2章 パルフール山脈へ

第13話 オックスバードを保護しよう

 出発の日は清々しい朝焼け。天気は最高、準備は万端。みんなの様子は……


 「だいじょーぶでしゅか?」

 「……済まない……ちょっと待ってくれ……」

 

 ダンさんがしゃがみ込んで、動く事ができないみたい。どうやら昨日アレからまた飲まされたみたいなのよね。今朝起きて支度した段階で限界だったみたい。


 「ユイちゃん、ごめんなさいね。ウチの馬鹿リーダーが、限度を知らなくて」

 「全くもう!後は断りなさいって言ったのに。付き合いが良すぎるのもこうなると問題ね!」


 私に謝るエレンさんとぷりぷり怒っているカエラさん。その様子を「ダンだからねぇ」とはっはっはと笑う寛大なグラレスさん。でもグラレスさんもかなりの量飲んでいた筈なんだけどね。


 メンバーが自業自得だからと突き放す中、「ダンさん、この二日酔いに効く薬飲んでみて」とシャルさんが、ダンさんに薬とお水を渡しているわ。流石準備がいいわね、シャルさん。


 まあ、実のところ後は寝ていてもいいのよね。そう、移動は「タク」にお世話になるから、既に魔導ハイヤーを準備しているの。と言う事で、ある人はずっと周りをぐるぐるしているのよ。


 「これが魔導ハイヤーか……!なんて見事な!大きな馬車にしか見えないこれが、オークを跳ね飛ばす仕掛けがあるとは!しかもどの角度からみても、馬車にしか見えないこれの本当の姿は……?」


 魔導具オタクのルインさん、色々な角度から魔導ハイヤーをじっくり観察しているの。見てると面白いのよね。で、実はさっきから静かにしているバージさんも二日酔い。昨日はバージさんにとっても本当に美味しいお酒だったのね。……二人とも仕方ないなぁ。


 「たく。まどうきゅーきゅーぼっくしゅにふつかよいをなおしゅくしゅりありましゅか?(タク。魔導救急ボックスに二日酔いを治す薬ありますか?)」

 『勿論常備しております。魔導救急ボックスの丸い形の袋から酔い止めシールを取り出して下さい。肌につける事で効果がすぐに現れます』


 私が尋ねるとハイヤーのドアを開けて、床から魔導救急ボックスを出してくれたタク。トコトコ歩いてボックスの中から丸い袋を取り出して、バージさんのもとへ。


 「ばーじしゃん、こりぇつけてくだしゃい」

 「……ん?これをどうするんだ……?」


 シールってそういえばこの世界に無い物だったわね。私がペリッと剥がして、屈んで貰ったバージさんのおでこにペタッと貼ると、淡い光が一瞬バージさんを包んだの。光が収まるとそこにはいつも通りのニヤリとしたバージさん。シールは用が済んだら自然に落ちるみたい。


「ありがとうな」と言って私を抱き上げるバージさん。

「のみしゅぎはだめでしゅよ」

「気をつけるさ」


 バージさんに注意をする私の隣りでは、ルインさんがシールを手に取り不思議そうにしていたの。気になる様子のルインさんにシールを渡したら、嬉々としてダンさんで試していたわ。


 「助かったぜ。流石ユイだな」


 シールのおかげで復活したダンさん。頭を撫でながら私にお礼を言った後シャルさんにもお礼をいっていたわ。「全くもう」と言いながらもパーティの様子が普段通りに戻って嬉しいエレンさんにカエラさんは顔を見合わせて笑っていたし、うん、出発の雰囲気になったわね。


 「待たせたね!さあ、餞別さ!今日の朝飯にでもしておくれ」


 丁度いい時に宿から出てきたアイラさん。実はアイラさんとグリッドさんがお弁当を作ってくれていたから待っていたのよね。グラレスさんがお礼を言っている間に、私も感謝と共にグリッドさんから受け取ってアイテムボックスの中へ収納。ハイヤーの中で朝食にする予定なの。


 さあ、準備は出来たわ!早速ハイヤーに乗り込むメンバー達。そういえば全員中に入るのが初めてだったわね。中に入って驚いたり興奮したりで、タクに出発の指示を出すまで少し時間かかっちゃった。


