第17話 寄り道しよう 2

 「こりぇはしゅごいでしゅね……」


 魔導リア・ウォッチで魔物がいない事確認したあと、ポータルスポット内に入った私達。目の前に飛び込んで来た景色は、辺り一面青い宝石に囲まれたキラキラしている空間だったの。角度によっては虹色にも見えるわね。


 口を開けて見上げていたら

 「ユイ!テントを出してくれ!」

 とバージさんに呼ばれたの。あ、そうね。万全を期してから作業に当たった方が良いものね。

 「はいでしゅ!」

 アイテムボックスからテントを出して、みんなが結界内に入ったのを見届けてからステータス画面を開いた私。


 そして前回同様光が辺りをつつんだわ。前回と違ったのは虹色の光だったことと……


 『 エターナル魔石に変換しますか?

   →変換後は一つの魔石に変化します。


   このままバージョンアップしますか?

   →一つ限定選択可能 ・デラックス魔導テント

             ・魔導ハイヤー


   →三つ選択可能 【生活魔導具サイト】の中から選択

            (購入済み魔導具限定)


   以上から選択して下さい 0:05 』


 「選択が変わっているわ!」

 「しかも時間制限ありかよ!」

    

 エレンさんやダンさんが叫んだって事は、今回もみんなに見えているのね。しかも時間制限付きで。……でも私この中なら一択なのよね。


 「わちゃしがえりゃんでいいでしゅか?(私が選んで良いですか?)」


 みんなを見上げて確認する私に、バージさんが頷いて頭を撫でてくれたわ。みんなも「当然!」って言ってくれるの。だからこそこれを選ぶわ。


 「でらっくしゅまどーてんとのばーじょんあっぷおねがいしましゅ!(デラックス魔導テントのバージョンアップをお願いします!)」

 『承認しました』


 私が選んだのはデラックス魔導テント。気持ちの良いみんなと一緒にもっと快適に過ごしたいもの。


 私が回答した途端に了承の言葉と共に、虹色の光がテントに集まり出したわ。その間僅か数秒。一瞬にしてただの洞窟に変わり辺りが真っ暗になったの。でも大丈夫。


 「おーい!みんな魔導リア・ウォッチのライトつけれるかー?」


 最初にカチッとウォッチライトをつけたダンさん。それから次々と一人ずつライトをつけていったわ。うん、全員いるわね。


 「ほわあ!みためがかわってましゅ!」


 私は気になっていたテントを照らしてみたの。すると、コテージタイプのテントに見た目が変わっていたわ。前回の三角テントで中があれだったんだもの。これは期待しちゃうわね!


 「ユイ、ほら一番に入って見ろ」

 「はいでしゅ!」


 バージさんに背中をポンと押されて、トテトテ歩いてテントの入り口を開けると、パアアっと明るくなるテント内。


 まずは玄関ね。黒い大理石の床に白い壁、天井には北欧風デザインの照明。一段上がって焦茶の木目調の広い通路に、左右に黒が基調の扉が二つずつ。スリッパが人数分用意されているから今回は日本式ね。みんなに今回から靴を脱いで貰う事を説明すると、


 「へえ、面白いわね」

 「あらでも楽よ、コレ」

 「ふふっ!肌触りのいい履き物ですわ」


 靴を脱ぐ事に抵抗があるかと思ったら、スムーズに履き替えてくれたのよ。しかも好印象ね、良かった。


 「この通路にあるドアは開かないが、どういう事なんだ?」


 スリッパに履き替えたバージさんやダンさんが、早速内覧しようとしていたんだけど開かないみたい。私がドアにペとっと触ってみると、情報が流れて来たわ。


 「あたらしいしゃいとがひりゃいたらあくとびらでしゅね。(新しいサイトが開いたら開く扉ですね)」


 そう言ったらみんな「へえ、楽しみが増えたな」だって。どうやらまだこのテントは成長するのね。うん、楽しみだわ。さて……と、奥はどうなっているのかしら?

「ちゅぎいきまーしゅ(次行きまーす!)」

 トテトテ歩く私の後に続いてみんなも移動。全員私より先には行かないのよね。ふふっ、なんか私が開催している内覧ツアーみたいね。そして広い通路の行き止まりの扉を開けたら、そこはリビングだったわ。


 「ふわあ!ひろーいでしゅ!」


 通路入り口から入って左右のコーナーには、ラウンドソファーと丸いテーブルが一セットずつ。部屋の中央には全員が一度に座れる12人用ダイニングテーブルと椅子のセット。なんと大型壁掛けTVつきよ!え?見れるの?後で確かめなきゃ。


 そして更に奥には広くて長い作業台と今まで購入した家電魔導具が綺麗に収納されたオープンキッチン。しかも私もちゃんと作業しやすい様になっているのよ!


