクレシア辞典も特に動きもなく、順調に進んだの。


 『間もなくムルカの街に到着します』


 タクの言葉に窓に張り付く私。


 「ありぇがぱるふーるさんみゃくでしゅか!」

 「ああ。その手前にある街がムルカの街だ。薄い膜が見えるだろう?あれが魔導結界だ」


 遂に到着した街の景色を見て騒ぎ出す私に、バージさんが一緒に覗き込んで教えてくれたの。窓からは雄大な山脈の麓に城壁で囲まれた街が見えたわ。その街を更に半円の薄い膜が覆っているの。でも街全体を覆っているのは良いけど……


 「どーやってはいりゅでしゅか?」

 「ああ、それは正面に門があるだろ?あそこから出入りできるんだ」


 バージさんが指差す先にはかなり大きな門があったわ。確かにそこだけ膜は張ってないわね。そしていつもの如く、中に入る為にまた長い列ができていたの。ここはまたグラレスさんにお願いかしらね。でも私忘れてたのよね……このハイヤーも魔導具だって事。普段他の人からは馬車にしか見えないから油断していたのね。


 ビー!ビー!ビー!


 「な、なんでしゅ?」

 「ああ!そうでした!魔導検査機に引っかかりましたか!」


 長く待ってようやく私達の番になった時、門に入ろうとしたらいきなり鳴り出した音。バタバタと集まって来た衛兵さんがハイヤーの周りを取り囲んだわ。訳がわからず狼狽える私に、何やら事情を知っていそうなグラレスさん。


 「どーゆーことでしゅ?」

 「……この街は魔導具の街。最新の魔導具を扱っている街です。ですからこの街で見た事もない魔導具を所持していた場合、魔導具検査機が反応して魔導具が取り押さえられるんですよ……」


 頭を抱えるグラレスさんによると、未知の魔導具の危険性もわかる街だからこその防衛機能だそう。ええ!でもタクを取り押さえられたら困る!

 

 「まずは説明にいきましょう」


 すぐに気持ちを切り替えたグラレスさん。ハイヤーから降りる決断をし、そのグラレスさんを守る様にダンさんルインさんが先に降りたのよ。3人が降りたその時、兵士さんの間から1人の男性が現れたの。


 「珍しい警報が鳴ったと思ったらグラレスさんじゃありませんか」


 眼鏡をかけた知的な男性が出て来たんだけど、どうやらグラレスさんの知り合いみたいね。


 「ガランでしたか!これは助かります。ちょっと事情がありまして……」

 「ふむ、グラレスさんが関わっているとなれば、これは話をまずは聞きましょうか。但しその魔導具は調べさせて頂きますよ」

 

 ガランさんの言葉にグラレスさんが心配そうに私を見ていたの。私はタクに大人しくする様にお願いして、頷いたわ。


 「……仕方ないですね。分解せずにただ見るだけなら構いません。良いですか?ただ見て調べるだけですよ」

 「わかっていますよ。ただ危険性がないか調べるだけですから。その間詰所の待合室で話を聞きましょう。あ、1人馬車に残って下さい。移動させますから」


 冷静に指示を出すガランさんと言う男性。ハイヤーには私が残ろうと思ったけれど、グラレスさんから

 「ユイさんは一緒に来てください」

 と言われ、ハイヤーは立候補してくれたルインさんに任せる事に。


 私達はルインさんを残して、詰所の待合室に移動したの。移動するまでキョロキョロと辺りを見回す私。明るい通路に綺麗な絨毯が敷かれ雰囲気も詰所というより貴族の屋敷の様。


 「さあ、どうぞ」


 ガランさんが案内してくれた待合室も魔導具の光によって明るく照らされ、空調が効いているのか涼しかったわ。


 「ふふふ!どうですか!最新の空調魔導具は!室内を過ごしやすく尚且つ新鮮な空気を取り入れているんです!みんな入ってここで驚くんですよ!……でも皆さん普通ですね?」


 自信満々に紹介するガランさんには悪いけど、ハイヤーやテントの中は常に空調が効いていてみんな慣れているものね。みんな苦笑いしているわ。


 「ああ、そうですね。私も初めは驚きましたから」

 「ふむ、初めは……ですか。グラレスさん、まずは座って話しましょうか」


 ガランさんがソファーに座り、グラレスさんとシャルさんも向かいのソファーに座って、ダンさん達やバージさんがその後ろに控えたの。私も、グラレスさんがバージさんに合図をしたと思ったらまたソファーに座らされたわ。

 

 「グラレスさん、奥方様は初めましてですが、いつの間に子供まで作ったんです?」

 「いや、ガラン。ユイさんはそこに立っているバージの妹ですよ。ですが、あの魔導具の持ち主ですからね」

 「は?この子が?」


 グラレスさんがガランさんに、私の事をかいつまんで話をしてくれたの。あ、勿論私に許可を取ってからだけど。私が渡り人である事、渡り人のスキルで出した魔導具である事、できれば大袈裟にしないでほしい事を上手く伝えてくれたわ。