 『では、王都ベトウェルに向けて出発します』


 タクの出発の合図で動き出した魔導ハイヤー。そう、まずは王都を目指す事になったのよ。そこからパルフール山脈へ向かうのですって。王都も初めてだから楽しみだわ。ワクワクしながらハイヤーの窓を開けて、アイラさん達に手を振る私。


 「無事に帰っておいでよ!」

 「気をつけてな!」


 馬車が動きだすまで見送ってくれていたアイラさんとグリッドさん。優しい人達とも一時的にお別れね。


 「いってきまーしゅ!」


 元気よく挨拶して木漏れ日の宿を後にしたのは、1時間前かな。で、今の車内の様子は……


 「こんな快適な移動になるとは思ってもみませんでしたな」

 「そうねぇ。移動でお尻が痛くなるどころか、この座り心地は素晴らしいわ」


 後部座席の二人掛けの席にいるのは、食後のお茶を飲み、まったり流れる景色を堪能しているグラレスさんとシャルさん。一番この車両に馴染むのが早かったのよね。


 「ねえ、コレって二人の共通のページ開いているんじゃない?」

 「そうね。こうやって二人で見れるなら時間も短縮できるわ」


 グラレスさん達の後ろの二人掛けの座席にはエレンさんとカエラさんが座っているの。移動中に魔導エクレシア辞典が見たいと言っていた二人。一緒に見て本から知識を蓄えているのね。仲良いわ。


 「……ぐがぁ……」


 エレンさん達の座席の通路を挟んで、二人掛けの椅子に悠々と一人で座っているのはダンさん。リクライニングまで使いこなして気持ち良さそうに寝ているわ。昨日は眠り浅かったのかったのかしらね。


 そして私達はダンさんの前の席、グラレスさん達の横の二人掛けの席に座っているの。バージさんもダンさん同様ぐっすりよ。私もジュースを飲んで景色を楽しんでいるんだけどね。……一人足りないでしょ?


 「おお!こんな感じだったのか!今はオートモード……?ふむ、勝手に目的地まで連れて行ってくれる設定か。で、ここが減速でここを踏むと動き出すのか?……え?手動も出来る?なんと!素晴らしい!」


 楽しそうでしょ、助手席にいるルインさん。タクに色々聞きながら何かにメモとっているの。多分一番この車内で楽しんでいると思うわ。そのうち運転しそうな勢いね。


 私も魔導具ショップサイト開いてみようかしら、って思っていたら後ろから「え?」「何これ?」ってエレンさんとカエラさんの動揺した声が聞こえてきたの。思わず後ろを振り返ってみたらね。


 「おっくしゅばーどでしゅか?(オックスバードですか?)」

 「そう。いきなりパラパラページがめくれて、このページで止まったのよ」


 私の質問に本を指さしながら教えてくれるカエラさん。必要な時にそう言う動きをする事がある事を伝えたら、助手席のルインさんが「もしかしてあれの事か?」って教えてくれたの。


 「たく!とまってくだしゃい!」


 思わずタクに指示を出しちゃったけど、ルインさんが指差す先には羽がいっぱい散らばっていたのよ。その先には血の跡も。


 「俺が行って来る」


 どうやら騒ぎでバージさん起きたのね。いつの間にか起きていたダンさんも「あー……ゴブリンにやられたか」って言ってバージさんが出た後をついて行ったの。普通はこんなの当たり前の光景で気にする事もないらしいけど、魔導エクレシア辞典が反応したから念のため二人に辺りを見て貰ったらね……


 「か、かわいーでしゅ!」

 

 バージさんが「誘引解放アトラクドリリース」で探してくれたら、ウサギやリスや多くの鳥達に混ざって集まっていた真っ白な子。その子を拾い上げて他の子達を帰らせたバージさん。スキルを封じてもその子はバージさんの手から逃げなかったの。