 「まあ!これでみんなで料理ができるわね!」


 シャルさんが喜ぶ姿に苦笑をする女性陣。うん、シャルさんはサポートお願いします。キッチンの使い易さを確認する女性陣とソファーの座り心地を確認する男性陣。リビングに全員が集まっているのに全く狭く感じないのよ。むしろまだ広いわね。色合いもシックで落ち着く大人の空間って感じ。


 「もしかしてこちらはお風呂では?」


 みんなが寛ぐなか、お風呂がどうなっているのか気になっていたのね。お風呂好きのグラレスさんが私を呼んだの。私も気になっていたからキッチンからグラレスさんが指差す引き戸を開けると……


 正面にシックなデザインの洗面台が5台並んでいたの。あと魔導洗濯機もここね。そして左右にまた扉があったわ。多分男女別のお風呂なのね。とりあえず全員で男性用にする左側の扉を開けたら、そこは個室トイレ付き脱衣所。10人くらいは一度に利用出来そうね。脱衣所奥にあるのはもちろん浴室。でも……


 「なんと!素晴らしい‼︎」


 グラレスさんの声が反響するくらい広い浴室。手前にシャワー付きの洗い場。そしてなんと掛け流し温泉なのよ!しかも風流な岩風呂。壁は檜だから檜のいい香りに、水量豊富に流れ出る温泉。泉質は炭酸水素塩泉、炭酸ガスの含んだ温泉ね。サッパリとした清涼感を感じる温泉だって。触ったら情報が入って来たわ。


 「びはだにいいみたいでしゅ(美肌に良いみたいです)」


 私の言葉に喜ぶ女性陣。男性陣は気にせずお湯の温度を確かめているわね。私も確かめたら丁度いいお湯なのよ。という事でお風呂好きなグラレスさんや女性陣の願いで、全員お風呂に入る事に。あ、タオルや石鹸、シャンプー、コンディショナーはもちろん設置されていたわよ。


 「ねえ、ユイちゃん。お風呂上がりは着替えていいかしら?今日はもう移動無しにしない?」


 カエラさんの提案に、全員一致でこのまま宿泊する事が決定したの。この空間を楽しみたいのは全員一緒だったのね。そして着替えを取りに寝室への扉を開けると……


 「凄え!貴族の屋敷みたいだな!」


 そう、ダンさんが言う様に通路から装飾された壁に至るまでモダンな造りになっていたの。部屋数も増えていたわ。とりあえず、以前と同じ位置の扉を開けるとそれぞれの荷物がきちんとあったんだけどね。


 「おっきなべっどでしゅー!」


 思わず飛び込んでいっちゃったわ。キングサイズよ!しかも寝心地のいいマットレスに、触り心地のいいシーツとコンフォーターよ!あ、コンフォーターって、掛け布団とベッドカバーが一体化したホテルにある様なかけ布団よ。私知らなかったけど、こんな名前だったのね。


 顔を埋めて寝転んでいたら「寝る前に風呂入るぞ」とバージさんにヒョイっと抱えられたわ。危なく寝るところだったものね。そうそう、部屋の中も照明からクロークまでグレードアップしていて、各部屋にトイレまで設置されていたのよ!嬉しいー!


 快適空間に変わった部屋から出ると、みんなも同じタイミングだったみたいね。移動中一人一人から興奮した感想が届いたわ。特に女性陣から大絶賛だったわね。


 洗面所まで来て、私どっちに入ろうって思っていたら「ユイちゃんはコッチよ」ってエレンさんに抱き上げられたわ。いつもはバージさんと一緒に入っていたからね。私3歳児だし。


 今回から女性陣と入る事になった私。みんなやっぱりスタイル良いのね。思わず平たい自分の身体を見ちゃったわよ。ま、成長するとなんとかなるでしょ。


 でね、試しに一緒に連れて来たウィル。今私の隣のシャワーで一生懸命に水浴びしているの。その様子が可愛くてみんな動きが止まっていたわ。ほっこりしちゃった。


 そのまま温泉にぷかぷか浮いて居るウィルは、気持ち良さそうに目を閉じていたわ。ウィルがあまりに気持ち良さそうで、私も目が閉じそうになって湯船で溺れかけちゃった。シャルさんびっくりして助けてくれたわ。……一人ではまだまだ入れないわね。


 眠い目を擦りながら着替えをカエラさんやエレンさんに手伝ってもらった私。なんとか着替え終わって、リビングに戻るとバージさん達は既に戻っていたわ。あ、でもルインさんとグラレスさんはまだ入って居るみたいね。


 「ユイ、飯にしないか?」

 「腹減ったぁ」


 私を見るとすぐに空腹を訴えるバージさんとダンさん。じゃ、作って居る暇はないわね。とアイテムボックスから作り置きの料理を出す私の手伝いをしてくれる女性陣。そのおかげですぐに準備ができてね。グラレスさん達を待とうと言ったら

 「多分まだまだ出てこないと思いますわ」

 「ルインもね」

 シャルさんカエラさんが呆れた様に言い切ったから、先に食事を頂く事にしたの。で、この後の記憶が無いのよね。


 後から聞いた話だけど……


 「ねえ、バージ。ユイちゃん食べながら寝ちゃって居るわ。もう寝室に連れていってあげて」

 「ああ、そうだな」

 「見て、ウィルまで一緒になって寝て居るわ」

 「可愛いですわねぇ」


 カエラさんが笑いながらバージさんに頼んでいる通り、寝落ちした私。バージさんも食べるの途中だったけど一旦切り上げて私を抱いて寝室まで連れて行ってくれたみたいなの。ついでにウィルも。二人共お昼寝していなかったからかしらね。


 寝室の寝心地のいいベッドに横になって、その日は木漏れ日の下でゆらゆら気持ちいいハンモックに乗って眠っている夢を見たわ。


 新しくなった私達の家、最高!   

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る