 そして、改めてグラレスさんが紹介してくれたガランさんは、この街の魔導具ギルドのギルド長さん。今日はたまたま詰所の魔導具点検で来ていたみたいなの。私の話を聞いて驚いていたのは、グラレスさん達と一緒で、ビーツ地方出身なんですって。となると……


 「なんと!そうでしたか!しかもクレーリア様の祝福まで!ええ、それはもう了解しました!」


 ガランさん私の手を握って感動していたのよ。すぐにバージさんに引き離されていたけど。クレーリア様、渡り人の下地を整えてくれてありがとうございます!って本当に思ったわ。


 「でも私は良いですが、他の職員が納得しないでしょうね……」


 バージさんによって私から引き離されたガランさんが一気にテンションが下がった理由は、新しい魔導具を見た職員達の事。職員さん達ってルインさんが増殖し、更に探求心が加わった感じらしいの。……タク大丈夫かしら……?そんな私の様子を見たシャルさんが提案してくれたの。


 「ねえ、ユイちゃん。あのチョコレートの魔導具を置いていくのはどうかしら?ムルカってカッカオーの産地でしたわよね、貴方」

 「成る程!あれを解析させて、チョコレートを増産させるんですね!確かにこの地には良いかもしれません!」

 「なんです?チョコレートって?」


 シャルさんの提案を理解し、同意するグラレスさん。ガランさんはわかってないけど。


 「これでしゅよ。たべてみてくだしゃい」


 私が箱に詰めたチョコレートをアイテムボックスから出して、ガランさんの前に置いてみたの。流石探究心のある魔導具士ね。色々な角度から見て、少し舐めてから口にすぐ入れたわ。


 「こ!これがあのカッカオーからできるんですか!」


 食べてすぐ、目がカッと開いたガランさん。余りの美味しさにすぐにもう一つ口に入れていたわ。食べながら

 「もしこの製品を作る魔導具を我々魔導具ギルドが製造したら、商業ギルドにも領主にも貸しを作れるのではないか……いや、待て。まずは魔導具そのものを見てみない事には……」

 と呟いていたからグラレスさんに確認を取って、チョコレート製造魔導具をだしたのよ。


 そこからはもうガランさんは自己の世界へ突入。「おお!」「なんと!」「ふむ……こんな術式が……」「これはなんだ?」って呟いて色々触っていたわ。尚更タクが心配になっちゃった。


 ガランさんと話が出来なく鳴って一旦アイテムボックスにしまうと「ああーー‼︎」と叫び声が上がったけど、ようやく正気に戻ってくれたガランさん。


 「良いですか?ガラン。この魔導具を表に出す事は許しません。ですが、この製品を作る工程がわかるこの魔導具を売りましょう。貴方達なら、これに似た魔導具を作れるはずです」

 「ふむ!その挑発に乗ろう!我らなら同じ様な魔導具は作り出せる!なんせ基になるものがあるからな!」


 グラレスさんがガランさんに魔導具の取り扱いについて話しながらも上手く話を持っていってくれたわ。それに乗ったガランさん。ここからは動きが早かったの。即座に料金の話になり、私が支払ったMP量を言うと「安すぎる!」と倍の金額で買い取ったガランさん。お金は即金だったわ。チョコレート魔導具を受け取ってマジックバックにしまうガランさんの顔がそれはイキイキしていたわね。


 その後、タクの確認をしていた詰所の中庭に移動した私達。ガランさんの姿を見るなり、職員さんが詰め寄っていかに凄い魔導具かを説明していたわ。ルインさんは誇らしげに立っていたけど、タクによれば『危うく分解されるところでした……』って疲れた声出していたわね。


 そしてタクを欲しいと言い出す職員さん達に、ガランさんはチョコレートを1人1人の口に放り込んだの。あ、箱ごと渡していたのよ。そして上がる「美味い」コール。


 「これが我が街の名産カッカオーから出来る!その製造魔導具を手に入れた!これを解析・増産させてこの街を活性化させる事が出来るのは我らしかいない!そしてあの小憎たらしい商業ギルドに一泡吹かせる計画に君らも乗らないか!」


 どうやら商業ギルドとの何かしらの確執はあるみたいね。その名前を出した途端急に態度が変わった職員達。タクよりもチョコレート製造魔導具に興味がいったのね。ガランさん、流石に職員の扱いわかっているわ。


 「では我らはこれにて失礼する!手間を取らせたな、グラレスさん、ユイさん!」


 嵐の様にバタバタと魔導具ギルドへ戻って行ったガランさん達を見送って、全員ため息をついたわ。


 ようやく解放された……


 タクを車庫に戻して兵士さん達にも挨拶をし、門を出た私達。大人しく今日はこの街の宿に泊まる事になったの。コテージテントを出そうものならまたガランさん達の突撃がありそうだもの。でもかえって私はウキウキ。


 「ばーじしゃん、どんなやどにとまるんでしゅか?」

 「グラレスさん達もいるからな。ちょっと良い宿に泊まると思うぞ」


 良い宿かあ。旅の楽しみってやっぱり宿よね。

 見たところ綺麗な街だし期待大ね!


 あ、そうそう。この街がチョコレートの街と呼ばれる様になったにはこの半年後。ガランさん達頑張ったのね。

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