 「ほら、多分コイツの事だろ?余り見た事ないしな」


 車内に戻ってきたバージさんとダンさん。私の膝にその子をそっと置いてくれたの。恐る恐る触ってみたら「ヒューイ……」と力なく鳴くものだから思わずみんなの顔を見ても、困った顔ばかり。


 「オックスバード……幸運と繁栄の鳥と呼ばれる鳥型の魔物。成鳥すると鮮やかな七色の羽を持つ希少種。乱獲された時期もあり、現在絶滅したとされている。生まれて一週間から半年ほどの間大きさが変わらず、真っ白な羽毛に包まれ多くの貴族の愛好家に高値で取引されていた。鳴き声で成長度合いを判別できる。「ヒューイ」は生後一週間〜十日。以後「ピューイ」と鳴き出し、「ピピッ」と鳴けば成鳥となる。

 因みに現在の状態は空腹、衰弱を伝えている。至急魔導具ショップサイト内〈雑貨魔導具〉より〈魔導テイムポシェット〉を購入されたし。雑食のため、エサはミンチ肉でも可……ですって、ユイちゃん」


 魔導エクレシア辞典を持っていたエレンさんが読み上げてくれたおかげで、現状がわかり急いで魔導具ショップサイトを開いたら相変わらずおススメがあったわ。


 〈雑貨魔導具〉←貴方におススメ!


 魔導テイムポシェット(小型魔獣専用) MP10,000

 ***小鳥の魔物を拾った貴方に朗報です!こちらのポシェットに触れた魔物を貴方がテイム出来るチャンスですよ!この魔導ポシェットの中はテイムされた魔物にとって、安心して休養出来る快適空間です!勿論洗浄、殺菌、防臭、空調設備機能付き!今ならヒナ用さし餌スプーンもついてこの価格!さあ、今すぐお買い求め下さい!***


 もうすぐに購入したわ。そしてポシェットをオックスバードに触れさせたら……


 『オックスバード(幼鳥)をテイムしますか? YES/NO』


 この指示が目の前に出てきて「いえしゅでしゅ!(イエスです!)」って口で言ったの。そして次の指示が『名前をつけて下さい』だったのよ。うーんって悩んでいる間、バージさんが魔導フードプロセッサーを出す様に指示してくれたから、お肉と一緒に出してエサ作りをみんなに任せたの。


 テイム前でも懐っこいこの子に、女性陣が交代で餌を与えてくれてね。小さいのに結構ガツガツ食べていたわ。食べながら「ヒューイヒューイ」鳴いて可愛いったら。女性陣はみんな骨抜き状態ね。で、ようやく決まった名前が……


 「ウィル?」

 「そうでしゅ」

 

 私を抱き上げながら意味を聞いて来るバージさん達に、何とか説明したの。そしたら嬉しい事を言ってくれたエレンさん。


 「“意思“って意味ね……うん、良い名前ね」

 「良いわね!魔導エクレシア辞典が導くものを探し出すって言うのも!」

 「初心を忘れる事なく進めそうですね」


 エレンさんに続き、カエラさんとグラレスさんも思いを汲み取ってくれたわ。


 私ね、魔導エクレシア辞典に導かれて旅を決めたでしょ。だからこれからも度々導かれると思うのよね。魔導エクレシア辞典がどこに私を連れて行ってくれるのか、諦めないで探し続けた先にあるものを見たいって思っていたの。その意思を忘れない為にも初日に出会ったオックスバードにウィルってつけてみたのよ。そのウィルは既にポシェットの中でお休み中だけどね。


 あ、ウィルで思いだしたけど……


 「ばーじしゃん。まものも〈ゆーいん〉できるようになったでしゅか?(バージさん。魔物も〈誘引〉出来る様になったですか?)」

 「ああ、俺が呼べるのはまだ小さな魔物、それも無害な魔物だけだがな」


 ニヤリと嬉しそうに言うバージさん。少しずつでも魔導エクレシア辞典を読んだ成果が出てきているとの言葉に、ざわめき立つ車内。


 この後王都まで進む魔導ハイヤーの中では、魔導エクレシア辞典を読む順番をかけて、全員で真剣にジャンケン大会が開かれたわ。

 ……ジャンケン異世界にもあったのね。

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